[0685] 脳血管障害片麻痺患者の歩行自立度における歩行中の下肢荷重率変動について
Keywords:脳血管障害片麻痺患者, 歩行自立度, 麻痺側下肢荷重変動
【はじめに】脳血管障害片麻痺患者(CVD患者)において,歩行の自立は重要な目標であり,今日まで歩行の自立を妨げている様々な要因が報告されてきた。特に歩行速度,麻痺側下肢運動機能,片脚立位保持時間,高次脳機能障害(半側空間失認など)などが歩行自立に関連していると重要視されている。歩行速度が麻痺側のBrunnstrom Stageや麻痺側下肢筋力が関係することは幅広く知られている。同様に,麻痺側下肢に対する荷重率も注目されてきた。最近の研究では,荷重量の評価は市販の体重計を用いて麻痺側下肢に5秒間保持可能な最大荷重量を測定する方法で実施されている。しかし,これは静的な立位場面での麻痺側下肢荷重量についての研究であり,必ずしも歩行中の荷重量やバランスなどの評価につながるとは言い難い。これらより,今回われわれはCVD患者を対象に歩行中の麻痺側下肢荷重量に着目し,歩行中の荷重量やその変動が歩行自立度とどのように関与するのかを明らかにするために比較検証した。
【方法】対象は当院に入院したCVD患者とした。日常会話や理解に支障をきたす高次脳機能障害を有する者は除外した19名を対象者とした。その後,歩行自立度により2群に分類した。その内訳は,歩行補助具や短下肢装具を用いて院内歩行が自立している者は歩行自立群(10名;杖および下肢装具使用者1名)とし,医療スタッフによる監視や介助を要する者は歩行非自立群(9名;杖使用者9名,短下肢装具使用者7名)とした。すべての対象者において,10m歩行時間,Berg Balance Scale(BBS),麻痺側下肢への静止立位最大荷重量(麻痺側下肢荷重量)および10m歩行中の麻痺側下肢荷重量を測定した。このとき,普段の歩行時に歩行補助具や下肢装具を使用している場合は使用を許可した。測定は2回実施し,数値は小数第二位までとした。また,平均値を算出し,少数第二位を四捨五入した。麻痺側下肢荷重量の測定は株式会社イマック社製のステップエイドを使用し,麻痺側に装着して実施した。歩行中の荷重量の測定時間は動作開始から終了までとし,取り込み周期は10msとした。その際の荷重測定値はピーク値とし,歩行中の介助は転倒防止以外は行わなかった。比較項目は,10m歩行時間,BBS,麻痺側下肢荷重量の荷重率(WBR)および10m歩行中の麻痺側下肢WBR,またその際の変動係数(CV)とした。WBRは{(測定された荷重量/体重)×100}にて算出した。統計解析における2群間の比較は,10m歩行時間はMann-Whitney’s U test,その他の項目はstudent’s t-testを用いて行った。有意水準は5%未満に設定した。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当院の倫理委員会の規約に基づき実施した。また対象者に口頭および紙面にて説明し,同意を得た後,実施した。
【結果】歩行非自立群は歩行自立群に比べて,10m歩行時間は有意に高値であり,BBSは有意に低値であった。また,麻痺側下肢WBRや10m歩行中の麻痺側下肢WBRは有意に低値であった。10m歩行中の麻痺側下肢WBRのCVにおいて,歩行非自立群は歩行自立群に比べて有意に高値であった。
【考察】歩行非自立者において,歩行中の麻痺側下肢の支持機能低下により荷重があまり得られなくなることが考えられ,歩行補助具などを必要とする場合が多いと思われる。実際に本研究において,歩行非自立群では杖の使用が多くみられた。杖の機能は麻痺側の支持性低下を補って体重心の位置を麻痺側に移動させ,また支持性の強化を図ることが可能と思われる。しかし,歩行非自立群はBBSのスコアが歩行自立群と比べて有意に低値であり,短下肢装具使用者も多くみられた。これらより,歩行非自立群において,安定性を得るために杖を使用するが,一定の荷重量が得られずバランス不良となり,結果として歩行中の麻痺側下肢WBRのCVが増加し,歩行自立に至らない状況であると推察される。また,高橋らにより,CVD患者の下肢荷重量と歩行自立との関係において,麻痺側下肢に対するWBRが60%以上では全例が屋内歩行自立群であり,80%以上では全例が屋外歩行自立群であったと報告されている。本研究において,歩行非自立群の麻痺側下肢WBRは80%以上という結果であった。しかし,歩行中のWBRのCVが著明であり,このことが要因となり院内の歩行自立に至っていない可能性があったと思われる。そのため,麻痺側WBRのCVは歩行自立における重要な要因となりうることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
歩行中の麻痺側下肢WBRやCVが新たな歩行自立のためのバランス評価法の一つになり得ると示唆された。今後,歩行の自立を判定する際には,静的な立位での麻痺側下肢WBRのみの評価だけでなく,歩行中の麻痺側WBRやそのCVも評価ツールとして取り入れる必要があると思われる。
【方法】対象は当院に入院したCVD患者とした。日常会話や理解に支障をきたす高次脳機能障害を有する者は除外した19名を対象者とした。その後,歩行自立度により2群に分類した。その内訳は,歩行補助具や短下肢装具を用いて院内歩行が自立している者は歩行自立群(10名;杖および下肢装具使用者1名)とし,医療スタッフによる監視や介助を要する者は歩行非自立群(9名;杖使用者9名,短下肢装具使用者7名)とした。すべての対象者において,10m歩行時間,Berg Balance Scale(BBS),麻痺側下肢への静止立位最大荷重量(麻痺側下肢荷重量)および10m歩行中の麻痺側下肢荷重量を測定した。このとき,普段の歩行時に歩行補助具や下肢装具を使用している場合は使用を許可した。測定は2回実施し,数値は小数第二位までとした。また,平均値を算出し,少数第二位を四捨五入した。麻痺側下肢荷重量の測定は株式会社イマック社製のステップエイドを使用し,麻痺側に装着して実施した。歩行中の荷重量の測定時間は動作開始から終了までとし,取り込み周期は10msとした。その際の荷重測定値はピーク値とし,歩行中の介助は転倒防止以外は行わなかった。比較項目は,10m歩行時間,BBS,麻痺側下肢荷重量の荷重率(WBR)および10m歩行中の麻痺側下肢WBR,またその際の変動係数(CV)とした。WBRは{(測定された荷重量/体重)×100}にて算出した。統計解析における2群間の比較は,10m歩行時間はMann-Whitney’s U test,その他の項目はstudent’s t-testを用いて行った。有意水準は5%未満に設定した。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当院の倫理委員会の規約に基づき実施した。また対象者に口頭および紙面にて説明し,同意を得た後,実施した。
【結果】歩行非自立群は歩行自立群に比べて,10m歩行時間は有意に高値であり,BBSは有意に低値であった。また,麻痺側下肢WBRや10m歩行中の麻痺側下肢WBRは有意に低値であった。10m歩行中の麻痺側下肢WBRのCVにおいて,歩行非自立群は歩行自立群に比べて有意に高値であった。
【考察】歩行非自立者において,歩行中の麻痺側下肢の支持機能低下により荷重があまり得られなくなることが考えられ,歩行補助具などを必要とする場合が多いと思われる。実際に本研究において,歩行非自立群では杖の使用が多くみられた。杖の機能は麻痺側の支持性低下を補って体重心の位置を麻痺側に移動させ,また支持性の強化を図ることが可能と思われる。しかし,歩行非自立群はBBSのスコアが歩行自立群と比べて有意に低値であり,短下肢装具使用者も多くみられた。これらより,歩行非自立群において,安定性を得るために杖を使用するが,一定の荷重量が得られずバランス不良となり,結果として歩行中の麻痺側下肢WBRのCVが増加し,歩行自立に至らない状況であると推察される。また,高橋らにより,CVD患者の下肢荷重量と歩行自立との関係において,麻痺側下肢に対するWBRが60%以上では全例が屋内歩行自立群であり,80%以上では全例が屋外歩行自立群であったと報告されている。本研究において,歩行非自立群の麻痺側下肢WBRは80%以上という結果であった。しかし,歩行中のWBRのCVが著明であり,このことが要因となり院内の歩行自立に至っていない可能性があったと思われる。そのため,麻痺側WBRのCVは歩行自立における重要な要因となりうることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
歩行中の麻痺側下肢WBRやCVが新たな歩行自立のためのバランス評価法の一つになり得ると示唆された。今後,歩行の自立を判定する際には,静的な立位での麻痺側下肢WBRのみの評価だけでなく,歩行中の麻痺側WBRやそのCVも評価ツールとして取り入れる必要があると思われる。