第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 基礎理学療法 ポスター

人体構造・機能情報学1

2014年5月31日(土) 09:30 〜 10:20 ポスター会場 (基礎)

座長:中野治郎(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科)

基礎 ポスター

[0699] 重力環境変化による骨格筋芽細胞の分化応答

古川拓馬1, 森川久美1, 深澤賢宏1, 大倉優之介1, 上床裕之1, 中田恭輔1, 猪村剛史1, Khalesi Elham1, 河原裕美2, 弓削類1,2 (1.広島大学大学院医歯薬保健学研究科生体環境適応科学, 2.株式会社スペース・バイオ・ラボラトリーズ)

キーワード:骨格筋分化, 重力環境, 筋芽細胞

【はじめに,目的】
近年,様々な疾患に対する新しい治療法として,再生医療が期待されている。筋疾患では,筋ジストロフィー症などの有効な治療法の無い難病や心筋梗塞に対しても幹細胞移植による治療が試みられている。しかし,これらの細胞移植療法では,移植細胞の生着率や分化率が低いことが難点とされている。治療効果に関しては,筋細胞へ分化した細胞の新生よりも移植細胞から分泌されるサイトカインによる二次的な保護効果によるところが大きいといわれている。幹細胞から骨格筋様細胞を創り出す研究も行われているが,収縮能をもった筋線維まで分化誘導する方法は確立されていない。これらの方法では,分化のスイッチを入れる遺伝子の導入や筋の分化を誘導するサイトカインが用いられている。しかし,薬物による移植後の二次的な副作用や遺伝子操作によるがん化が懸念される。そのため,未分化な細胞から筋細胞へ分化する研究が求められている。
これまでに,物理的刺激を用いて筋分化培養を行うことにより,薬物の添加や遺伝子操作を行わない効率的な移植細胞の培養法の開発が試みられている。先行研究では,細胞の増殖や分化が物理的刺激によって制御されることが報告されている。宇宙飛行などによる微小重力環境では,骨格筋の量や機能が低下することが動物とヒトの実験で証明されている。また,培養細胞においても,筋細胞の分化抑制が報告されている。しかし,重力環境の変化による細胞動態の研究は少ない。
そこで本研究では,筋芽細胞を通常の1G環境と10-3Gという微小重力環境で分化誘導した。さらに分化誘導期間に細胞の重力環境を変化させ,筋分化における重力の影響を検討した。
【方法】
培養細胞は,ラット骨格筋由来の筋芽細胞(L6細胞株)を用いた。L6細胞を増殖させ,細胞がコンフルエントになり,分化誘導を行う前のものをSet 0とした。通常の1G環境または重力制御装置を用いた微小重力環境で分化誘導した。さらに,その後重力環境を変えずに培養を続ける群と1G環境と微小重力環境を入れ替えた群を設定し,分化誘導を継続した。筋管形成等の形態学的解析,筋分化マーカー等の分子細胞学的解析によって,L6細胞の分化動態を検証した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,(財)ヒューマンサイエンス振興財団 研究資源バンクより購入したL6細胞株を使用した。
【結果】
通常の培養環境である1G環境では,形態学的,分子細胞学的解析から筋分化が確認された。一方,微小重力環境では,筋分化が抑制されていた。
培養期間中に重力環境を変えた際の細胞動態では,1G環境から微小重力環境に移した群において,1G環境では筋管細胞の形成がみられたが,微小重力環境に移した後では,筋管細胞が縮小していた。分子細胞学的解析では,1G環境で筋分化マーカーの発現がみられたが,微小重力環境に移した後では,筋分化マーカーの発現が減弱していた。
一方,微小重力環境から1G環境に移した群では,1G環境で培養し始めると,急速に発達した筋管細胞が観察された。また,微小重力環境では筋分化マーカーの発現が弱かったが,1G環境に移した後では,筋分化マーカーの発現がみられた。
【考察】
微小重力環境により筋分化が抑制されることが示唆された。培養期間中に重力培養環境を変えた際の細胞動態では,分化誘導の途中に重力環境から微小重力環境に変えることで,筋分化が抑制されることが示唆された。一方,分化誘導の途中に微小重力環境から重力環境に変えることにより,筋分化が促進されることが示唆された。
今後は,重力と筋芽細胞の分化の関連性を通じて筋の分化に必須の制御因子を解明し,幹細胞から筋芽細胞へ分化誘導できる条件を探索していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
難治性疾患に対する新たな治療法として再生医療の開発が進んでいる。筋ジストロフィー症など筋変性疾患おいては,現時点で有効な治療法は確立されていないため臨床応用が期待されているが,これまでの細胞移植治療では移植細胞の分化率や生着率が低いことが難点とされている。本研究で示された重力環境が筋細胞の分化に与える効果は,筋の再生医療において,筋分化誘導技術の発展に貢献すると考える。さらに筋再生医療では,どのような理学療法が有効であるか検討していきたい。