[0703] 若年者における陸上トレッドミル歩行と水中トレッドミル歩行後の血糖値変化
Keywords:血糖値, 乳酸値, 水中運動療法
【目的】
水には浮力や粘性抵抗,静水圧,熱作用などの特性がある。これらを利用した水中運動はエネルギー消費量が多く,免荷,筋力増強,心肺機能の向上などに,より効果的な運動として注目されている。しかしながら糖尿病における運動療法としては,あまり用いられていない。
そこで本研究は健常者において血糖値・乳酸値が水中トレッドミルと陸上トレッドミルでの運動負荷によってどう変化するかを比較し,糖尿病治療における有酸素運動としてどちらが有効か検討することを目的とした。
【方法】
健常男子学生10名を対象に行った。平均年齢は21歳,身長171.5±8.64cm,体重64.81±12.79kg,BMI21.88±3.26,体脂肪率17.90±4.71%だった。
被験者の状態を一定とするため食事を持参してもらい,運動前に食事した。食後30分を安静時とし,陸上と水中の2群の各運動を行った直後,10分,20分,30分後の血糖値をグルテストNeoスーパー(アークレイ株式会社)で測定した。また安静時と運動後の乳酸値は,ラクテート・プロ(アークレイ株式会社)で測定した。運動は15分間行った。陸上運動ではSTM-1250(日本光電工株式会社)を使用しトレッドミル歩行を行った(以下,陸上運動群)。1週間後にアクアサイザーII(ファーノジャパンインク)を使用し,水中トレッドミル歩行を行った(以下,水中運動群)。歩行速度は両群ともに3.5km/時とした。水中トレッドミルの条件は水温36℃,水深は各被験者の臍部とした。運動中は5分後ごとに自覚的運動強度をBorg Scaleで計測した。
統計解析は運動前後の乳酸値変化,両群間の運動直後の血糖値,自覚的運動強度を対応のあるt検定にて比較した。血糖値の変化は安静時,直後,10分,20分,30分後のデータを一元配置分散分析およびDunnettの多重比較検定で比較した。コントロール群は安静時とした。有意水準は5%とした。
【倫理的配置,同意と説明】
本研究はヘルシンキ宣言に基づき,対象者に研究の方法について書面と口頭で十分な説明を行った。また,対象者の参加・不参加,中止した場合でも対象者自身に不利益を被ることがないことを十分説明し,同意書への署名を得た上で研究を行った。個人情報は,研究終了後に安全な方法で速やかに破棄した。
【結果】
運動前後の血糖値の変化は,陸上運動群において安静時は143.5±23.81mg/dlであったが,運動直後は99.9±15.95mg/dlと有意に低下が認められた(p<0.05)。水中運動群では,安静時は137.2±28.88mg/dlで運動直後は118.2±18.11mg/dlと血糖値は低下する傾向にあったが有意差は認められなかった。運動後30分までの血糖値の上昇は水中運動よりも陸上運動の方が緩やかとなっていた。陸上運動群と水中運動群の比較では,運動直後に血糖値の変化に有意差が認められた(p<0.05)。乳酸値は両群で運動後に上昇していたが有意差は認められなかった。自覚的運動強度は水中運動の方が高い傾向にあった。
【考察】
両群の運動後において血糖値が低下した理由としてインスリン非依存性の糖取り込みが考えられる。筋の活動量が大きければこの作用も増大し血糖値は大きく低下する。仮説において,水中運動は運動強度が高く水中運動群の方が筋活動は多い。そのため血糖値がより大きく低下すると考えたが,本研究の結果は陸上運動群で有意に血糖値が低下した。また,運動後でも血糖値は低下していた。井上らによると水中では浮力の影響により,下肢の大部分の筋において陸上よりも筋活動の要求が少ないと報告している。そのため,陸上運動群では水中運動群よりも末梢の局所で筋活動が大きく,血糖値の低下が大きかったことが考えられる。血糖値の低下には,局所の筋のレジスタンス運動,重力作用が重要であることが示唆された。
糖尿病の患者は,神経障害などから合併症が起こりやすい。したがってリスク管理として心電図などのデータを計測し,心拍数なども含めて運動療法の効果を評価する必要があると考えられる。しかし,水中運動ではリスク管理が不十分となり,適切な運動強度を処方することができない。
これらから糖尿病患者に対する運動療法として陸上運動が有効なのではないかと考えられる。運動療法として水中運動を行うには,リスク管理などさまざまなデータを加味して今後も検討していく必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
糖尿病患者には有酸素運動が非常に重要である。これから糖尿病患者に対して理学療法を提供する機会も増えてくると考えられる。そういった場合に,より安全で効果的な運動療法を処方する必要がある。本研究はそのための一助となる研究である。
水には浮力や粘性抵抗,静水圧,熱作用などの特性がある。これらを利用した水中運動はエネルギー消費量が多く,免荷,筋力増強,心肺機能の向上などに,より効果的な運動として注目されている。しかしながら糖尿病における運動療法としては,あまり用いられていない。
そこで本研究は健常者において血糖値・乳酸値が水中トレッドミルと陸上トレッドミルでの運動負荷によってどう変化するかを比較し,糖尿病治療における有酸素運動としてどちらが有効か検討することを目的とした。
【方法】
健常男子学生10名を対象に行った。平均年齢は21歳,身長171.5±8.64cm,体重64.81±12.79kg,BMI21.88±3.26,体脂肪率17.90±4.71%だった。
被験者の状態を一定とするため食事を持参してもらい,運動前に食事した。食後30分を安静時とし,陸上と水中の2群の各運動を行った直後,10分,20分,30分後の血糖値をグルテストNeoスーパー(アークレイ株式会社)で測定した。また安静時と運動後の乳酸値は,ラクテート・プロ(アークレイ株式会社)で測定した。運動は15分間行った。陸上運動ではSTM-1250(日本光電工株式会社)を使用しトレッドミル歩行を行った(以下,陸上運動群)。1週間後にアクアサイザーII(ファーノジャパンインク)を使用し,水中トレッドミル歩行を行った(以下,水中運動群)。歩行速度は両群ともに3.5km/時とした。水中トレッドミルの条件は水温36℃,水深は各被験者の臍部とした。運動中は5分後ごとに自覚的運動強度をBorg Scaleで計測した。
統計解析は運動前後の乳酸値変化,両群間の運動直後の血糖値,自覚的運動強度を対応のあるt検定にて比較した。血糖値の変化は安静時,直後,10分,20分,30分後のデータを一元配置分散分析およびDunnettの多重比較検定で比較した。コントロール群は安静時とした。有意水準は5%とした。
【倫理的配置,同意と説明】
本研究はヘルシンキ宣言に基づき,対象者に研究の方法について書面と口頭で十分な説明を行った。また,対象者の参加・不参加,中止した場合でも対象者自身に不利益を被ることがないことを十分説明し,同意書への署名を得た上で研究を行った。個人情報は,研究終了後に安全な方法で速やかに破棄した。
【結果】
運動前後の血糖値の変化は,陸上運動群において安静時は143.5±23.81mg/dlであったが,運動直後は99.9±15.95mg/dlと有意に低下が認められた(p<0.05)。水中運動群では,安静時は137.2±28.88mg/dlで運動直後は118.2±18.11mg/dlと血糖値は低下する傾向にあったが有意差は認められなかった。運動後30分までの血糖値の上昇は水中運動よりも陸上運動の方が緩やかとなっていた。陸上運動群と水中運動群の比較では,運動直後に血糖値の変化に有意差が認められた(p<0.05)。乳酸値は両群で運動後に上昇していたが有意差は認められなかった。自覚的運動強度は水中運動の方が高い傾向にあった。
【考察】
両群の運動後において血糖値が低下した理由としてインスリン非依存性の糖取り込みが考えられる。筋の活動量が大きければこの作用も増大し血糖値は大きく低下する。仮説において,水中運動は運動強度が高く水中運動群の方が筋活動は多い。そのため血糖値がより大きく低下すると考えたが,本研究の結果は陸上運動群で有意に血糖値が低下した。また,運動後でも血糖値は低下していた。井上らによると水中では浮力の影響により,下肢の大部分の筋において陸上よりも筋活動の要求が少ないと報告している。そのため,陸上運動群では水中運動群よりも末梢の局所で筋活動が大きく,血糖値の低下が大きかったことが考えられる。血糖値の低下には,局所の筋のレジスタンス運動,重力作用が重要であることが示唆された。
糖尿病の患者は,神経障害などから合併症が起こりやすい。したがってリスク管理として心電図などのデータを計測し,心拍数なども含めて運動療法の効果を評価する必要があると考えられる。しかし,水中運動ではリスク管理が不十分となり,適切な運動強度を処方することができない。
これらから糖尿病患者に対する運動療法として陸上運動が有効なのではないかと考えられる。運動療法として水中運動を行うには,リスク管理などさまざまなデータを加味して今後も検討していく必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
糖尿病患者には有酸素運動が非常に重要である。これから糖尿病患者に対して理学療法を提供する機会も増えてくると考えられる。そういった場合に,より安全で効果的な運動療法を処方する必要がある。本研究はそのための一助となる研究である。