[0704] 先行した高強度運動が後行される運動で生じる代謝反応に及ぼす影響
Keywords:高強度運動, EPOC, 呼気ガス分析
【はじめに】運動後の回復過程において,運動時間・強度に比例して酸素摂取量が一定時間亢進を認めることが報告されている。これは運動後余剰酸素消費(以下,EPOC)として知られており,日々の臨床場面で患者に対して運動療法を実施した後にも起こり得る現象である。運動療法は休息を挟みながら間欠的に実施されるが,運動後の回復程度や休息の時間設定は主観的な判断で行われることが多く,実際に身体に生じている代謝反応については不明瞭である。そこで本研究では,1回の高強度運動を試行する群と間欠的に2回の高強度運動を試行する群に群分けし比較検討することにより,先行した運動が後行される運動で生じる代謝反応に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。
【方法】対象は健常成人男性7名(年齢:24.3±1.9,身長:170.9±7.1,体重:62.4±7.9,BMI:21.4±2.8)とした。実験初日に,呼気ガス分析装置(ミナト医科学社製)にてbreath-by-breath法によるVO2maxの測定を行い,運動強度を70%VO2maxの負荷に設定した。運動方式は自転車エルゴメーター(COMBI社製)を用い,1)10分間1セットの高強度運動(以下,T-1),2)10分間2セット(セット間休息10分間)の間欠的高強度運動(以下,T-2)の異なる2つの運動条件を順序は無作為に実施し,そのときの代謝反応を呼気ガス分析装置にて測定した。なお,運動前後の安静方法は運動前5分間,運動後30分間のベッド上背臥位とした。各実験は対象の疲労などを考慮し,最低1週間の間隔を空けて同一時間および条件で実施した。また,実験前日の飲酒・喫煙・過激な運動を禁止し,実験当日の昼食以降の間食は禁止,水分摂取のみを許可した。統計学的手法には,時間経過に伴う平均値の差は繰り返しのある一元配置分散分析を用いて比較し,多重比較検定にはDunnett法を用いた。また,運動中および運動後における運動条件間の平均値の差は対応のあるstudent’s t-testを用いて比較した。すべての統計処理における有意水準はp<0.05とした。
【倫理的配慮,説明と同意】対象者に対する倫理的配慮として,ヘルシンキ宣言に則り,実験の目的・利益・不利益・危険性およびデータの公表について説明を行い,実験参加の同意を得た。
【結果】全対象のVO2maxは39.7±4.0ml/kg/min,最大運動負荷強度は202.4±30.7W,運動強度は140.7±19.9Wであった。運動後の酸素摂取量は,T-1では運動後10分,T-2では運動後25分まで安静時と比較して有意に高値を示し,EPOCはT-2でより長く出現していたことが確認された。また,それに伴いEPOC総量においてもT-1(2.2±0.4L)と比較しT-2(2.9±0.7L)で有意に高値を示した。心拍数は,T-1では運動後25分まで,T-2では運動後30分通して安静時と比較して高値を示した。また,T-2における運動間の休息終了時のBorg scaleは全対象で6「非常に楽である」であった。運動中の総酸素摂取量,平均心拍数はともに先行した運動に比較して後行した運動で有意に高値を示した。Borg scaleにおいて,先行した運動と後行した運動間に統計学的な有意差は認められなかったが,後行した運動のBorg scaleは高値となる傾向を示した。
【考察】EPOCについて,先行研究によると数分間で消失するものから12時間以上にわたって継続するという報告があり一定の見解は得られていない。本研究で得られた結果は,EPOCはT-1 10分まで,T-2 25分までと比較的短い結果であった。EPOCは運動様式,運動強度,運動時間の違いによって持続時間が異なると考えられており,今回実施された運動条件では運動時間が短かったことが影響を及ぼしているものと推測された。後行した運動で生じた代謝反応について,T-2における運動間の休息終了時の自覚的疲労度を示すBorg scaleにおいては6「非常に楽である」と正常化を示していたが,EPOCの持続時間および総量,心拍数などの代謝反応の他覚的疲労度の観点からは正常化までには至っておらず,後行した運動の代謝反応は先行した運動の代謝反応よりも大きくなることが明らかとなった。これは,自覚的疲労度と他覚的疲労度には相違が生じている可能性を示唆している。したがって,運動療法を実施する際に間欠的な運動を用いる場合,後行される運動は先行した運動の影響を受ける可能性があることを考慮した上で,運動間の休息時間の設定を行うことが重要である。
【理学療法学研究としての意義】本研究により先行した運動は後行される運動に生じる代謝反応に影響を及ぼすことが明らかとなった。間欠的な運動を実施する際,後行される運動の代謝反応を増大させないためには十分な休息を取ることが必要であることが考えられた。今後,先行した運動が影響を及ぼさなくなる運動強度および休息時間の設定目安を明らかにすることが課題である。
【方法】対象は健常成人男性7名(年齢:24.3±1.9,身長:170.9±7.1,体重:62.4±7.9,BMI:21.4±2.8)とした。実験初日に,呼気ガス分析装置(ミナト医科学社製)にてbreath-by-breath法によるVO2maxの測定を行い,運動強度を70%VO2maxの負荷に設定した。運動方式は自転車エルゴメーター(COMBI社製)を用い,1)10分間1セットの高強度運動(以下,T-1),2)10分間2セット(セット間休息10分間)の間欠的高強度運動(以下,T-2)の異なる2つの運動条件を順序は無作為に実施し,そのときの代謝反応を呼気ガス分析装置にて測定した。なお,運動前後の安静方法は運動前5分間,運動後30分間のベッド上背臥位とした。各実験は対象の疲労などを考慮し,最低1週間の間隔を空けて同一時間および条件で実施した。また,実験前日の飲酒・喫煙・過激な運動を禁止し,実験当日の昼食以降の間食は禁止,水分摂取のみを許可した。統計学的手法には,時間経過に伴う平均値の差は繰り返しのある一元配置分散分析を用いて比較し,多重比較検定にはDunnett法を用いた。また,運動中および運動後における運動条件間の平均値の差は対応のあるstudent’s t-testを用いて比較した。すべての統計処理における有意水準はp<0.05とした。
【倫理的配慮,説明と同意】対象者に対する倫理的配慮として,ヘルシンキ宣言に則り,実験の目的・利益・不利益・危険性およびデータの公表について説明を行い,実験参加の同意を得た。
【結果】全対象のVO2maxは39.7±4.0ml/kg/min,最大運動負荷強度は202.4±30.7W,運動強度は140.7±19.9Wであった。運動後の酸素摂取量は,T-1では運動後10分,T-2では運動後25分まで安静時と比較して有意に高値を示し,EPOCはT-2でより長く出現していたことが確認された。また,それに伴いEPOC総量においてもT-1(2.2±0.4L)と比較しT-2(2.9±0.7L)で有意に高値を示した。心拍数は,T-1では運動後25分まで,T-2では運動後30分通して安静時と比較して高値を示した。また,T-2における運動間の休息終了時のBorg scaleは全対象で6「非常に楽である」であった。運動中の総酸素摂取量,平均心拍数はともに先行した運動に比較して後行した運動で有意に高値を示した。Borg scaleにおいて,先行した運動と後行した運動間に統計学的な有意差は認められなかったが,後行した運動のBorg scaleは高値となる傾向を示した。
【考察】EPOCについて,先行研究によると数分間で消失するものから12時間以上にわたって継続するという報告があり一定の見解は得られていない。本研究で得られた結果は,EPOCはT-1 10分まで,T-2 25分までと比較的短い結果であった。EPOCは運動様式,運動強度,運動時間の違いによって持続時間が異なると考えられており,今回実施された運動条件では運動時間が短かったことが影響を及ぼしているものと推測された。後行した運動で生じた代謝反応について,T-2における運動間の休息終了時の自覚的疲労度を示すBorg scaleにおいては6「非常に楽である」と正常化を示していたが,EPOCの持続時間および総量,心拍数などの代謝反応の他覚的疲労度の観点からは正常化までには至っておらず,後行した運動の代謝反応は先行した運動の代謝反応よりも大きくなることが明らかとなった。これは,自覚的疲労度と他覚的疲労度には相違が生じている可能性を示唆している。したがって,運動療法を実施する際に間欠的な運動を用いる場合,後行される運動は先行した運動の影響を受ける可能性があることを考慮した上で,運動間の休息時間の設定を行うことが重要である。
【理学療法学研究としての意義】本研究により先行した運動は後行される運動に生じる代謝反応に影響を及ぼすことが明らかとなった。間欠的な運動を実施する際,後行される運動の代謝反応を増大させないためには十分な休息を取ることが必要であることが考えられた。今後,先行した運動が影響を及ぼさなくなる運動強度および休息時間の設定目安を明らかにすることが課題である。