第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 運動器理学療法 ポスター

骨・関節15

2014年5月31日(土) 09:30 〜 10:20 ポスター会場 (運動器)

座長:石井慎一郎(神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部リハビリテーション学科)

運動器 ポスター

[0723] 変形性膝関節症患者の疼痛改善に影響する治療手段について

河江将司1, 小林巧2, 山中正紀2,3, 武田直樹4, 伊藤俊貴5, 小岩幹1 (1.社会医療法人北斗北斗病院医療技術部理学療法科, 2.北海道大学大学院保健科学研究院北斗関節機能障害予防学寄附分野, 3.北海道大学大学院保健科学研究院機能回復学分野, 4.社会医療法人北斗十勝リハビリテーションセンター整形外科, 5.社会医療法人北斗十勝リハビリテーションセンター医療技術部理学療法科)

キーワード:変形性膝関節症, 疼痛, 治療手段

【はじめに・目的】
変形性膝関節症(以下膝OA)は,高齢者にとって最も一般的な慢性関節障害である。膝OA患者の主症状は膝の疼痛であり,膝OAの治療は疼痛改善による日常生活の幅の拡大を目的とする。膝OAの疼痛軽減に対する保存療法には薬物療法や理学療法が実施されている。薬物療法には消炎鎮痛剤や関節注射,理学療法には装具療法や運動療法など様々な治療が実施されているが,どのような治療手段が疼痛軽減に,より有効な治療手段かは不明である。近年,膝痛軽減プログラムとして膝教室に関する報告が散見される。膝教室は患者教育および運動療法指導による自己管理を目的としたプログラムであり,その有効性についても報告されている。しかし,膝OA患者では他の治療を実施していることも多いため,膝教室単独の効果については不明である。本研究の目的は膝教室参加者の1か月間の治療実施状況について調査し,疼痛軽減に効果的な治療手段について検討することで膝教室の有効性について検証することである。
【方法】
本研究の対象は膝教室に参加した27名(男性2名女性25名,平均年齢66.7±8.6歳,平均身長152.6±7.5cm,平均体重57.4±9.4kg,Kellgren-Lawrence分類grade2:4名,3:11名,4:12名)とした。膝教室では膝OAについての講義と運動療法の実技指導を行なった。運動療法は膝屈曲および伸展ROM運動,大腿四頭筋運動(patella-setting,SLR)および歩行変容(内側荷重歩行)について指導した。対象者には膝教室1か月後に再来院してもらい1か月における治療実施状況に関するアンケート調査を実施した。膝教室で指導した運動療法についてROM運動,大腿四頭筋運動および歩行変容を指示通り実施出来た群および出来なかった群,運動療法以外の治療は装具療法としてサポーターおよび足底板,薬物療法として痛み止め,関節注射およびサプリメント使用の有無で使用群と不使用群の2群に分類した。
疼痛評価として日本版変形性膝関節症患者機能評価尺度(JKOM)の日常生活動作の疼痛に関する項目「痛みやこわばり」の点数を使用した。膝教室実施時と1か月後の点数から疼痛改善率を算出し,その中央値から対象者を2群に分け,改善率が大きい群を改善大群,改善率が小さい群を改善小群とした。統計学的分析は,改善大群と改善小群の2群間の比較に対応のないt-testを用いた。次に,改善率2群を目的変数,運動療法(ROM運動,大腿四頭筋運動,歩行変容),装具療法(サポーター,足底板),薬物療法(痛み止め,関節注射,サプリメント)の各2群を説明変数とした二項ロジスティック回帰分析を行った。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
すべての対象者には,初回膝教室時に研究内容を口頭及び書面を用いて説明し,研究参加および結果の使用について署名にて同意を得た。
【結果】
改善大群と改善小群の2群間の比較において,改善大群(151%)は改善小群(110%)と比較し,有意に改善率が高値を示した。二項ロジスティック回帰分析の結果,8項目の説明変数のうち,歩行変容の実施状況が有意な因子として抽出され,判別的中率76.9%,オッズ比12.5(95%信頼区間1.85-84.44)だった。ROM運動,大腿四頭筋運動,サポーター,足底板,痛み止め,関節注射,およびサプリメントは有意な因子として選択されなかった。
【考察】
本研究結果より,膝教室実施後1か月において歩行変容は他の治療手段より疼痛改善率に有意に影響することを示した。膝OA患者では歩行時の外部膝関節内転モーメントが増大し,膝内側コンパートメントのストレスを増大させることが報告されている。今回指導した内側荷重歩行は膝OA患者の外部膝関節内転モーメントを減少させることが報告されており,この歩行変容を継続的に実施することが,日常生活動作中の疼痛軽減に影響した可能性が示唆される。
ROM運動や大腿四頭筋運動の実施状況は疼痛改善率に影響しなかったが,ROMや筋力は12週後に有意な改善を認めたとの報告もあり,1か月では疼痛改善率に影響しなかった可能性も推察され,今後,長期的な検討も必要である。膝教室,特に歩行変容は短期の疼痛改善に他の治療手段より有効な治療である可能性が推察されたが,ROMや筋力強化の方法の検討や他の効果的な治療手段についても,今後より詳細な検討が必要である。
【理学療法学研究としての意義】
本研究で用いた歩行変容の実施は短期間で疼痛を軽減させることが示唆され,本研究結果は臨床上,有用な知見である。今後,膝OA患者の疼痛軽減に対する長期的な膝教室の効果やより効果的な治療手段について更なる検討を進めたい。