第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 運動器理学療法 ポスター

骨・関節16

Sat. May 31, 2014 9:30 AM - 10:20 AM ポスター会場 (運動器)

座長:青木利彦(住友病院リハビリテーション科)

運動器 ポスター

[0725] 股関節前面の筋・関節のタイトネスを計測するトーマス変法の検討

竹中裕人1, 西浜かすり1, 矢口敦貴1, 牛島秀明1, 古田国大1, 鈴木惇也1, 宮地庸祐1, 山崎正俊2, 横地恵太2, 花村俊太朗3, 花村浩克3, 神谷光広4 (1.三仁会あさひ病院リハビリテーション科, 2.三仁会春日井整形外科リハビテーション科, 3.三仁会あさひ病院整形外科, 4.愛知医科大学整形外科)

Keywords:股関節前面の筋・関節のタイトネス, トーマス変法, 脊椎骨盤アライメント

【はじめに,目的】
小児スポーツ選手を対象にしたメディカルチェックや診察において,腸腰筋のタイトネスを計測する方法として,従来,トーマス法(T法)が用いられてきた(D Harvey:BJSM,1998)。T法は,背臥位から対側の股・膝関節を充分屈曲させ膝を抱えた後,検側の膝窩と床面の距離を計測するものである。我々は,トーマス変法(TH法)として,背臥位から両股・膝関節を充分屈曲させ両膝を抱えた後,検側の下肢のみ股・膝関節を伸展させ,膝窩と床面の距離を計測する方法を考案し,T法に比べ計測値が大きく,腸腰筋タイトネスの差を検出しやすいことと検者内および検者間の信頼性が高いことを報告した(2013年愛知県理学療法学術集会)。T法とTH法の違いが脊椎骨盤アライメントの変化にあることが考えられる。そこで,両方法施行時の脊椎骨盤アライメントについてレントゲン像を用いて検討した。
【方法】
対象は男性健常成人8名(30.4±5.9歳)。背臥位,T法,TH法の3条件の腰椎骨盤レントゲン側面像を用いた。T法,TH法ともに,前額面上で骨盤が傾かない様に十分注意し,L1椎体から大腿骨骨頭を含めた側面像を撮像した。検討項目は,腰椎前弯角(L1-S1角(°)),骨盤傾斜角Pelvic Tilt(大腿骨頭中心を通る水平軸と大腿骨頭中心と仙骨上縁中心を結ぶ線のなす角度PT角(°))である。測定ツールは,ASTRO STAGE社製NAZCAを用いた。測定は,検査者3名が行い,内1名が日にちを空けて2回目の測定を行った。
統計学的解析は,背臥位,T法,TH法の3条件でL1-S1角,PT角について差をみるために反復測定による分散分析を用い,有意な差を認めた場合,多重比較としてBonferroni法もしくはSteel-Dwass法を用いた。有意水準はp=0.05とした。測定の信頼性には級内相関係数を用い,3条件それぞれの検者内信頼性(ICC(1,1))と検者間信頼性ICC(2,1))を検討した。すべての解析には,Rコマンダー2.8.1を用いた。
【倫理的配慮,説明と同意】対象者には書面にて説明し署名を得た。本研究は当院倫理委員会の承認を得て行った。
【結 果】
測定の信頼性について,ICC(1,1)は,背臥位L1-S1角=0.63/PT角=0.96(以下L1-S1角/PT角で記載),T法0.72/0.77,TH法0.61/0.72であった。ICC(2,1)は,最小0.10から最大0.88であった。検者内信頼性は良好であったが,検者間信頼性のばらつきが大きいため,3人の測定者の平均値を用い3条件間を比較検討した。L1-S1角は,背臥位46.1±6.3・T法20.6±5.3・TH法14.5±4.7,PT角は,背臥位10.1±5.5・T法30.5±5.3・TH法31.7±6.4であった。L1-S1角は,背臥位とT法,背臥位とTH法,T法とTH法にp<0.01で有意な差が認められた。PT角は,背臥位とT法,背臥位TH法にp<0.05で有意な差が認められた。T法とTH法の間では有意な差が認められなかった。なお,L1-S1角のT法とTH法の間で効果量は大であった。そのため,検出力(1-β)=0.8とした場合,本研究で必要なサンプルサイズは1群で8例であった。
【考察】
レントゲン像の計測における信頼性について,ICC(1,1)は良好であった。一方ICC(2,1)において,検者3名の検者間の組み合わせは3通りあり,信頼性が低い組み合わせ(ICC(2,1)=0.10)と良好な組み合わせ(ICC(2,1)=0.88)が存在した。静止立位の腰椎アライメン計測の検査者間信頼性についてICC(2,1)=0.57程度との報告がある(J.R.Dimar:Eur Spine J,2008)。本研究は,T法,TH法とも大腿を抱えるため,骨指標がみづらいこともあり,検査者間信頼性にばらつきが生じたと考えられる。
3条件間の検討では,L1-S1角について,T法(20.6±5.3)ではTH法(14.5±4.7)に比べて有意に大きく,PT角においては,T法とTH法との間で有意な差が認められなかった。このことから,T法よりTH法は腰椎前弯を抑制できており,腰椎アライメントの影響によりT法とTH法の差が生じていることが明らかとなった。つまり,T法に比べ,TH法では腰椎での代償を防ぐために,膝窩から床面までの測定値が,股関節前面の筋・関節である腸腰筋,大腿直筋,股関節前面関節包の伸張性をより正確に評価していることが考えられる。
小児スポーツ選手の代表的な腰部障害である,腰椎分離症の発症要因の一つとして,下肢筋のタイトネスが報告されている(神谷:J Spine Res,2011)。下肢筋のタイトネスを早期に検出することは,腰椎分離症の予防・治療につながると考えられる。従来のT法より,TH法は,腸腰筋のタイトネスをより検出しやすく精度の高い有用な方法であると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
臨床現場で使用しやすいTH法が股関節前面の筋・関節のタイトネスを計測するものであることが明らかになった。小児スポーツ選手に対するメディカルチェックや日常診療に臨床応用が期待される。