第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 運動器理学療法 ポスター

骨・関節16

Sat. May 31, 2014 9:30 AM - 10:20 AM ポスター会場 (運動器)

座長:青木利彦(住友病院リハビリテーション科)

運動器 ポスター

[0728] 膝関節固有感覚への冷却・温熱による影響

渡邊帆貴1, 浅枝諒2, 河野愛史2, 寺井千晶2, 出家正隆3 (1.広島大学医学部保健学科理学療法学専攻, 2.広島大学大学院医歯薬保健学研究科, 3.広島大学大学院医歯薬保健学研究院)

Keywords:固有感覚, スポーツ障害, 深部温

【はじめに,目的】
ウォーミングアップはスポーツ活動前に行うことで体温・筋温の上昇を促し,神経や筋の生理的機能の水準を高め,外傷予防やパフォーマンスの向上に効果的であると言われている。また,空間内での四肢および身体部位の位置関係や関節の動きの感知に関与する関節固有感覚にも影響を及ぼすとされている。スポーツ活動における固有感覚の働きは重要視されており,また膝関節の重篤なスポーツ外傷の1つとされる膝前十字靭帯(以下,ACL)損傷では,その発生素因の1つに膝関節の固有感覚の低下が挙げられている。このことから,スポーツ活動時のパフォーマンス向上やACL損傷などのスポーツ外傷の予防策を検討する際,効率良く固有感覚を向上させるウォーミングアップの方法が重要である。先行研究において,膝関節部へのホットパック施行による温熱効果や,運動刺激と筋の間欠的伸張刺激が膝関節固有感覚の向上に影響を及ぼすことは報告されている。しかし冷却を行った場合や,冷却と温熱を交互に行った場合ではどの様な影響がもたらされるかについての報告は見受けられない。そこで本研究では,冷却や温熱刺激,冷却・温熱刺激の反復を行い,膝関節固有感覚を高め,パフォーマンス向上やスポーツ外傷の予防に繋がる方法を検討することを目的とする。
【方法】
対象は膝関節に既往のない健常大学生13例(男性5例,女性8例,年齢21.5±0.9歳,身長162.1±10.3cm,体重54.7±11.6kg)とした。測定には固有位置覚・運動覚測定装置(センサー応用社,広島)を使用した。位置覚の測定は,まず設定角度(膝屈曲15°,45°)を対象者に記憶させ,その後開始角度(膝屈曲90°)から2°/sで動かし,設定角度に達したと感じた時点でスイッチを押してもらった。この時の角度と設定角度との差の絶対値を記録した。運動覚の測定は,開始角度(膝屈曲15°,45°)から0.2°/sで下腿を屈曲・伸展方向に他動的に動かし,下腿が動いたと感じた時点で手元のスイッチを押してもらった。運動開始からスイッチを押すまでの経過時間を反応時間として記録した。測定条件は①対照群,②温熱群,③冷却群,④温熱+冷却群,⑤冷却+温熱群の5つとした。冷却・温熱は各20分間行い,その間の膝関節深部温度を深部温度モニター(TERUMO社,東京)で記録した。冷却・温熱刺激を繰り返す場合は連続して行った。上記の5条件を全ての対象者に対して行い,各条件終了後に固有位置覚・運動覚の測定を行った。各条件の実施および測定の順序はランダムとし,また各条件は全て別日に行った。5条件間での位置覚・運動覚の比較には一元配置分散分析を行い,下位検定としてBonferroni法による多重比較検定を行った。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象には事前に実験内容を説明し協力の同意を得た。本研究は,所属施設の倫理委員会の承認を得て実施した。
【結果】
位置覚の誤差角度は全ての条件で有意な差は認められなかった。運動覚の反応時間は,膝屈曲45°からの伸展方向で,冷却群に比較して冷却+温熱群で有意に短くなった(P<0.05)。また各条件での深部温は安静時と比較して,②温熱群:+3.60±1.43℃,③冷却群:-1.66±2.57℃,④温熱+冷却群:-0.15±2.29℃,⑤冷却+温熱群:0.71±1.96℃(mean±SD)の変化を示し,②温熱群のみ安静時と比較して有意に上昇した(P<0.05)。
【考察】
運動覚の膝屈曲45°からの伸展方向において,冷却+温熱群が冷却群と比較して有意に反応時間の減少を示した。これは運動覚に深く関係する迅速順応型メカノレセプターのパチニ小体が関与した可能性が考えられる。このパチニ小体は関節包内の滑膜に接合する小血管周囲に存在し,主に関節包に作用する圧迫力によって刺激を受けるとされている。冷却後に生じる血管の生理的反応として,血管収縮およびその後の血管拡張が考えられているが,冷却により関節包への血流量が増加,関節包周囲に存在するパチニ小体が活性化されたと推察される。さらに温熱刺激を加えることで神経伝導速度の上昇が生じたものと考える。このため,温熱群よりも冷却+温熱群で有意な変化が生じたと推察できる。一方,位置覚では全ての条件で有意差が認められなかった。これは,今回冷却を行った膝関節部に存在し,位置覚の検出に関与するゴルジ腱器官は冷却によって影響を受けないことが関与したと考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果より,冷却+温熱時において運動覚の反応時間が最も短縮することが示された。これによりスポーツ外傷の予防に繋がるウォーミングアップ方法の検討の一助になると考える。