第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 運動器理学療法 ポスター

骨・関節16

Sat. May 31, 2014 9:30 AM - 10:20 AM ポスター会場 (運動器)

座長:青木利彦(住友病院リハビリテーション科)

運動器 ポスター

[0729] 筋腱移行部及び腱骨移行部刺激が筋収縮能力に与える影響について

森川綾子1, 祝広孝1, 大通恵美1, 大城広幸1, 猿渡勇1, 野中昭宏1, 関誠2, 古野信宏1, 近藤真喜子1, 坂田光弘1, 木村直子1 (1.医療法人曽我病院, 2.帝京大学福岡医療技術学部理学療法学科)

Keywords:筋腱移行部, 筋収縮速度, 筋弛緩不全

【はじめに,目的】
我々は第47回学術大会において筋腱移行部及び腱骨移行部刺激(Muscle tendon junction and Enthesis Stimulation:以下,MES)の実施方法と刺激筋の筋緊張抑制に伴う伸張性向上により拮抗方向への自動関節可動域が拡大することを報告したが,臨床におけるMES実施後の評価にて刺激筋の拮抗筋に筋力向上が認められる場合も少なくない。それは評価を行う療法士の感覚に限らず,運動を行う対象者側も「力が出しやすくなった」と運動感覚の変化を自覚していることが多く,拮抗方向への自動関節可動域拡大には刺激筋の伸張性向上に加え拮抗筋の筋収縮能力の向上も関与していると考える。しかし,臨床における評価では徒手的な筋力評価や対象者の感覚変化など,主観的な感覚に頼らざるを得ず,その実態は不明である。
今回の研究の目的は,等速性筋力測定装置を用い,膝関節伸展筋である外側広筋の筋腱移行部へ刺激した前後の膝関節屈曲における最大トルク値及び最大トルク発生時間を測定し,MESによる拮抗筋の筋収縮能力の変化及び療法士や対象者が主観的に感じる筋力変化の実態を明確にすることにある。
【方法】
対象は既往疾患を持たない健常男性12名(年齢22.3±1.8歳)とし,MESを行うMES群6名とMESを行わないコントロール群(以下,C群)6名に分けた。測定は右下肢を対象に行い,等速性筋力測定装置(Biodex system3:酒井医療株式会社)を用いて,等速性運動での膝関節屈曲筋力を測定した。測定肢位は股関節屈曲80°の端坐位とし,体幹・大腿部をベルトでシートに固定,両上肢はベルトを把持させた。伸張反射を避けるため関節運動範囲を膝関節屈曲50-100°に設定し,角速度は300deg/secで膝関節伸展・屈曲の反復運動5回を1セットとし,3セット実施。それぞれのセット間に60秒の休息時間を設定し,MES群では2-3セット間の休息時間内(休息開始から30秒経過後)に外側広筋の筋腱移行部(大腿直筋外側縁との境界の深層)に対し軽い圧迫刺激を近位部と遠位部にそれぞれ5秒間加え,C群は刺激を加えず休息とした。また,運動方法の確認のため事前に練習日を設け,1週間の間隔を空けた後測定を行った。筋収縮能力を評価する指標として膝関節屈曲時の最大トルク値を体重で正規化した値(以下,体重比)と最大トルク発生時間を用い,両群の2-3セット間の変化率を比較。統計処理にはWilcoxonの順位和検定を用いた。
【倫理的配慮,説明と同意】
全ての対象者には事前に本研究の趣旨を十分に説明し,同意を得た上で実施した。
【結果】
体重比では2-3セット間の変化率がMES群で2.1±8.2%,C群で-5.4±17.9%となり,両群に有意差は認められなかった。最大トルク発生時間の変化率においてはMES群で-2.5±3.8%,C群で22.9±10.5%となり,MES群にて有意な時間の短縮を認めた(P<0.01)。
【考察】
ある筋に持続する緊張状態(以下,筋弛緩不全)が存在する場合,その拮抗筋は相反抑制による持続的な抑制状態にあると考えられ,MESによる筋弛緩不全の改善は,拮抗筋の抑制解除による筋収縮能力の向上に繋がると考えられる。今回,臨床で経験するMES施行前後の筋力変化について,等速性筋力測定装置を用い筋収縮能力の客観的な評価を行った結果,刺激筋と拮抗側の体重比に有意な増加は認められなかったものの,最大トルク発生時間の有意な短縮を認め,MESにより拮抗筋の収縮速度が向上したことを確認した。
実際に5秒程度の刺激で実質的な筋力の向上が得られるとは考えがたく,評価時に療法士が感じる筋力の向上は筋収縮速度が速くなることで徒手抵抗を加えるタイミングに遅れが生じたためと考えられ,対象者側でも運動時に適切なタイミングでの筋収縮が得られるようになり,自覚的には筋力向上として捉えられているものと考えられる。今回の研究では健常な若年男性を対象としており,筋の機能不全を引き起こしやすい高齢者の場合,筋収縮能力の変化は,より大きい可能性がある。今後,対象年齢の幅を拡大するとともに対象者数を増やし,また筋形態や筋収縮形態の違いによる効果の違いなど,出来る限り客観的な視点でMESの効果について検証を行っていきたい。
【理学療法学研究としての意義】
臨床で用いられている各種手技療法では「筋が緩んだ」「筋パフォーマンスが向上した」といった様々な効果が紹介されるが,その効果は臨床における手技前後の療法士及び対象者側の主観的な感覚をもとに語られることが多く,実際に客観的指標を用いて検討した例はまだ少ない。今回の研究はそのような手技前後の主観的変化について客観的指標を用いて検討したものであり,より適切なアプローチの選択やその効果の有効利用に繋がると考える。