[0734] 脳卒中片麻痺患者の遊脚期における代償動作の分析
キーワード:脳卒中片麻痺患者, 麻痺側遊脚期, 代償動作
【はじめに,目的】
片麻痺患者の歩行能力改善に関しては,下肢機能訓練量の重要性が述べられるなど,麻痺側立脚期における問題点の観点から検討した報告が多い。
また,片麻痺患者の運動療法においては,体幹の代償運動を抑制し効率的な運動へ導くことの重要性が述べられている。
近年,下肢の振出しをアシストする福祉機器の開発が著しいが,片麻痺患者の歩行において,麻痺側遊脚期の補助という観点から歩行時の体幹代償動作に着目した報告は少ない。
そこで本研究では,麻痺側遊脚期条件の違いが体幹代償動作に及ぼす影響を,筋電図学的分析と映像による動作分析に着目して検討したので報告する。
【方法】
対象は左片麻痺患者41歳の男性(104病日,Br.stageII/II/III)とした。歩行課題は,Body Weight Supported Systemを用いたトレッドミル課題とし,BWSsystemの設定は歩行速度0.6km/h,免荷率20~25%とした。麻痺側下肢の各条件として①補助なし(以下裸足)②底屈制限による足関節補助(以下装具)③単脚型HAL CVCmodeによる股・膝関節補助(以下CVC)④単脚型HAL CACmodeによる股・膝関節補助(以下CAC)とした。HAL CVCmodeは生体電位信号を基に股・膝関節をアシストする随意制御モード,HAL CACmodeは床反力センサーにより姿勢情報を読み取り,遊脚期をアシストする自律制御モードである。
評価方法は,筋電図解析ソフトウェア(Noraxon)を用いた表面筋電計測(EMG)とデジタルビデオカメラを用いた画像解析とした。EMGの導出筋は麻痺側の大腿直筋,大殿筋(上部繊維),外側広筋,大腿二頭筋とした。解析には,歩行が定常状態に達してからの3歩行周期を抽出し,得られたデータより各筋の平均%MVCを算出した。画像解析は,画像解析ソフト(ImageJ)を用いて,麻痺側Pre-swing時の静止画上で「Th7から鉛直方向への垂線」と「Th7と股関節外転軸点を結ぶ線」がなす角度をθと定め,3歩行周期の角度θの平均値を算出し,前額面上における体幹傾斜の代償動作を各々の条件で比較した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ条約に従い,対象者には研究内容を説明し,同意を得た。
【結果】
麻痺側Pre-swing時の角度θ(°)は,裸足(14.6)装具(16.5)CVC(17.6)CAC(19.9)の順に高値を示した。各筋の平均%MVC(%)は,大腿直筋は裸足(14.8)装具(5.33)CVC(4.84)CAC(7.05),大殿筋は裸足(15.8)装具(6.72)CVC(6.6)CAC(11.8),外側広筋は裸足(14.6)装具(0.987)CVC(1.41)CAC(2.6),大腿二頭筋は裸足(5.99)装具(13.9)CVC(6.7)CAC(6.55)という結果となった。
【考察】
麻痺側遊脚期補助なし(裸足)と補助あり(装具・CVC・CAC)の比較では,補助ありでθの値が高値を示し,体幹傾斜による代償動作が軽減した。各筋の平均%MVCは,補助なしで大腿二頭筋を除く全ての筋が高値を示した。特に股関節では,主動作筋と拮抗筋が共に高値を示し,体幹傾斜の増大に加えて振出しの代償により過剰な筋活動が引き起こされたと考える。また,足関節補助(装具)と股・膝関節補助(CVC・CAC)の比較では,股・膝関節補助で体幹代償動作の軽減が認められた。各筋の平均%MVCは,足関節補助の大腿二頭筋平均%MVCが,股・膝関節補助と比較して200%以上の高値を示した。画像分析より,足関節補助では体幹と骨盤帯の回旋を伴った股関節外旋位にて振出しを代償する傾向が強く認められたことで,過剰な大腿二頭筋の筋活動が引き起こされたと考える。股・膝関節補助のCVCとCACの比較では,CACで体幹代償動作の軽減が認められ,平均%MVCは大腿直筋と大殿筋が高値を示した。股関節屈曲の主動作筋である大腿直筋は,CACによる自律的なアシストにより筋活動が増大したと考える。しかし,同時に大殿筋でも高値を示す結果となり,これはCACの床反力センサーの感知による麻痺側遊脚期のアシストと装着者の意図したタイミングが異なったことで,股関節運動方向と拮抗する筋活動が引き起こされたと考える。
これらのことから,麻痺側遊脚期の振出し補助による体幹代償動作の軽減が認められ,且つ体幹代償動作の軽減に伴い麻痺側Pre-swing時において適切な下肢筋活動を引き起こすことが示唆された。しかし,単脚型HAL CVCmodeとCACmodeに関しては,各々の制御の特性を考慮した上で用いていく必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
センシング技術の進歩により様々な感知方法により運動をアシストするロボットが開発されており,機器の特性を理解した理学療法技術の検証が必要となってきている。
本研究は,片麻痺患者一名の麻痺側遊脚期補助による体幹代償動作の検討であるため,症例を増やし検討することで効果的な理学療法技術の寄与に貢献できると思われる。
片麻痺患者の歩行能力改善に関しては,下肢機能訓練量の重要性が述べられるなど,麻痺側立脚期における問題点の観点から検討した報告が多い。
また,片麻痺患者の運動療法においては,体幹の代償運動を抑制し効率的な運動へ導くことの重要性が述べられている。
近年,下肢の振出しをアシストする福祉機器の開発が著しいが,片麻痺患者の歩行において,麻痺側遊脚期の補助という観点から歩行時の体幹代償動作に着目した報告は少ない。
そこで本研究では,麻痺側遊脚期条件の違いが体幹代償動作に及ぼす影響を,筋電図学的分析と映像による動作分析に着目して検討したので報告する。
【方法】
対象は左片麻痺患者41歳の男性(104病日,Br.stageII/II/III)とした。歩行課題は,Body Weight Supported Systemを用いたトレッドミル課題とし,BWSsystemの設定は歩行速度0.6km/h,免荷率20~25%とした。麻痺側下肢の各条件として①補助なし(以下裸足)②底屈制限による足関節補助(以下装具)③単脚型HAL CVCmodeによる股・膝関節補助(以下CVC)④単脚型HAL CACmodeによる股・膝関節補助(以下CAC)とした。HAL CVCmodeは生体電位信号を基に股・膝関節をアシストする随意制御モード,HAL CACmodeは床反力センサーにより姿勢情報を読み取り,遊脚期をアシストする自律制御モードである。
評価方法は,筋電図解析ソフトウェア(Noraxon)を用いた表面筋電計測(EMG)とデジタルビデオカメラを用いた画像解析とした。EMGの導出筋は麻痺側の大腿直筋,大殿筋(上部繊維),外側広筋,大腿二頭筋とした。解析には,歩行が定常状態に達してからの3歩行周期を抽出し,得られたデータより各筋の平均%MVCを算出した。画像解析は,画像解析ソフト(ImageJ)を用いて,麻痺側Pre-swing時の静止画上で「Th7から鉛直方向への垂線」と「Th7と股関節外転軸点を結ぶ線」がなす角度をθと定め,3歩行周期の角度θの平均値を算出し,前額面上における体幹傾斜の代償動作を各々の条件で比較した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ条約に従い,対象者には研究内容を説明し,同意を得た。
【結果】
麻痺側Pre-swing時の角度θ(°)は,裸足(14.6)装具(16.5)CVC(17.6)CAC(19.9)の順に高値を示した。各筋の平均%MVC(%)は,大腿直筋は裸足(14.8)装具(5.33)CVC(4.84)CAC(7.05),大殿筋は裸足(15.8)装具(6.72)CVC(6.6)CAC(11.8),外側広筋は裸足(14.6)装具(0.987)CVC(1.41)CAC(2.6),大腿二頭筋は裸足(5.99)装具(13.9)CVC(6.7)CAC(6.55)という結果となった。
【考察】
麻痺側遊脚期補助なし(裸足)と補助あり(装具・CVC・CAC)の比較では,補助ありでθの値が高値を示し,体幹傾斜による代償動作が軽減した。各筋の平均%MVCは,補助なしで大腿二頭筋を除く全ての筋が高値を示した。特に股関節では,主動作筋と拮抗筋が共に高値を示し,体幹傾斜の増大に加えて振出しの代償により過剰な筋活動が引き起こされたと考える。また,足関節補助(装具)と股・膝関節補助(CVC・CAC)の比較では,股・膝関節補助で体幹代償動作の軽減が認められた。各筋の平均%MVCは,足関節補助の大腿二頭筋平均%MVCが,股・膝関節補助と比較して200%以上の高値を示した。画像分析より,足関節補助では体幹と骨盤帯の回旋を伴った股関節外旋位にて振出しを代償する傾向が強く認められたことで,過剰な大腿二頭筋の筋活動が引き起こされたと考える。股・膝関節補助のCVCとCACの比較では,CACで体幹代償動作の軽減が認められ,平均%MVCは大腿直筋と大殿筋が高値を示した。股関節屈曲の主動作筋である大腿直筋は,CACによる自律的なアシストにより筋活動が増大したと考える。しかし,同時に大殿筋でも高値を示す結果となり,これはCACの床反力センサーの感知による麻痺側遊脚期のアシストと装着者の意図したタイミングが異なったことで,股関節運動方向と拮抗する筋活動が引き起こされたと考える。
これらのことから,麻痺側遊脚期の振出し補助による体幹代償動作の軽減が認められ,且つ体幹代償動作の軽減に伴い麻痺側Pre-swing時において適切な下肢筋活動を引き起こすことが示唆された。しかし,単脚型HAL CVCmodeとCACmodeに関しては,各々の制御の特性を考慮した上で用いていく必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
センシング技術の進歩により様々な感知方法により運動をアシストするロボットが開発されており,機器の特性を理解した理学療法技術の検証が必要となってきている。
本研究は,片麻痺患者一名の麻痺側遊脚期補助による体幹代償動作の検討であるため,症例を増やし検討することで効果的な理学療法技術の寄与に貢献できると思われる。