第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 神経理学療法 ポスター

発達障害理学療法1

Sat. May 31, 2014 9:30 AM - 10:20 AM ポスター会場 (神経)

座長:石塚和重(筑波技術大学保健科学部保健学科理学療法学専攻)

神経 ポスター

[0736] 肺内パーカッションベンチレータ施行中の動脈血炭酸ガス分圧の変化について

美濃邦夫1, 羽原史恭1, 西達也1, 大下浩希1, 青山香1, 永田裕恒1, 山本奈月1, 久山美奈子1, 大田原幸子1, 花田華名子2 (1.旭川荘療育・医療センター旭川児童院療育課, 2.旭川荘療育・医療センター小児科)

Keywords:重症心身障害, 肺内パーカッションベンチレータ, 動脈血二酸化炭素分圧

【はじめに】
重症心身障害児(者)(以下,重症児(者))に対して,排痰や無気肺の予防・改善などの手段として肺内パーカッションベンチレータ(以下IPV)が用いられることが多い。IPVの効果の報告は多数あり,多くの施設で実施されているがIPVの適応や治療プロトコール,評価は標準化されておらず,少しずつ研究がなされている。その中で,換気の指標である動脈血炭酸ガス分圧(以下PCO2)のモニタリング,呼吸抑制防止のためにEasy position,またはAverage positionで終了することが推奨されている。しかし,施行前後の終末期呼気炭酸ガス濃度の計測の報告はあるものの,施行中のPCO2を連続的にモニタリングした報告はない。そこで今回,重症児(者)1名に対し,IPV施行中に動脈血酸素飽和度(以下SpO2),脈拍数(以下PR)に加えてPCO2を連続的にモニタリングした。
【方法】
対象は当院通園センターに通う43歳男性。診断名は脳性まひ。Gross Motor Function Classification Systemレベル5で,筋緊張が変動しやすい特徴をもっている。日常会話の理解,Yes/Noの受け答えは可能である。日常的に痰が多くなったため平成22年6月より週1回の頻度でマスクによるIPVを開始し,現在も継続している。本症例は現在までにIPV施行後の呼吸抑制は認めていない。
期間は平成25年5月~11月で,計17回のIPV施行中にPCO2・SpO2・PRを連続的にモニタリングした。作動圧は17回中14回が20psi,3回が25psiで,頻度と時間はEasy position 5分,Average position5分,Hard position5分,最後にAverage position1分の計16分間を毎回施行し,開始0分(0分)/開始5分後(5分)/10分後(10分)/15分後(15分)/16分後(終了)/終了5分後(終了5分)の値を記録し,その平均値を示した。モニタリングにはPCO2・SpO2・PRをイヤークリップを用いて非侵襲的に,かつ連続的にモニタリング可能な経皮的炭酸ガス分圧測定器(センテックデジタルモニターシステム,販売元:株式会社東機貿)を使用した。
【説明と同意】
本発表にあたり,趣旨と目的をご本人とご家族に説明し,承諾を得た。
【結果】
20psiのとき,PCO2(mmHg)の0分/5分/10分/15分/終了/終了5分の平均値は38.2/38.5/37.5/35.9/37.1/37.8であった。同様にSpO2(%)は98.3/100/100/99.9/100/99.5,PR(bpm)は91/90.1/87.3/89.5/88.8/89.4であった。
25psiのとき,同様にPCO2(mmHg)は38.3/38.5/37.8/36.4/37.5/37.7,SpO2(%)は98.7/100/100/100/100/99.3,PR(bpm)は86/85/85.3/86/85.7/85であった。
PCO2,SpO2,PRとも作動圧による違いは見られなかった。PCO2において,開始5分間は若干ではあるが値が上昇し,5~15分で減少し,最後の1分で再度上昇する傾向を示した。本症例はPCO2のベースラインは高くなく,減少も2mmHg前後であった。SpO2において,施行中は100%に近い値を維持していた。PRにおいて,施行中は開始時より若干低下した。
どちらの作動圧においてもIPV施行後には喀痰を認めた。呼吸音は20psiに比べ25psiの方がより大きかった。IPVに対してご本人は『楽になる』,母は『これをした日は自分で痰が出しやすそう』と言われている。IPV開始から現在まで肺炎に罹患することなく過ごせている。
【考察】
本症例は開始5分以内にIPVの陽圧換気による刺激で全身が緊張することが多かった。そのためPCO2の値ははじめ上昇し,その後,陽圧換気に慣れて同調していくことで減少する傾向を示したと考える。最後にAverage position1分加えて終了することで,Hard positionで減少したPCO2の値が若干上昇した。この結果から,Average positionで終了することは過換気による呼吸抑制防止に有効である可能性がある。
今後は症例数を増やしていき,作動圧を上げることによるPCO2の変動やPCO2のベースラインによる違い,排痰や無気肺予防の効果との関連性,更に気管切開の場合についての検討が必要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
呼吸障害やそれに伴う症状が多岐にわたる重症児(者)に対して,IPV施行中にSpO2やPRだけでなくPCO2を連続的にモニタリングすることは,作動圧や頻度,時間を決定する上で重要な情報になる。重症児(者)に対するIPVにおいて治療プロトコールや適応,評価の標準化が求められており,そのためにはこれらのデータの蓄積が必要である。