[0737] 食道閉鎖症,気管軟化症,気管食道廔を合併した症例への
哺乳練習を中心とした発達支援の経験
Keywords:ハイリスク新生児, 嚥下障害, 哺乳練習
【はじめに】
当院では新生児の哺乳練習に理学療法士(以下PT)が早期から介入している。今回呼吸及び嚥下障害のある症例に新生児期から介入し,哺乳練習を中心に発達支援を実施した。医師,看護師,家族と連携して統一した支援を行い,経口栄養摂取の実用化が得られたので報告する。
【対象と方法】
症例は0歳女児 在胎40週5日,2,756gにて出生。アプガースコア9/10。診断名 食道閉鎖症,気管軟化症,気管食道廔,動脈管開存症。日齢0食道閉鎖根治術施行。日齢11動脈管開存症閉鎖術施行。日齢17から気管食道瘻再発に対し,保存的治療と経管経腸栄養管理を行ったが瘻孔は閉鎖せず,日齢37気管食道廔切離術施行。手術後気道閉塞症状による呼吸状態悪化に対して長期鎮静管理を経て日齢60挿管呼吸管理終了。日齢73から哺乳練習を開始し,日齢150必要哺乳量を経口摂取可となって退院した。この症例の臨床像と経過についてカルテ記録から調査を行い,新生児期からの理学療法士による哺乳練習を中心とした発達支援の有効性について考察を行った。
【説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づいて,対象児の保護者に経過を発表する機会を持つことについて説明し同意を得た。
【結果】
日齢4から無気肺に対して呼吸理学療法施行。気道閉塞症状緩和のための長期鎮静管理終了後は,看護ケアとして人工乳首を症例の口腔内に入れて情緒を安定させていたが,人工乳首に対する吸啜運動はほとんど見られなかった。そのためPTの指で口唇や舌に刺激を与えて運動を促した。舌が口腔内の奥で停滞していたが,刺激の方向や圧を変化させながら誘導すると舌が前方へ出やすくなり,吸啜運動が得やすくなった。挿管呼吸管理終了後も気管軟化症と食道狭窄が残存し,嚥下運動不十分のため唾液が口腔内に貯留しやすかった。造影検査にて明らかな誤嚥はなく,胃・食道逆流は注入量20mlで顕在化することが確認されたため,医師の指示により10mlを上限として,びんでの哺乳練習を開始した。しかし哺乳練習中の喘鳴の増加,SpO2の低下などの呼吸状態低下から,10mlまで哺乳練習をするのは危険性が高いと判断して,哺乳量の上限を3mlとした。哺乳時の姿勢は全身の筋緊張を高めて安定させる目的でタオルで全身を包み,頸部を軽度伸展させて呼吸を確保しつつ,下顎を介助して吸啜の持続を促した。吸啜が持続して口腔内にミルクが移行しても嚥下が追いつかない時は,びんの傾きを軽減したり一旦吸啜を休止させた。看護師,家族と連携し,哺乳量,哺乳時の姿勢と介助の仕方を統一し,1回の哺乳練習時間は15分位までとして,1日1回実施した。PTは自発運動促通や頭部コントロールの練習も並行して実施した。呼吸状態や発熱などの全身状態の情報を適宜医師に確認しながら継続して実施した。哺乳練習開始から22日目に哺乳量上限を3mlから10mlに増量した。体調が維持できていたため哺乳練習開始30日目から1日2回に練習回数を増やした。10ml哺乳後も哺乳意欲があり,哺乳練習中,ほぼ呼吸状態を維持できるようになったため練習開始35日目からは哺乳量上限を15mlに増量した。練習開始40日目から1日3回に哺乳練習回数を増やし,練習開始41日目から哺乳量の上限をなくして哺乳させたところ15~40ml哺乳可となった。練習開始55日目,日齢137からPHモニタリングを機に経腸栄養チューブを抜去した状態で哺乳練習をしたところ,毎回90~120ml哺乳可となり,経口栄養摂取の実用化が得られた。母からの直接授乳練習も開始し,同様にほぼ必要量を摂取できるようになった。胃・食道逆流症状は残存しているが,哺乳による嘔吐やSpO2の低下は見られていない。
【考察】
経口栄養摂取の実用化が得られた理由として①挿管呼吸器管理終了後,早期に口腔内刺激や哺乳練習を開始したこと②造影検査の結果から安全に哺乳練習を進めるための量的目安を決定しやすかったこと③哺乳しやすい姿勢や介助の仕方をPTが評価し,看護師や家族と統一した介入ができたこと④並行して運動発達を促したことで自発運動と頭部のコントロールが向上したことが考えられる。経腸栄養チューブを抜去したことで哺乳量増加が認められたことから,経腸栄養チューブが哺乳運動の阻害因子の一つになっていたと考えられるが,口腔内運動や嚥下運動の不十分を解決するべく介入を継続し,哺乳運動がほぼ獲得された後の抜去であったため,より実用的な哺乳量獲得に至ったと思われる。
【理学療法学研究としての意義】
呼吸及び嚥下障害がある新生児期の症例に早期からPTが呼吸理学療法や哺乳練習を含めた発達支援を行うこと,介入に必要な症例の状態や検査結果などの情報を適宜得ること,統一した介入を行うために関係者間で連携することの重要性を認識できた。
当院では新生児の哺乳練習に理学療法士(以下PT)が早期から介入している。今回呼吸及び嚥下障害のある症例に新生児期から介入し,哺乳練習を中心に発達支援を実施した。医師,看護師,家族と連携して統一した支援を行い,経口栄養摂取の実用化が得られたので報告する。
【対象と方法】
症例は0歳女児 在胎40週5日,2,756gにて出生。アプガースコア9/10。診断名 食道閉鎖症,気管軟化症,気管食道廔,動脈管開存症。日齢0食道閉鎖根治術施行。日齢11動脈管開存症閉鎖術施行。日齢17から気管食道瘻再発に対し,保存的治療と経管経腸栄養管理を行ったが瘻孔は閉鎖せず,日齢37気管食道廔切離術施行。手術後気道閉塞症状による呼吸状態悪化に対して長期鎮静管理を経て日齢60挿管呼吸管理終了。日齢73から哺乳練習を開始し,日齢150必要哺乳量を経口摂取可となって退院した。この症例の臨床像と経過についてカルテ記録から調査を行い,新生児期からの理学療法士による哺乳練習を中心とした発達支援の有効性について考察を行った。
【説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づいて,対象児の保護者に経過を発表する機会を持つことについて説明し同意を得た。
【結果】
日齢4から無気肺に対して呼吸理学療法施行。気道閉塞症状緩和のための長期鎮静管理終了後は,看護ケアとして人工乳首を症例の口腔内に入れて情緒を安定させていたが,人工乳首に対する吸啜運動はほとんど見られなかった。そのためPTの指で口唇や舌に刺激を与えて運動を促した。舌が口腔内の奥で停滞していたが,刺激の方向や圧を変化させながら誘導すると舌が前方へ出やすくなり,吸啜運動が得やすくなった。挿管呼吸管理終了後も気管軟化症と食道狭窄が残存し,嚥下運動不十分のため唾液が口腔内に貯留しやすかった。造影検査にて明らかな誤嚥はなく,胃・食道逆流は注入量20mlで顕在化することが確認されたため,医師の指示により10mlを上限として,びんでの哺乳練習を開始した。しかし哺乳練習中の喘鳴の増加,SpO2の低下などの呼吸状態低下から,10mlまで哺乳練習をするのは危険性が高いと判断して,哺乳量の上限を3mlとした。哺乳時の姿勢は全身の筋緊張を高めて安定させる目的でタオルで全身を包み,頸部を軽度伸展させて呼吸を確保しつつ,下顎を介助して吸啜の持続を促した。吸啜が持続して口腔内にミルクが移行しても嚥下が追いつかない時は,びんの傾きを軽減したり一旦吸啜を休止させた。看護師,家族と連携し,哺乳量,哺乳時の姿勢と介助の仕方を統一し,1回の哺乳練習時間は15分位までとして,1日1回実施した。PTは自発運動促通や頭部コントロールの練習も並行して実施した。呼吸状態や発熱などの全身状態の情報を適宜医師に確認しながら継続して実施した。哺乳練習開始から22日目に哺乳量上限を3mlから10mlに増量した。体調が維持できていたため哺乳練習開始30日目から1日2回に練習回数を増やした。10ml哺乳後も哺乳意欲があり,哺乳練習中,ほぼ呼吸状態を維持できるようになったため練習開始35日目からは哺乳量上限を15mlに増量した。練習開始40日目から1日3回に哺乳練習回数を増やし,練習開始41日目から哺乳量の上限をなくして哺乳させたところ15~40ml哺乳可となった。練習開始55日目,日齢137からPHモニタリングを機に経腸栄養チューブを抜去した状態で哺乳練習をしたところ,毎回90~120ml哺乳可となり,経口栄養摂取の実用化が得られた。母からの直接授乳練習も開始し,同様にほぼ必要量を摂取できるようになった。胃・食道逆流症状は残存しているが,哺乳による嘔吐やSpO2の低下は見られていない。
【考察】
経口栄養摂取の実用化が得られた理由として①挿管呼吸器管理終了後,早期に口腔内刺激や哺乳練習を開始したこと②造影検査の結果から安全に哺乳練習を進めるための量的目安を決定しやすかったこと③哺乳しやすい姿勢や介助の仕方をPTが評価し,看護師や家族と統一した介入ができたこと④並行して運動発達を促したことで自発運動と頭部のコントロールが向上したことが考えられる。経腸栄養チューブを抜去したことで哺乳量増加が認められたことから,経腸栄養チューブが哺乳運動の阻害因子の一つになっていたと考えられるが,口腔内運動や嚥下運動の不十分を解決するべく介入を継続し,哺乳運動がほぼ獲得された後の抜去であったため,より実用的な哺乳量獲得に至ったと思われる。
【理学療法学研究としての意義】
呼吸及び嚥下障害がある新生児期の症例に早期からPTが呼吸理学療法や哺乳練習を含めた発達支援を行うこと,介入に必要な症例の状態や検査結果などの情報を適宜得ること,統一した介入を行うために関係者間で連携することの重要性を認識できた。