第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 神経理学療法 ポスター

発達障害理学療法1

2014年5月31日(土) 09:30 〜 10:20 ポスター会場 (神経)

座長:石塚和重(筑波技術大学保健科学部保健学科理学療法学専攻)

神経 ポスター

[0738] 右股関節脱臼を呈した脳性麻痺痙直型両麻痺児に対する股関節観血整復術及び大腿骨減捻内反骨切り術後の理学療法経験

高木健志1, 新田收2, 楠本泰士1,3 (1.南多摩整形外科病院, 2.首都大学東京健康福祉学部理学療法学科, 3.東京工科大学医療保健学部理学療法学科)

キーワード:脳性麻痺, 歩行, ホームエクササイズ

【はじめに,目的】
脳性麻痺児者の股関節脱臼に対し,股関節観血的整復術(以下:OR)と大腿骨減捻内反骨切り術(以下:DVO)を行った患者において,歩行機能の再獲得に苦渋することがある。現在,股関節の高度脱臼に対し,選択的筋解離術(以下:OSSCS)を行った後,ORとDVOが行われている。ORは,術後に股関節外転位を保持するため,ギプス固定と股関節外転装具の24時間装着を6ヵ月間続け,立位荷重は制限される。そのため,手術による筋力低下,ギプス・装具・非荷重による影響で廃用性の粗大運動能力の低下をきたすことがあり,退院後のホームエクササイズ(以下:HE)とHE実行率向上のための患者指導が重要となる。
今回,右股関節脱臼の影響で立位荷重時に股関節に疼痛が生じ歩行不能となった症例が,ORとDVOを行った。術後,粗大運動能力の低下を示したが,ほぼ毎日HEを行い12ヶ月後にクラッチ歩行を再獲得したため報告する。
【方法】
本症例は,粗大運動能力分類システム(以下:GMFCS)レベルIIIの脳性麻痺痙直型両麻痺の12歳男児で,右股関節脱臼の荷重時痛によりクラッチ歩行が不可能となった。両股関節周囲のOSSCSを行った4ヶ月後に,ORとDVOを行った。OSSCSの前後,OR・DVO後6ヶ月・12ヶ月時に,Migration Percentage(以下MP),他動関節可動域,筋力,10m歩行,脳性まひ児の粗大運動能力尺度(以下:GMFM)を測定した。OR・DVO後6ヵ月時の筋力の測定は,疼痛の訴えがあり行わなかった。
入院中は週3~4回,1回40~60分,術後2日目より理学療法を行なった。退院後は月1~2回,各60分の理学療法を行なった。非荷重時期は,ROMex,Open Kinetic Chainでの筋力増強,平行棒内片脚立位を中心に行い,荷重時期(OR・DVO後6ヶ月~)はClosed Kinetic Chainでの筋力増強,膝立ち・立位練習,HEの指導を中心に適宜内容を変更しながら行った。HEは,非荷重時期は側臥位での股関節外転とクアドセッティング・左下肢片脚でのつかまり立ち,荷重時期は立ち上がり・立位保持・段差昇降を中心に行った。また,HEの実行率向上のため患者指導として,HEによる筋力維持・改善が廃用性機能低下の予防と機能回復に重要であることを説明した。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に則り症例報告の説明を行い,ご本人・ご家族の了承は得た。
【結果】
股関節外転可動域(単位:°)は5/15(右/左,OSSCS前)→10/15(OSSCS後1ヶ月時)→30/20(DVO+OR後6ヶ月時)→45/25(DVO+OR後12ヶ月時),膝伸展は-10/-15→-5/-5→-5/-5→-5/-5と変化し,筋力(単位:N)は股関節外転が52/67→31/74→結果無し(左右ともMMT3レベル)→107/67,膝関節伸展は122/191→62/129→結果無し(右MMT2,左3レベル)→90/117と変化し,MP(単位:%)は91/41→67/34→0/34→0/34,GMFM総合点は61%→62%→56%→68%,10m歩行はDVO・OR後6ヶ月時まで不可能だったが,DVO・OR後12カ月時に両クラッチ使用で48秒となった。立位荷重時の疼痛はDVO・OR後6ヵ月時には消失していた。
OR・DVO後6ヶ月目から装具を外し,立位荷重練習を始めた。HE実行率はほぼ毎日であり,12ヶ月目で短距離のクラッチ歩行が可能となった。
【考察】
OSSCS前は股関節脱臼による荷重時の疼痛,関節可動域の骨性・疼痛性の制限,股関節外転の筋力低下が認められた。外転の筋力低下は,脱臼による中殿筋の収縮不全と内転筋過緊張が影響していたと考えられる。これらが原因でGMFMの膝立ち・立位・歩行に減点があり,さらにクラッチ歩行が不可能となったものと考えた。OSSCS後は,可動域は改善したが脱臼は残存しており,荷重時に右股関節に疼痛が出現していた。DVO・OR後はMPは0%に改善し,脱臼による疼痛は消失したが,6ヶ月間のギプス・装具による動作・荷重制限により,右膝関節の伸展筋力は大きく低下し,GMFMスコアは低下した。股関節外転の筋力低下は軽度であり,これは患者指導により股関節外転練習のHEをほぼ毎日行った効果によるものだと考えた。さらにDVO・OR後12ヶ月時になると,膝伸展筋力の改善・立位・歩行経験の蓄積も加わり,GMFMスコアが改善し,クラッチ歩行も可能となった。
【理学療法学研究としての意義】
本症例は,膝関節の伸展筋力の低下を呈したが,患者指導によりHEをほぼ毎日行えたため股関節外転筋力の筋力低下は最少ですみ,12ヶ月で歩行を再獲得することができた。このことから,HEの実行率を上げるための患者指導と,より積極的な膝伸展筋力増強に対するHEが,歩行機能の再獲得に重要であることが示唆された。