[0743] 過去の喫煙習慣が急性冠症候群発症後の運動耐容能へ及ぼす影響
Keywords:急性冠症候群, Brinkman Index, 運動耐容能
【目的】
喫煙が健康へ与える悪影響については,肺癌・咽頭癌といった気道の悪性腫瘍および妊婦への影響などを中心に広く認識されているが,日本人の習慣喫煙者の割合は高い。さらに,喫煙が狭心症,心筋梗塞および脳血管疾患などの心血管系疾患の予防の観点からも,喫煙による影響と禁煙の有用性を指導することは重要な課題である。
Brinkman Index(BI)は,喫煙習慣の指標として総喫煙量を表す喫煙指数であり,1日の喫煙本数×喫煙年数で表され,数値が高いほど癌発生などのリスクが増大するといわれている。指数が700を超えると慢性気管支炎・肺気腫のみではなく,肺癌もしくは心疾患などの発症率にも影響を及ぼすとされている。これまでに狭心症(AP)および急性心筋梗塞(AMI)などの急性冠症候群(ACS)後の患者に対して心臓リハビリテーションを実施することで,血糖,血清脂質,血管内皮機能および運動耐容能に良好な影響を与えることは多数報告されている。しかし,心疾患の発症に影響を及ぼすとされているBIの数値での運動耐容能の変化についての検討は少ない。簡易に算出可能なBIを用いてACS後の運動耐容能について検討することにより,運動療法を確立するための基礎的データの証明をすることができる。そこで本研究では,ACS患者の有効な運動療法を確立するために,過去の喫煙習慣がACS発症後の運動耐容能へ及ぼす影響について検討することを目的とした。
【方法】
対象者は,2010年4月から2012年8月までに当院に入院し,心肺運動負荷試験(CPX)を施行したACS患者32症例(男性32例,平均年齢59.6±11.7歳)であり,BI:0~699の軽喫煙者18例(軽度喫煙群)およびBI:700以上の重喫煙者14例(重度喫煙群)であった。退院時の初回測定(baseline)より3ヵ月,6ヵ月にCPXを実施し,peakVO2,AT VO2,peakWRおよび各測定時のBNPの推移,入院前および6ヵ月後の1週間の運動時間をそれぞれ解析し,過去の喫煙習慣が及ぼす影響について分析した。また,CPXはRamp負荷法にて施行し,2分間のWarming up後に各症例の体重に応じた負荷量を1分毎に漸増した。すべてのデータは,平均±標準偏差で示し,SPSSver19.0を用いて,1週間の運動時間に関しては,対応のないT検定を用いて分析を行い,各群におけるpeakVO2およびAT VO2の経時的変化は反復による二元配置分散分析を行い有意水準はp<0.05とした。また,事後検定にはBonferroni/Dunn法を用いた。
【倫理的配慮】
本研究はヘルシンキ宣言および臨床研究に関する倫理指針に従って実施した。データは個人情報保護に十分に注意し,診療録より後方視的に調査した。
【結果および考察】
両群間における1週間の運動時間に関しては有意な差は認められなかった。軽度喫煙群のpeakVO2の経時的変化は,baselineで21.3±5.0ml.kg-1.min-1,3ヵ月後で22.3±5.7ml.kg-1.min-1,6ヵ月後で25.7±6.0ml.kg-1.min-1,重度喫煙群ではそれぞれ18.3±3.5ml.kg-1.min-1,20.2±4.1 ml.kg-1.min-1,19.8±4.0ml.kg-1.min-1であり,軽度喫煙群では6ヵ月後でbaselineより有意に高値を示し,重度喫煙群に有意な変動は認められず,6ヵ月後において両群間に有意な差が認められた。また,軽度喫煙群のATVO2の経時的変化は,それぞれ14.3±2.9ml.kg-1.min-1,13.6±3.3 ml.kg-1.min-1,14.8±3.6ml.kg-1.min-1,重度喫煙群ではそれぞれ13.3±2.6 ml.kg-1.min-1,12.6±2.4ml.kg-1.min-1,12.3±3.4ml.kg-1.min-1であり,両群における経時的変化および両群間に有意な差は認められなかった。
このように,入院前および6ヵ月後の1週間の運動時間に有意な差を認めなかった両群間において6ヵ月後のpeakVO2の値に両群間に有意な差が認められた要因の一つとして,長期間に渡り喫煙したことで,酸化LDLコレステロールもしくはホモシステインの増加により血管内皮細胞が障害される。その結果として,一酸化窒素およびプロスタサイクリンなどの産生が低下し,血管拡張作用の低下,内皮細胞への白血球粘着および炎症反応亢進による内皮細胞障害の促進が生じることで,重度喫煙群においてpeakVO2の著しい増加は認められなかったと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究を基に,ACS患者に対して運動処方を考えた場合,喫煙習慣の指標として総喫煙量を表す喫煙指数であるBIを参考として,FITT(頻度:frequency,強度:intensity,持続時間:time,タイプ:type)を検討し,持続的な運動だけではなくインターバルトレーニングなどの運動を提供する必要があると考える。今後,BIと脈波伝搬速度,血流依存性血管拡張反応および血液データなどの関係性について検討し,包括的な評価および運動処方の確立が必要不可欠であると考える。
喫煙が健康へ与える悪影響については,肺癌・咽頭癌といった気道の悪性腫瘍および妊婦への影響などを中心に広く認識されているが,日本人の習慣喫煙者の割合は高い。さらに,喫煙が狭心症,心筋梗塞および脳血管疾患などの心血管系疾患の予防の観点からも,喫煙による影響と禁煙の有用性を指導することは重要な課題である。
Brinkman Index(BI)は,喫煙習慣の指標として総喫煙量を表す喫煙指数であり,1日の喫煙本数×喫煙年数で表され,数値が高いほど癌発生などのリスクが増大するといわれている。指数が700を超えると慢性気管支炎・肺気腫のみではなく,肺癌もしくは心疾患などの発症率にも影響を及ぼすとされている。これまでに狭心症(AP)および急性心筋梗塞(AMI)などの急性冠症候群(ACS)後の患者に対して心臓リハビリテーションを実施することで,血糖,血清脂質,血管内皮機能および運動耐容能に良好な影響を与えることは多数報告されている。しかし,心疾患の発症に影響を及ぼすとされているBIの数値での運動耐容能の変化についての検討は少ない。簡易に算出可能なBIを用いてACS後の運動耐容能について検討することにより,運動療法を確立するための基礎的データの証明をすることができる。そこで本研究では,ACS患者の有効な運動療法を確立するために,過去の喫煙習慣がACS発症後の運動耐容能へ及ぼす影響について検討することを目的とした。
【方法】
対象者は,2010年4月から2012年8月までに当院に入院し,心肺運動負荷試験(CPX)を施行したACS患者32症例(男性32例,平均年齢59.6±11.7歳)であり,BI:0~699の軽喫煙者18例(軽度喫煙群)およびBI:700以上の重喫煙者14例(重度喫煙群)であった。退院時の初回測定(baseline)より3ヵ月,6ヵ月にCPXを実施し,peakVO2,AT VO2,peakWRおよび各測定時のBNPの推移,入院前および6ヵ月後の1週間の運動時間をそれぞれ解析し,過去の喫煙習慣が及ぼす影響について分析した。また,CPXはRamp負荷法にて施行し,2分間のWarming up後に各症例の体重に応じた負荷量を1分毎に漸増した。すべてのデータは,平均±標準偏差で示し,SPSSver19.0を用いて,1週間の運動時間に関しては,対応のないT検定を用いて分析を行い,各群におけるpeakVO2およびAT VO2の経時的変化は反復による二元配置分散分析を行い有意水準はp<0.05とした。また,事後検定にはBonferroni/Dunn法を用いた。
【倫理的配慮】
本研究はヘルシンキ宣言および臨床研究に関する倫理指針に従って実施した。データは個人情報保護に十分に注意し,診療録より後方視的に調査した。
【結果および考察】
両群間における1週間の運動時間に関しては有意な差は認められなかった。軽度喫煙群のpeakVO2の経時的変化は,baselineで21.3±5.0ml.kg-1.min-1,3ヵ月後で22.3±5.7ml.kg-1.min-1,6ヵ月後で25.7±6.0ml.kg-1.min-1,重度喫煙群ではそれぞれ18.3±3.5ml.kg-1.min-1,20.2±4.1 ml.kg-1.min-1,19.8±4.0ml.kg-1.min-1であり,軽度喫煙群では6ヵ月後でbaselineより有意に高値を示し,重度喫煙群に有意な変動は認められず,6ヵ月後において両群間に有意な差が認められた。また,軽度喫煙群のATVO2の経時的変化は,それぞれ14.3±2.9ml.kg-1.min-1,13.6±3.3 ml.kg-1.min-1,14.8±3.6ml.kg-1.min-1,重度喫煙群ではそれぞれ13.3±2.6 ml.kg-1.min-1,12.6±2.4ml.kg-1.min-1,12.3±3.4ml.kg-1.min-1であり,両群における経時的変化および両群間に有意な差は認められなかった。
このように,入院前および6ヵ月後の1週間の運動時間に有意な差を認めなかった両群間において6ヵ月後のpeakVO2の値に両群間に有意な差が認められた要因の一つとして,長期間に渡り喫煙したことで,酸化LDLコレステロールもしくはホモシステインの増加により血管内皮細胞が障害される。その結果として,一酸化窒素およびプロスタサイクリンなどの産生が低下し,血管拡張作用の低下,内皮細胞への白血球粘着および炎症反応亢進による内皮細胞障害の促進が生じることで,重度喫煙群においてpeakVO2の著しい増加は認められなかったと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究を基に,ACS患者に対して運動処方を考えた場合,喫煙習慣の指標として総喫煙量を表す喫煙指数であるBIを参考として,FITT(頻度:frequency,強度:intensity,持続時間:time,タイプ:type)を検討し,持続的な運動だけではなくインターバルトレーニングなどの運動を提供する必要があると考える。今後,BIと脈波伝搬速度,血流依存性血管拡張反応および血液データなどの関係性について検討し,包括的な評価および運動処方の確立が必要不可欠であると考える。