[0742] 慢性心不全患者における下肢筋酸素動態の特徴
Keywords:心不全, NIRS, 運動耐容能
【目的】
近年,慢性心不全患者数は増加しており,慢性心不全に伴う運動耐容能の低下は主要な問題となっている。先行研究では,慢性心不全患者の運動耐容能が低下する原因に骨格筋が関わっているとされている。これまで,慢性心不全患者の筋酸素動態では筋血流と筋酸化能力が障害されるとされていたが,最近の研究によれば筋の代謝回復は酸素利用能の制限より筋血流の減少に依存していると報告されている。今回,下肢筋の酸素利用能と酸素輸送能が運動耐容能に与える影響を調査するため,近赤外線分光法を利用して心不全患者の下肢筋における酸素利用能から分類を試み,加えて酸素輸送能については病態,運動耐容能などとの関連について検討したので報告する。
【方法】
対象者は2013年8月~2013年11月までに当院に慢性心不全急性増悪にて入院,心臓リハビリテーションを実施し,自宅退院予定で当研究の趣旨に同意を得られた者で,脳血管疾患,骨関節疾患など著明な運動機能制限のある者,認知症と疑われる者,デバイスを埋め込んでいる者,冠動脈に有意狭窄が残存している者を除外した5名(55.6±12.9歳,男性3名,女性2名)であった。測定は退院直前に,自転車エルゴメータを用い,心電図モニタリング下で,DynaSense社製携帯型近赤外線組織酸素モニタ装置PocketNIRS Duo(以下NIRS)のプローブを右外側広筋に装着し,組織酸素レベル(以下oxy-Hb),組織血液量(以下total-Hb)を測定した。運動強度は自転車エルゴメータの10W,5分にて実施した。運動プロトコールは安静(3分),運動負荷(5分),休憩時間(5分)とした。運動中止基準は重篤な不整脈の出現や運動負荷1分毎に測定する旧ボルグスケールで評価し,15になるようであれば終了した。血液検査データ,心エコーデータ,6分間歩行データは診療録のデータを用いた。NIRSは運動前後を通した吸光度の経時的変化パターンから元来評価するとされているため,得られたデータをAbeらの報告に基づき,oxy-Hbの動態をsevere(以下S群),mild(以下M群)に分類した。なお,運動直後よりoxy-Hbがベースラインより漸減した後に負荷中一定の値を示す好気的代謝が不良なパターンをS群とし,運動中oxy-Hbが低下せず,負荷中に漸増していく好気的代謝が良好なパターンをM群とした。なお,筋の再酸素化時間は運動終了時のoxy-Hbの値を0%,運動終了後5分間のoxy-Hbの最高値を100%として,運動終了時からoxy-Hbが50%の値に到達するまでの時間(以下1/2reoxy time)を算出した。
【倫理的配慮】
本研究は関西労災病院倫理委員会の承認を得て実施した。対象者には本研究趣旨と倫理的配慮について書面にて十分に説明し,署名による同意を得た。
【結果と考察】
心不全患者A,B,C,D,E,5例のヘモグロビン(以下Hb)値は10.4,12.0,10.4,15.0,16.0g/dl,左室駆出率(以下EF)は44,28,65,61,35%,6分間歩行は236,324,187,351,450mであった。A,B,C,3例をS群,D,E,2例をM群と分類した。S群では3例ともに酸素輸送能を反映するtotal-Hbが漸減した後に負荷中一定の値を示し,酸素供給が低下していた。M群では,total-Hbが良好なものと不良なパターンを示すものがあった。また,筋有酸素機能の指標であるA,B,C,D,Eの1/2reoxy timeは30,16,54,12,5秒とM群で短い傾向にあった。酸素輸送能に影響を及ぼすHb値は,S群で低く,AとCでは貧血傾向にあった。M群では,Hb値や1/2reoxy timeが良好であり,6分間歩行距離も長かった。
したがって,運動時に好気的代謝の不良な心不全患者では好気的代謝の良好な心不全患者よりも,運動耐容能が低下し,その原因として酸素利用能が低下するだけでなく,酸素輸送能の低下も生じている可能性が考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
今回の研究で利用したNIRSは理学療法士の臨床現場でも非侵襲的に酸素利用能と酸素輸送能を簡便に測定することが可能である。そして,それぞれの症例が示す波形パターンから心不全患者の下肢筋酸素動態の特徴を調査することは心不全患者の運動耐容能を評価する一助となると考えられる。
近年,慢性心不全患者数は増加しており,慢性心不全に伴う運動耐容能の低下は主要な問題となっている。先行研究では,慢性心不全患者の運動耐容能が低下する原因に骨格筋が関わっているとされている。これまで,慢性心不全患者の筋酸素動態では筋血流と筋酸化能力が障害されるとされていたが,最近の研究によれば筋の代謝回復は酸素利用能の制限より筋血流の減少に依存していると報告されている。今回,下肢筋の酸素利用能と酸素輸送能が運動耐容能に与える影響を調査するため,近赤外線分光法を利用して心不全患者の下肢筋における酸素利用能から分類を試み,加えて酸素輸送能については病態,運動耐容能などとの関連について検討したので報告する。
【方法】
対象者は2013年8月~2013年11月までに当院に慢性心不全急性増悪にて入院,心臓リハビリテーションを実施し,自宅退院予定で当研究の趣旨に同意を得られた者で,脳血管疾患,骨関節疾患など著明な運動機能制限のある者,認知症と疑われる者,デバイスを埋め込んでいる者,冠動脈に有意狭窄が残存している者を除外した5名(55.6±12.9歳,男性3名,女性2名)であった。測定は退院直前に,自転車エルゴメータを用い,心電図モニタリング下で,DynaSense社製携帯型近赤外線組織酸素モニタ装置PocketNIRS Duo(以下NIRS)のプローブを右外側広筋に装着し,組織酸素レベル(以下oxy-Hb),組織血液量(以下total-Hb)を測定した。運動強度は自転車エルゴメータの10W,5分にて実施した。運動プロトコールは安静(3分),運動負荷(5分),休憩時間(5分)とした。運動中止基準は重篤な不整脈の出現や運動負荷1分毎に測定する旧ボルグスケールで評価し,15になるようであれば終了した。血液検査データ,心エコーデータ,6分間歩行データは診療録のデータを用いた。NIRSは運動前後を通した吸光度の経時的変化パターンから元来評価するとされているため,得られたデータをAbeらの報告に基づき,oxy-Hbの動態をsevere(以下S群),mild(以下M群)に分類した。なお,運動直後よりoxy-Hbがベースラインより漸減した後に負荷中一定の値を示す好気的代謝が不良なパターンをS群とし,運動中oxy-Hbが低下せず,負荷中に漸増していく好気的代謝が良好なパターンをM群とした。なお,筋の再酸素化時間は運動終了時のoxy-Hbの値を0%,運動終了後5分間のoxy-Hbの最高値を100%として,運動終了時からoxy-Hbが50%の値に到達するまでの時間(以下1/2reoxy time)を算出した。
【倫理的配慮】
本研究は関西労災病院倫理委員会の承認を得て実施した。対象者には本研究趣旨と倫理的配慮について書面にて十分に説明し,署名による同意を得た。
【結果と考察】
心不全患者A,B,C,D,E,5例のヘモグロビン(以下Hb)値は10.4,12.0,10.4,15.0,16.0g/dl,左室駆出率(以下EF)は44,28,65,61,35%,6分間歩行は236,324,187,351,450mであった。A,B,C,3例をS群,D,E,2例をM群と分類した。S群では3例ともに酸素輸送能を反映するtotal-Hbが漸減した後に負荷中一定の値を示し,酸素供給が低下していた。M群では,total-Hbが良好なものと不良なパターンを示すものがあった。また,筋有酸素機能の指標であるA,B,C,D,Eの1/2reoxy timeは30,16,54,12,5秒とM群で短い傾向にあった。酸素輸送能に影響を及ぼすHb値は,S群で低く,AとCでは貧血傾向にあった。M群では,Hb値や1/2reoxy timeが良好であり,6分間歩行距離も長かった。
したがって,運動時に好気的代謝の不良な心不全患者では好気的代謝の良好な心不全患者よりも,運動耐容能が低下し,その原因として酸素利用能が低下するだけでなく,酸素輸送能の低下も生じている可能性が考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
今回の研究で利用したNIRSは理学療法士の臨床現場でも非侵襲的に酸素利用能と酸素輸送能を簡便に測定することが可能である。そして,それぞれの症例が示す波形パターンから心不全患者の下肢筋酸素動態の特徴を調査することは心不全患者の運動耐容能を評価する一助となると考えられる。