[0746] 地域在住高齢者の転倒歴に関連する要因
Keywords:転倒予防, 組織参加, 一次予防
【はじめに】高齢者における転倒予防は超高齢社会において重要な課題の1つとなっている。介護予防において,『介護予防マニュアル改訂版』では,ハイリスク者を対象とした二次予防事業だけでなく,地域づくりといった一次予防による介護予防の重要性が指摘されている。しかし,どのような地域づくりが転倒予防において効果的かは明らかとなっていない。転倒リスクの主要因は,筋力低下やバランス能力低下といわれ,転倒予防において身体活動量を上げる運動介入には効果があり,頻度としても週1回以上で2時間以上の運動の実施が必要とメタアナリシスにて報告されている。一方,筆者らは日本老年学的評価研究(以下,JAGES)プロジェクトのデータを用いた31市町村の10万人を対象とした分析で,これらの先行研究で転倒との関連が示されている多くの個人や環境要因を調整しても,スポーツ組織に週1回以上参加している者で転倒歴が少ないことを報告した。本研究では地域在住高齢者の転倒予防において,同じ運動頻度や強度の場合に個人で運動するよりもスポーツ組織に参加して運動することのほうが効果的かを検証する基礎作業として,スポーツ組織に参加している高齢者では,個人で運動する高齢者より転倒歴が少ないかを検討する。
【方法】本研究はJAGESプロジェクト2012年調査データを用いた横断研究である。分析対象者は,性別,年齢,転倒歴などの分析に必要な質問項目に回答していない者,日常生活動作が自立していない者などを除いた3,224人とした。目的変数は転倒歴の有無とし,過去1年間の転倒経験について,「何度もある」,「1度ある」と回答した者を転倒歴あり,「なし」と回答した者を転倒歴なしとした。説明変数は,個人での週1回以上の運動の実施有無(以下,運動)とスポーツ組織への週1回以上の参加有無(以下,組織)をそれぞれ組み合わせた4群(運動なし/組織なし,運動あり/組織なし,運動なし/組織あり,運動あり/組織あり)を用いた。調整変数は転倒と関連する基本的な項目として,年齢,性別,社会経済的要因(教育歴,等価所得),転倒と関連する疾患(脳卒中,関節病・神経痛など)の治療の有無,抑うつ(Geriatric Depression Scales 15項目版),外出頻度,1日平均歩行時間,運動強度と頻度とした。分析方法は,各項目についてのクロス表分析(χ2検定)とロジスティック回帰分析を行い,転倒歴なしに対するありとなるオッズ比と95%信頼区間(以下OR,95%CI)を求めた。
【倫理的配慮,説明と同意】研究倫理審査委員会の承認を受け(承認番号10-05),各自治体との間で定めた個人情報取り扱い事項を遵守したものである。
【結果】対象者全体における転倒歴1回以上の者の割合は全体で877人(27.2%)であった。運動と組織を組み合わせた4群では,それぞれの群の対象者全体に対する転倒歴1回以上の者の割合は,運動なし/組織なしが31.9%,運動あり/組織なしが24.6%,運動なし/組織ありが23.1%,運動あり/組織ありが21.3%であった(p<0.0.1)。ロジスティック回帰分析の結果,すべての変数で調整しても,転倒歴ありとなるORは,運動なし/組織なしをreferenceにした場合,運動あり/組織なしが0.87(95%CI 0.70-1.07),運動なし/組織ありが0.68(95%CI 0.47-0.96),運動あり/組織ありが0.68(95%CI 0.50-0.93)と,個人で運動している者より,スポーツ組織で運動している者で転倒歴が少なかった。
【考察】スポーツ組織へ参加する効果として,認知症や脳卒中などを予防できることが報告されている。本研究でもスポーツ組織へ参加している者では転倒歴が少なく,スポーツ組織への参加で転倒予防になる可能性が示唆された。さらに個人で運動している者と比較してもスポーツ組織へ参加している者で転倒歴が少なかった。先行研究では個人での運動を週1回以上していても,スポーツ組織への不参加者は参加者と比較して要介護状態になる危険性が1.29倍高いと報告されている。つまり,転倒予防では個人に対する介入ではなく,スポーツ組織への参加を促すといった地域介入による一次予防の方が転倒予防において効果的である可能性を示唆することができた。今後は縦断研究による時間的関係を考慮した検証や,なぜ個人で運動している者よりスポーツ組織に参加しているもので転倒歴が少ないかといった理由の解明が必要である。
【理学療法学研究としての意義】本研究は横断研究のため,因果関係までを示すことはできない。しかし,転倒予防において,スポーツ組織への参加といった日常生活環境の中で継続的に身体活動量を上げるポピュレーションアプローチが,地域在住高齢者の転倒予防の一つの戦略としてなりうる可能性を示唆したことは,理学療法士が地域介入していくうえで重要な知見であるといえる。
【方法】本研究はJAGESプロジェクト2012年調査データを用いた横断研究である。分析対象者は,性別,年齢,転倒歴などの分析に必要な質問項目に回答していない者,日常生活動作が自立していない者などを除いた3,224人とした。目的変数は転倒歴の有無とし,過去1年間の転倒経験について,「何度もある」,「1度ある」と回答した者を転倒歴あり,「なし」と回答した者を転倒歴なしとした。説明変数は,個人での週1回以上の運動の実施有無(以下,運動)とスポーツ組織への週1回以上の参加有無(以下,組織)をそれぞれ組み合わせた4群(運動なし/組織なし,運動あり/組織なし,運動なし/組織あり,運動あり/組織あり)を用いた。調整変数は転倒と関連する基本的な項目として,年齢,性別,社会経済的要因(教育歴,等価所得),転倒と関連する疾患(脳卒中,関節病・神経痛など)の治療の有無,抑うつ(Geriatric Depression Scales 15項目版),外出頻度,1日平均歩行時間,運動強度と頻度とした。分析方法は,各項目についてのクロス表分析(χ2検定)とロジスティック回帰分析を行い,転倒歴なしに対するありとなるオッズ比と95%信頼区間(以下OR,95%CI)を求めた。
【倫理的配慮,説明と同意】研究倫理審査委員会の承認を受け(承認番号10-05),各自治体との間で定めた個人情報取り扱い事項を遵守したものである。
【結果】対象者全体における転倒歴1回以上の者の割合は全体で877人(27.2%)であった。運動と組織を組み合わせた4群では,それぞれの群の対象者全体に対する転倒歴1回以上の者の割合は,運動なし/組織なしが31.9%,運動あり/組織なしが24.6%,運動なし/組織ありが23.1%,運動あり/組織ありが21.3%であった(p<0.0.1)。ロジスティック回帰分析の結果,すべての変数で調整しても,転倒歴ありとなるORは,運動なし/組織なしをreferenceにした場合,運動あり/組織なしが0.87(95%CI 0.70-1.07),運動なし/組織ありが0.68(95%CI 0.47-0.96),運動あり/組織ありが0.68(95%CI 0.50-0.93)と,個人で運動している者より,スポーツ組織で運動している者で転倒歴が少なかった。
【考察】スポーツ組織へ参加する効果として,認知症や脳卒中などを予防できることが報告されている。本研究でもスポーツ組織へ参加している者では転倒歴が少なく,スポーツ組織への参加で転倒予防になる可能性が示唆された。さらに個人で運動している者と比較してもスポーツ組織へ参加している者で転倒歴が少なかった。先行研究では個人での運動を週1回以上していても,スポーツ組織への不参加者は参加者と比較して要介護状態になる危険性が1.29倍高いと報告されている。つまり,転倒予防では個人に対する介入ではなく,スポーツ組織への参加を促すといった地域介入による一次予防の方が転倒予防において効果的である可能性を示唆することができた。今後は縦断研究による時間的関係を考慮した検証や,なぜ個人で運動している者よりスポーツ組織に参加しているもので転倒歴が少ないかといった理由の解明が必要である。
【理学療法学研究としての意義】本研究は横断研究のため,因果関係までを示すことはできない。しかし,転倒予防において,スポーツ組織への参加といった日常生活環境の中で継続的に身体活動量を上げるポピュレーションアプローチが,地域在住高齢者の転倒予防の一つの戦略としてなりうる可能性を示唆したことは,理学療法士が地域介入していくうえで重要な知見であるといえる。