[0749] 在宅虚弱高齢者の転倒予測が可能な身体機能と関連する転倒アセスメント改訂版の開発
Keywords:在宅虚弱高齢者, 身体機能, 転倒予測
【目的】在宅虚弱高齢者では身体機能低下が転倒発生に大きく寄与するとされており,多くのパフォーマンステストが高い感度と特異度で転倒を予測すると報告されている。これらのテストは転倒高リスク者の早期発見だけでなく運動介入時の身体機能レベルの把握ができるため有用であるが,地域において専門職以外が実施するには限界がある。一方,鈴木らの転倒アセスメントは転倒予測が可能であると報告されており,問診評価であるため専門職以外でも簡便に実施可能である。しかし,どの項目が身体機能と関連するかは明らかとなっていない。身体機能と関連する項目が転倒だけでなく身体機能レベルの予測もできれば有用であると考える。本研究では,鈴木らの転倒アセスメントを用いて身体機能と関連する項目を抽出し,これらの項目が転倒を予測し,身体機能レベルの目安となりえるかどうかについて検討することを目的とした。
【方法】本研究は,後向き研究と3ヶ月間の前向き研究から構成した。後向き研究の対象者は,屋外歩行が自立した65歳以上の地域在住高齢者で2003年~2009年までに開催された転倒予防教室に参加した1871名(平均年齢76.5歳)であった。前向き研究の対象者は,通所介護利用中の屋内歩行が自立した65歳以上の高齢者であり,筋力増強運動やバランストレーニングといった運動介入を実施していない292名(平均年齢81.6歳)であった。両研究とも評価項目は過去1年間の転倒回数,鈴木らの15項目の転倒アセスメントによる転倒リスク数,パフォーマンステスト(椅子起立時間,Timed Up and Go test(TUG))とした。また,前向き研究では転倒日誌を用いて3ヶ月間の転倒回数を評価し,通所介護スタッフが毎週確認した。分析は,後向き研究では身体機能と関連する転倒リスク項目を抽出するために,従属変数にパフォーマンステスト,独立変数に鈴木らのアセスメント15項目を投入した重回帰分析を行った。この際,事前に独立変数間の多重共線性について検討した。前向き研究では,後向き研究にて抽出された身体機能と関連する項目が転倒を予測可能かどうか検討した。分析は,ROC曲線を用いて,転倒の有無を最適分類するためのカットオフ値および曲線下面積(AUC)を求め,感度と特異度を算出した。
【倫理的配慮】対象者には本研究の主旨および目的を口頭と書面にて説明し同意を得た。本研究は長崎大学医歯薬学総合研究科倫理委員会の承認を得て実施した。
【結果】後向き研究では,15項目の内7項目が椅子起立時間もしくはTUGと関連していた。7項目の詳細は,過去1年間の転倒歴,歩行障害(2項目),バランス低下,過去1年間の入院歴,脳卒中の既往,転倒恐怖に関する内容であった。前向き研究では,292名の内56名(15.6%)が3ヶ月間で転倒していた。抽出された7項目の合計に対するAUCは0.73(p=0.0001)であり,カットオフ値は4項目,感度は50%,特異度は86%であった。また,7項目の内過去1年間の転倒歴と他の項目に該当している対象者では,その合計に対するAUCは0.82(p=0.0001)であり,カットオフ値は4項目,感度は84%,特異度は68%であった。さらに,カットオフ値4項目に相当する椅子起立時間とTUGの平均値は,前向き研究の対象者では12.9秒と12.5秒であり,後向き研究の対象者では13.2秒と11.4秒であった。
【考察】本研究では,身体機能と関連する7項目の問診によって在宅虚弱高齢者の転倒予測が可能であることを明らかとした。また,過去1年間の転倒歴と他の項目に該当している数の合計に対するAUCは,単純な7項目の合計数のAUCよりも高く,感度と特異度も問診を用いた先行研究よりも良好であった。したがって,簡便に転倒高リスク者を抽出する手段として有用であると考える。さらに,在宅高齢者を対象に椅子起立時間やTUGによって転倒予測を検討している先行研究では,椅子起立時間は12~15秒,TUGは10.9秒~13.5秒がカットオフ値として報告されている。本研究の前向き研究での最適なカットオフ値に相当する椅子起立時間とTUGの値は,前向き研究と後向き研究の対象者ともに先行研究におけるこれらの値と類似していた。このことより,今回抽出された7項目は身体機能レベルを把握できる目安としても応用できる可能性を示唆した。
【理学療法学研究としての意義】高齢者を対象に効率的な転倒予防プログラムを実施するために,転倒高リスク者を抽出することは重要である。今回,転倒予測が可能な身体機能と関連する7項目の問診は簡便に実施可能で,専門職が少ない地域において転倒高リスク者の早期発見と運動介入につなげる有用な手段として貢献できると思われる。
【方法】本研究は,後向き研究と3ヶ月間の前向き研究から構成した。後向き研究の対象者は,屋外歩行が自立した65歳以上の地域在住高齢者で2003年~2009年までに開催された転倒予防教室に参加した1871名(平均年齢76.5歳)であった。前向き研究の対象者は,通所介護利用中の屋内歩行が自立した65歳以上の高齢者であり,筋力増強運動やバランストレーニングといった運動介入を実施していない292名(平均年齢81.6歳)であった。両研究とも評価項目は過去1年間の転倒回数,鈴木らの15項目の転倒アセスメントによる転倒リスク数,パフォーマンステスト(椅子起立時間,Timed Up and Go test(TUG))とした。また,前向き研究では転倒日誌を用いて3ヶ月間の転倒回数を評価し,通所介護スタッフが毎週確認した。分析は,後向き研究では身体機能と関連する転倒リスク項目を抽出するために,従属変数にパフォーマンステスト,独立変数に鈴木らのアセスメント15項目を投入した重回帰分析を行った。この際,事前に独立変数間の多重共線性について検討した。前向き研究では,後向き研究にて抽出された身体機能と関連する項目が転倒を予測可能かどうか検討した。分析は,ROC曲線を用いて,転倒の有無を最適分類するためのカットオフ値および曲線下面積(AUC)を求め,感度と特異度を算出した。
【倫理的配慮】対象者には本研究の主旨および目的を口頭と書面にて説明し同意を得た。本研究は長崎大学医歯薬学総合研究科倫理委員会の承認を得て実施した。
【結果】後向き研究では,15項目の内7項目が椅子起立時間もしくはTUGと関連していた。7項目の詳細は,過去1年間の転倒歴,歩行障害(2項目),バランス低下,過去1年間の入院歴,脳卒中の既往,転倒恐怖に関する内容であった。前向き研究では,292名の内56名(15.6%)が3ヶ月間で転倒していた。抽出された7項目の合計に対するAUCは0.73(p=0.0001)であり,カットオフ値は4項目,感度は50%,特異度は86%であった。また,7項目の内過去1年間の転倒歴と他の項目に該当している対象者では,その合計に対するAUCは0.82(p=0.0001)であり,カットオフ値は4項目,感度は84%,特異度は68%であった。さらに,カットオフ値4項目に相当する椅子起立時間とTUGの平均値は,前向き研究の対象者では12.9秒と12.5秒であり,後向き研究の対象者では13.2秒と11.4秒であった。
【考察】本研究では,身体機能と関連する7項目の問診によって在宅虚弱高齢者の転倒予測が可能であることを明らかとした。また,過去1年間の転倒歴と他の項目に該当している数の合計に対するAUCは,単純な7項目の合計数のAUCよりも高く,感度と特異度も問診を用いた先行研究よりも良好であった。したがって,簡便に転倒高リスク者を抽出する手段として有用であると考える。さらに,在宅高齢者を対象に椅子起立時間やTUGによって転倒予測を検討している先行研究では,椅子起立時間は12~15秒,TUGは10.9秒~13.5秒がカットオフ値として報告されている。本研究の前向き研究での最適なカットオフ値に相当する椅子起立時間とTUGの値は,前向き研究と後向き研究の対象者ともに先行研究におけるこれらの値と類似していた。このことより,今回抽出された7項目は身体機能レベルを把握できる目安としても応用できる可能性を示唆した。
【理学療法学研究としての意義】高齢者を対象に効率的な転倒予防プログラムを実施するために,転倒高リスク者を抽出することは重要である。今回,転倒予測が可能な身体機能と関連する7項目の問診は簡便に実施可能で,専門職が少ない地域において転倒高リスク者の早期発見と運動介入につなげる有用な手段として貢献できると思われる。