[0763] ブリッジ姿勢でのつま先立ち運動における下腿三頭筋の筋電図学的分析
キーワード:下腿三頭筋, つま先立ち, 表面筋電図
【目的】
下腿三頭筋は歩行における立脚中期から終期にかけて,身体の姿勢制御と前方への推進力を提供しており,なかでもForefoot Rocker(FR)における下腿三頭筋の役割は重要である。足部・足関節周囲の外傷・術後例や長期下肢免荷例では,このFRが機能せずHeel offが生じないために前方への重心移動が困難となる例が少なくない。
FRの機能低下を予防するためのExercise(Ex)として,つま先立ち運動(CR;Calf Raise)が実施されることが多いが,完全免荷期から部分荷重期に実施されることの多い座位でのCRは,荷重を伴わないといった点で閉鎖性運動連鎖の運動様式とは言い難い。また部分荷重期から全荷重期に実施されることの多い立位でのCRは荷重開始早期には運動負荷が過大となることが少なくない。このような座位・立位におけるCRの欠点を補うべく,われわれはFRの機能低下予防・改善を目的としてブリッジ姿勢でのつま先立ち運動(Calf Raise on the Bridge Position;CRBP)を考案した。本研究では健常成人を対象として考案したCRBPの荷重率および下腿三頭筋の筋活動量を明らかにすることを目的とする。
【方法】
対象は下肢・体幹に整形外科的疾患の既往の無い健常成人14例(年齢:25.3±4.9歳)とした。
CRBPはBHU(Bilateral Hip Up)条件,UHU(Unilateral Hip Up)条件,UHUCLE(Unilateral Hip Up and Contralateral Lower Extremity Elevation)条件,UHUCLUE(Unilateral Hip Up,Contralateral Lower Extremity and Upper Extremity Elevation)条件といった4条件とした。BHU条件は両膝関節最大屈曲・殿部最大挙上位とし,可能な限り左右均等に母指球に荷重させた。踵部は3cm程度挙上させ,両上肢は対側に置いた姿勢とした。UHU条件は運動側膝関節最大屈曲・非運動側下肢伸展位とし,その他の条件はBHU条件と同様とした。UHUCLE条件は非運動側下肢挙上位(運動側膝高まで)とし,その他の条件はUHU条件と同様とした。UHUCLUE条件は両肩関節を90°屈曲させ,その他の条件はUHUCLE条件と同様とした。
運動は立位片脚CR,BHU条件,UHU条件,UHUCLE条件,UHUCLUE条件の順でいずれも5秒間,等尺性収縮にて各3回ずつ実施した。荷重率の測定にはデジタル体重計を使用し,荷重量を体重で除して荷重率を算出した。被検筋は腓腹筋内側頭(Gastrocnemius Medialis;GM),腓腹筋外側頭(Gastrocnemius Lateralis;GL),ヒラメ筋(Soleus;So)とした。表面筋電図の測定にはホルター筋電計ME-3000P4RS(株式会社日本メディックス社製)を用い,各Ex5秒間の等尺性収縮のうち安定した3秒間の積分値を算出し,3回の平均値を求めた。Ex中の積分値については立位片脚CR時の筋電図積分値で除することによって正規化し,%IEMGを算出した。
各Ex間の荷重率・%IEMGの比較には,反復測定による一元配置分散分析またはFriedman検定を使用し,多重比較法としてShaffer’s methodまたはHolm’s methodを用いて群間比較を行った。統計学的検定には改変RコマンダーによるR2.8.1を使用し,有意水準は5%および1%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に則って行った。対象には研究の趣旨を説明し同意を得た。
【結果】
各Exにおける荷重率の中央値はBHU条件16.9%,UHU条件21.5%,UHUCLE条件30.8%,UHUCLUE条件32.3%であった。UHUCLE条件・UHUCLUE条件間を除いては各Ex間の荷重率に有意差を認めた(p<0.01)。各Ex間における筋活動(%IEMG)の中央値(GM/GL/So)はBHU条件:22.5/34.7/67.3%,UHU条件:30.1/43.8/96.3%,UHUCLE条件:39.9/58.3/115.9%,UHUCLUE条件:43.3/65.5/119.1%であった。GM・SoにおいてはUHUCLE条件・UHUCLUE条件間を除いたEx間に,GLにおいては全条件間に筋活動の有意差を認めた(p<0.05)。
【考察】
荷重率の結果よりBHU条件・UHU条件については1/4以上の部分荷重が許可されていれば,他の2条件についても1/3以上の部分荷重が許可されていれば実施可能と考えられる。
筋活動の結果よりCRBPはGL・GMで立位片脚CR時の25~60%の筋活動が得られることが明らかとなった。全てのExにおいて荷重量に対するGL・GMの筋活動割合が高く,少ない荷重量で高い筋活動を得られるといった意味で効率的なExである可能性が示唆された。またSoにおいては片脚CR時の65~120%と高い筋活動が得られることが明らかとなり,CRBPはSoの選択的トレーニングとして有用である可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,考案したCRBPにおける荷重率および下腿三頭筋の筋活動量が明らかとなった。本研究は理学療法士がFR機能低下を予防・改善するための運動療法プログラムを選択する際の一助となることが示唆され,意義のある理学療法研究であると考える。
下腿三頭筋は歩行における立脚中期から終期にかけて,身体の姿勢制御と前方への推進力を提供しており,なかでもForefoot Rocker(FR)における下腿三頭筋の役割は重要である。足部・足関節周囲の外傷・術後例や長期下肢免荷例では,このFRが機能せずHeel offが生じないために前方への重心移動が困難となる例が少なくない。
FRの機能低下を予防するためのExercise(Ex)として,つま先立ち運動(CR;Calf Raise)が実施されることが多いが,完全免荷期から部分荷重期に実施されることの多い座位でのCRは,荷重を伴わないといった点で閉鎖性運動連鎖の運動様式とは言い難い。また部分荷重期から全荷重期に実施されることの多い立位でのCRは荷重開始早期には運動負荷が過大となることが少なくない。このような座位・立位におけるCRの欠点を補うべく,われわれはFRの機能低下予防・改善を目的としてブリッジ姿勢でのつま先立ち運動(Calf Raise on the Bridge Position;CRBP)を考案した。本研究では健常成人を対象として考案したCRBPの荷重率および下腿三頭筋の筋活動量を明らかにすることを目的とする。
【方法】
対象は下肢・体幹に整形外科的疾患の既往の無い健常成人14例(年齢:25.3±4.9歳)とした。
CRBPはBHU(Bilateral Hip Up)条件,UHU(Unilateral Hip Up)条件,UHUCLE(Unilateral Hip Up and Contralateral Lower Extremity Elevation)条件,UHUCLUE(Unilateral Hip Up,Contralateral Lower Extremity and Upper Extremity Elevation)条件といった4条件とした。BHU条件は両膝関節最大屈曲・殿部最大挙上位とし,可能な限り左右均等に母指球に荷重させた。踵部は3cm程度挙上させ,両上肢は対側に置いた姿勢とした。UHU条件は運動側膝関節最大屈曲・非運動側下肢伸展位とし,その他の条件はBHU条件と同様とした。UHUCLE条件は非運動側下肢挙上位(運動側膝高まで)とし,その他の条件はUHU条件と同様とした。UHUCLUE条件は両肩関節を90°屈曲させ,その他の条件はUHUCLE条件と同様とした。
運動は立位片脚CR,BHU条件,UHU条件,UHUCLE条件,UHUCLUE条件の順でいずれも5秒間,等尺性収縮にて各3回ずつ実施した。荷重率の測定にはデジタル体重計を使用し,荷重量を体重で除して荷重率を算出した。被検筋は腓腹筋内側頭(Gastrocnemius Medialis;GM),腓腹筋外側頭(Gastrocnemius Lateralis;GL),ヒラメ筋(Soleus;So)とした。表面筋電図の測定にはホルター筋電計ME-3000P4RS(株式会社日本メディックス社製)を用い,各Ex5秒間の等尺性収縮のうち安定した3秒間の積分値を算出し,3回の平均値を求めた。Ex中の積分値については立位片脚CR時の筋電図積分値で除することによって正規化し,%IEMGを算出した。
各Ex間の荷重率・%IEMGの比較には,反復測定による一元配置分散分析またはFriedman検定を使用し,多重比較法としてShaffer’s methodまたはHolm’s methodを用いて群間比較を行った。統計学的検定には改変RコマンダーによるR2.8.1を使用し,有意水準は5%および1%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に則って行った。対象には研究の趣旨を説明し同意を得た。
【結果】
各Exにおける荷重率の中央値はBHU条件16.9%,UHU条件21.5%,UHUCLE条件30.8%,UHUCLUE条件32.3%であった。UHUCLE条件・UHUCLUE条件間を除いては各Ex間の荷重率に有意差を認めた(p<0.01)。各Ex間における筋活動(%IEMG)の中央値(GM/GL/So)はBHU条件:22.5/34.7/67.3%,UHU条件:30.1/43.8/96.3%,UHUCLE条件:39.9/58.3/115.9%,UHUCLUE条件:43.3/65.5/119.1%であった。GM・SoにおいてはUHUCLE条件・UHUCLUE条件間を除いたEx間に,GLにおいては全条件間に筋活動の有意差を認めた(p<0.05)。
【考察】
荷重率の結果よりBHU条件・UHU条件については1/4以上の部分荷重が許可されていれば,他の2条件についても1/3以上の部分荷重が許可されていれば実施可能と考えられる。
筋活動の結果よりCRBPはGL・GMで立位片脚CR時の25~60%の筋活動が得られることが明らかとなった。全てのExにおいて荷重量に対するGL・GMの筋活動割合が高く,少ない荷重量で高い筋活動を得られるといった意味で効率的なExである可能性が示唆された。またSoにおいては片脚CR時の65~120%と高い筋活動が得られることが明らかとなり,CRBPはSoの選択的トレーニングとして有用である可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,考案したCRBPにおける荷重率および下腿三頭筋の筋活動量が明らかとなった。本研究は理学療法士がFR機能低下を予防・改善するための運動療法プログラムを選択する際の一助となることが示唆され,意義のある理学療法研究であると考える。