[0770] 飲水が安静椅座位における姿勢調節に及ぼす影響について
キーワード:飲水, 安静椅座位, 姿勢調節
【はじめに,目的】
姿勢制御は視覚,体性感覚や前庭迷路系などさまざまな感覚系と運動系が協調的に連携しながら実行されている。しかし近年,これらの感覚系以外にも運動系との連関関係を結んでいる感覚系が存在する可能性が示唆されている。例えば腹部の臓器の大きさや位置など体幹の臓器に重力を感知する受容体としての働きがあるのではないかと言われ始めている。特にMittelstaedt H(Neurosci Biobehav rev 1998;22:473-478)は腎臓からの情報が体幹から姿勢を整えるために寄与しているのではないかと述べている。しかしその説を支持するために内蔵臓器の位置関係と姿勢制御の関係を具体的に調べた研究は未だ少ない。
そこで本研究では内蔵臓器の位置関係と姿勢制御の関係を調べるために,飲水する事により胃の重量を変化させる事にした。飲水前後で安静椅座位での重心動揺や姿勢が変化するか否かを重心動揺計並びに三次元動作解析装置を用いて計測し確認する事を本研究の目的とする。
【方法】
対象は本学学生の健常男性10人,平均年齢21.6歳とした。被験者は前日21時より絶食状態で,測定開始3時間前より飲水も行わない状態とした。胃の中の貯留物を確認するために超音波画像診断装置(FUJIFILM社製FAZONECB)を用いて確認した。
被験者は,重心動揺計(ユニメック社製JK101+UM-ART:測定周波数20Hz)の上に設置された椅子に1分間の安静座位をとった後,90秒間の重心動揺を計測した。計測項目は総軌跡長,矩形面積,外周面積,単位軌跡長とした。この計測項目で得られた値は,その後の計測の妥当性を判断するための基準とした。また同時に三次元動作解析装置(Motion Analysis社製MAC3D)を用いて計測部位,C7,両肩峰,Th7,L4,両上前腸骨棘,両上後腸骨棘の計9カ所の位置変化を計測した。
計測は条件①飲水無し及び条件②飲水有りにて2回計測した。条件①飲水無しでは,1分間の安静座位後90秒間の計測を実施した。その後1分間のインターバルを挟んで90秒間の計測を計4回行った。条件②飲水有りでは,1分間の安静座位後90秒間の測定を行い,その直後の1分間のインターバル中に60秒かけて500mlの微炭酸飲料を摂取した。その後1分間のインターバルを挟んで90秒間計測を計4回行った。計測開始時から終了時まで超音波を用いて胃の位置や形が変化する様子を視覚的に確認した。
各重心動揺計測項目についての統計は,各条件における重心動揺と90秒間計測区間の二要因について2×5の分散分析を実施した。有意差の認められたものは,多重比較検定としてBonferroni法を用いて検討した。
三次元動作解析装置を用いての計測結果の統計には,ランドマーク間と90秒間計測区間(平均移動量)の二要因についての3×5の分散分析を実施した。ランドマーク間には有意な主効果が認められた。計測区間間には有意な主効果が認められなかった。ランドマーク間には主効果が認められたため,各ランドマーク間において一元配置分散分析を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,へルシンキ宣言に基づき,事前に研究目的や測定内容等を明記した書面を用いて十分な説明を行った。その上で,被験者より同意を得られた場合のみ測定を行った。
【結果】
重心動揺計による計測条件②飲水有りにて,飲水直後の90秒間に総軌跡長,外周面積,単位軌跡長に有意な増加が認められた(P<0.05)。条件①と②の比較では飲水直後の90秒間にて総軌跡長,外周面積,矩形面積,単位軌跡長に条件②に有意な増加が認められた(P<0.05)。
三次元動作解析装置による計測条件②飲水有りにて,飲水後2回目の90秒間と3回目の90秒間の間に有意にTh7が前方に移動した(P<0.05)。条件②飲水有りにて,飲水後2回目の90秒間と3回目の90秒間の間に有意にC7が前方に移動した(P<0.01)。また飲水後2回目の90秒間と4回目の90秒間の間にも有意にC7が前方に移動した(P<0.05)。
【考察】
本実験において飲水直後と飲水前,そして飲水後に一定時間経過した状態では安静椅座位における重心動揺の計測において有意差が認められる指標を確認できた。また飲150秒後からは骨盤に対してC7,Th7が前方に移動する事が確認できた。飲水により胃の重量が増加した際に,各ランドマークが一度後方に移動したにも関わらずC7とTh7が有意に前方への移動に反転した現象は骨盤の位置が変化しない分,上部体幹や頭部が前方に移動して姿勢調節を行う過程で起こった可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
飲水直後に重心動揺が大きくなった結果から,臨床で使用されているバランス評価のためのテスト課題を飲水前,そして後と継時的に計測することによって,飲水によるバランス評価テストへの影響を確認していくための基礎的な資料となる。
姿勢制御は視覚,体性感覚や前庭迷路系などさまざまな感覚系と運動系が協調的に連携しながら実行されている。しかし近年,これらの感覚系以外にも運動系との連関関係を結んでいる感覚系が存在する可能性が示唆されている。例えば腹部の臓器の大きさや位置など体幹の臓器に重力を感知する受容体としての働きがあるのではないかと言われ始めている。特にMittelstaedt H(Neurosci Biobehav rev 1998;22:473-478)は腎臓からの情報が体幹から姿勢を整えるために寄与しているのではないかと述べている。しかしその説を支持するために内蔵臓器の位置関係と姿勢制御の関係を具体的に調べた研究は未だ少ない。
そこで本研究では内蔵臓器の位置関係と姿勢制御の関係を調べるために,飲水する事により胃の重量を変化させる事にした。飲水前後で安静椅座位での重心動揺や姿勢が変化するか否かを重心動揺計並びに三次元動作解析装置を用いて計測し確認する事を本研究の目的とする。
【方法】
対象は本学学生の健常男性10人,平均年齢21.6歳とした。被験者は前日21時より絶食状態で,測定開始3時間前より飲水も行わない状態とした。胃の中の貯留物を確認するために超音波画像診断装置(FUJIFILM社製FAZONECB)を用いて確認した。
被験者は,重心動揺計(ユニメック社製JK101+UM-ART:測定周波数20Hz)の上に設置された椅子に1分間の安静座位をとった後,90秒間の重心動揺を計測した。計測項目は総軌跡長,矩形面積,外周面積,単位軌跡長とした。この計測項目で得られた値は,その後の計測の妥当性を判断するための基準とした。また同時に三次元動作解析装置(Motion Analysis社製MAC3D)を用いて計測部位,C7,両肩峰,Th7,L4,両上前腸骨棘,両上後腸骨棘の計9カ所の位置変化を計測した。
計測は条件①飲水無し及び条件②飲水有りにて2回計測した。条件①飲水無しでは,1分間の安静座位後90秒間の計測を実施した。その後1分間のインターバルを挟んで90秒間の計測を計4回行った。条件②飲水有りでは,1分間の安静座位後90秒間の測定を行い,その直後の1分間のインターバル中に60秒かけて500mlの微炭酸飲料を摂取した。その後1分間のインターバルを挟んで90秒間計測を計4回行った。計測開始時から終了時まで超音波を用いて胃の位置や形が変化する様子を視覚的に確認した。
各重心動揺計測項目についての統計は,各条件における重心動揺と90秒間計測区間の二要因について2×5の分散分析を実施した。有意差の認められたものは,多重比較検定としてBonferroni法を用いて検討した。
三次元動作解析装置を用いての計測結果の統計には,ランドマーク間と90秒間計測区間(平均移動量)の二要因についての3×5の分散分析を実施した。ランドマーク間には有意な主効果が認められた。計測区間間には有意な主効果が認められなかった。ランドマーク間には主効果が認められたため,各ランドマーク間において一元配置分散分析を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,へルシンキ宣言に基づき,事前に研究目的や測定内容等を明記した書面を用いて十分な説明を行った。その上で,被験者より同意を得られた場合のみ測定を行った。
【結果】
重心動揺計による計測条件②飲水有りにて,飲水直後の90秒間に総軌跡長,外周面積,単位軌跡長に有意な増加が認められた(P<0.05)。条件①と②の比較では飲水直後の90秒間にて総軌跡長,外周面積,矩形面積,単位軌跡長に条件②に有意な増加が認められた(P<0.05)。
三次元動作解析装置による計測条件②飲水有りにて,飲水後2回目の90秒間と3回目の90秒間の間に有意にTh7が前方に移動した(P<0.05)。条件②飲水有りにて,飲水後2回目の90秒間と3回目の90秒間の間に有意にC7が前方に移動した(P<0.01)。また飲水後2回目の90秒間と4回目の90秒間の間にも有意にC7が前方に移動した(P<0.05)。
【考察】
本実験において飲水直後と飲水前,そして飲水後に一定時間経過した状態では安静椅座位における重心動揺の計測において有意差が認められる指標を確認できた。また飲150秒後からは骨盤に対してC7,Th7が前方に移動する事が確認できた。飲水により胃の重量が増加した際に,各ランドマークが一度後方に移動したにも関わらずC7とTh7が有意に前方への移動に反転した現象は骨盤の位置が変化しない分,上部体幹や頭部が前方に移動して姿勢調節を行う過程で起こった可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
飲水直後に重心動揺が大きくなった結果から,臨床で使用されているバランス評価のためのテスト課題を飲水前,そして後と継時的に計測することによって,飲水によるバランス評価テストへの影響を確認していくための基礎的な資料となる。