第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 内部障害理学療法 ポスター

循環1

Sat. May 31, 2014 10:25 AM - 11:15 AM ポスター会場 (内部障害)

座長:高橋哲也(東京工科大学医療保健学部理学療法学科)

内部障害 ポスター

[0780] 重症COPDに心筋梗塞を併発し重症化した症例への運動療法の経験

小林直樹, 堀越一孝, 菊池佳世, 渡邊宏樹 (湘南藤沢徳洲会病院心臓リハビリテーション室)

Keywords:虚血性心疾患, 慢性閉塞性肺疾患, 在宅酸素療法

【はじめに】
近年,慢性閉塞性肺疾患(COPD)と虚血性心疾患(IHD)の併存が,運動機能低下や呼吸困難感増強,症状の悪化などに関連するとされ注目されている。COPD患者やIHD患者への運動療法は骨格筋機能を改善させ,運動耐容能,呼吸困難感,ADL,QOL,予後などを改善することが示されており強く推奨されている。今回,重症COPDにより在宅酸素療法(HOT)中に心筋梗塞を発症し重症化した症例に運動療法を継続した結果,良好な運動機能や冠危険因子コントロール,呼吸困難感改善が得られ,HOT離脱が可能となった症例を経験したため報告する。
【症例紹介】
症例は71歳,男性。2か月前に重症COPD(1秒率29.2%,1秒量620mL,%1秒量34.3%,慢性呼吸不全あり)と診断され,LAMAによる薬物療法とHOTを行っていた。冠危険因子は喫煙と高血圧があった。前日から続く呼吸苦を主訴に救急搬送され心筋梗塞と診断,入院となった。血液検査ではBNP712.9 pg/dL,pH7.183,pCO277.2,pO262.4,HCO327.9,BE-2.6(酸素2L/分投与下)と心不全,高二酸化炭素血症の状態であり,また血圧低下も認められたため気管挿管人工呼吸器管理,IABP挿入されるなど重症であった。心臓超音波検査(UCG)で心室中隔から前壁部にかけて無収縮認められ,緊急冠動脈造影検査の結果LAD♯6の完全閉塞あり,POBA施行され血流改善した。IABP抜去,抜管,NPPV導入後,第7病日に理学療法開始となった。
【倫理的配慮,説明と同意】
学会にて公表する趣旨を本人に口頭にて十分に説明し,同意を得た。
【理学療法と経過】
開始当初は呼吸苦や心不全遷延しADL拡大に難渋した。第17病日頃より症状落ち着き,第19病日より歩行練習を開始できた。第20病日ICS/LABA追加,第21病日NPPV完全離脱,第23病日LADにステント留置と治療進み,合わせて症状を確認しながら運動量漸増した。第29病日に酸素1L/分投与下で連続200m歩行を獲得でき,第30病日にHOT1L/分で自宅退院となった。退院後は運動耐容能向上,冠危険因子コントロール目的に外来にて運動療法を継続した。外来運動療法開始時所見はUCGでLVEF69%,E/e’15,MRC息切れスケールGrade3,血液検査ではBNP312.5pg/dLであった。外来運動療法プログラムとしてはストレッチ,下肢筋力トレーニング,自転車エルゴメータでの持久力トレーニングを酸素1L/分投与下で週1回実施した。筋力トレーニングは自宅での継続性を考慮し,自重や軽重錘,ゴムバンドを利用したものとした。持久力トレーニングの運動強度はBorgスケール11~13を目安とし,時間は10分から開始した。加えて外来運動療法時の運動強度・時間を目安に在宅トレーニングを指導した。外来運動療法は休むことなく継続され,在宅トレーニングもほぼ毎日実施された。1カ月後,呼吸機能検査で1秒率49.1%,1秒量860mLと改善みられ,UCGでLVEF64%,E/e’11,血液検査ではBNP89.6pg/mLと心不全増悪はなかった。3カ月後,持久力トレーニングは25分まで延長でき,6分間歩行距離415m,膝伸展筋力値0.76kgf/kg,MRC息切れスケールGrade2であった。血液検査はBNP53.8pg/mLと心不全さらに改善し,血圧120/60mmHg,禁煙継続,脂質値も入院時より改善見られ,冠危険因子コントロールも良好であった。4カ月後に終了となったが,同時期に医師よりHOT離脱の許可がおりた。終了後も自己で運動を継続され,HOT再開や心筋梗塞再発はなく,MRC息切れスケールGrade1に改善した。
【考察】
COPDと心筋梗塞を併発し重症化した症例においても,運動療法を継続することで良好な結果を得ることができた。膝伸展筋力値は同世代健常高齢者以上,6分間歩行距離は外出制限が生じないとされる値を獲得できた。これは薬物療法により呼吸機能が改善したうえに,これまで報告されているように運動療法により骨格筋機能改善が得られ,酸素摂取量が改善したためであると考えられる。さらにこれらの効果により運動時の息切れ感軽減やSPO2維持が図れ,HOT離脱が可能となったと思われる。運動強度は低強度であったがアドヒアランスがよく,運動療法を高頻度に行え,禁煙など生活習慣の是正ができたことも良好な結果が得られた要因であると思われる。またHOTは呼吸困難感の改善により呼吸器疾患患者のQOLを改善するとされる一方,外出等の活動範囲の制限を来すなどADLを制限する要因にもなるとされている。HOT離脱となり,活動制限が緩和されたことでADL改善が図れたとともに,患者の希望するHOT離脱が達成できたことでQOL改善にも寄与できたと思われる。
【理学療法学研究としての意義】
運動療法はCOPDとIHDが併存し重症化した症例においても運動機能や症状の改善,疾患管理に寄与すると思われる。またHOT離脱の一助となりHOT導入患者のADL,QOL改善効果も期待できると思われる。