第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 物理療法 ポスター

神経・筋機能制御1

2014年5月31日(土) 10:25 〜 11:15 ポスター会場 (物理療法)

座長:生野公貴(西大和リハビリテーション病院リハビリテーション部)

物理療法 ポスター

[0789] 脳卒中患者の抑うつ気分を改善するための頭蓋電気刺激療法の試み

大門恭平1, 川村博文2 (1.医療法人積善会高橋病院, 2.甲南女子大学看護リハビリテーション学部)

キーワード:頭蓋電気刺激療法, 抑うつ, 脳卒中

【目的】近年,欧米においては,情動や疼痛に対する頭蓋電気刺激療法(以下:CES)が注目されている。CESは,1mA未満の電流を頭蓋に対して使用する新しい電気刺激療法である。CESは疼痛,不安,抑うつ,睡眠障害などに効果を示している。しかしながら,CESの効果として米国においては多くの研究結果が示されているものの,本邦におけるCESの効果を検討した報告はない。また,脳卒中後には,うつ状態が高頻度に出現されることが報告されているが,脳卒中後のうつ状態に対する物理療法の効果を示した報告は少ない。よって,本研究の目的は,予備的研究として脳卒中患者の抑うつ気分を改善するためのCESの効果を検討することである。
【方法】対象は同意の得られた通所リハビリテーション(以下:通所リハ)利用者1名であり,平成12年に脳梗塞を発症した70歳代の男性である。抑うつ症状と注意障害があり,ADLは,屋内動作自立であったが,屋外は近位監視が必要であった。通所リハ利用時は,気分や意欲に日差変動があり,自宅では抑うつ気分の際,全く会話をしないなどの症状がみられた。また,対話時には「死にたい」,「生きていても仕方がない」などの発言がみられたが,危険行動は認められなかった。介入はABデザインであり,各期間は週5日の3週間とした。ベースライン期としてA期は通常理学療法と自主練習を合わせて40分実施した。介入期としてB期は,通常理学療法と自主練習に加えてCESを20分実施した。CESの使用条件として,使用機器はElectromedical Products lnternational(EPI)社製Alpha-StimM(薬事法承認番号:225AGBZX00010000)を用いた。刺激強度は100μA,周波数は0.5Hz,波形はバイポーラ非対称矩形波形,50%負荷サイクルの定期反復,パルス幅は0.25,0.5,0.75及び1秒の幅で変動,実施時間は安静座位で20分間実施した。電極は専用ゲルを塗布した耳クリップ電極を両耳介に装着した。評価項目は,気分の状態を評価する日本語版POMS短縮版(以下:POMS),主観的幸福度を評価するVisual Analogue Scale of Happiness(以下:VAS-H),不安と抑うつの程度を評価するHospital Anxiety and Depression Scale(以下:HADS),内省報告とした。評価はA期介入前後とB期介入後の3回実施した。
【説明と同意】本介入は医師の処方に基づき,対象者に本研究の趣旨を書面にて説明し,同意を得たのちに治療を行った。
【結果】POMSの改善点数は,緊張-不安項目はA期0点,B期3点,抑うつ-落込み項目はA期0点,B期6点,怒り-敵意項目はA期1点,B期2点,活気項目はA期1点,B期2点,疲労項目はA期-1点,B期4点,混乱項目はA・B期共に0点であった。VAS-Hは,A期は-100%の最大の不幸から変化はなく,B期で0%に改善を示した。HADSは,不安項目はA期1点,B期6点,抑うつ項目はA期-1点,B期6点であった。内省報告として,B期介入2週目において「自分でも分からないけど気分がいい」,「ポジティブに考えられる」との発言がみられた。
【考察】POMSの抑うつ-落ち込み項目とHADSの不安・抑うつ項目においては,B期で特に改善傾向を示し,内省報告から対象者自身も情動面への変化を認めている。先行研究においては,CESが心的外傷後ストレス障害患者の不安や抑うつを改善させる報告や,CES介入後の脳波において,アルファ波の活動増加が報告されている。また,CESの効果のメカニズムとしては,主に脳幹のセロトニン作動性縫線核に作用するとの報告がある。セロトニンはドーパミンやノルアドレナリンの調節に作用し,自律神経や攻撃性の調節,不安といった心的な情動の調節を行っている。よって,CESは不安や抑うつに効果がある可能性がある。しかしながら,そのメカニズムはまだ十分に明らかにされておらず,今後メカニズムを明らかにする研究が必要であると同時に,詳細な研究デザインを検討した本邦におけるCESに関する臨床研究が必要である。
【理学療法学研究としての意義】本邦におけるCESに関する報告は皆無であるため,CESの臨床介入効果を検証することは,今後の健康関連分野におけるCESの発展に寄与できる可能性が考えられる。また,本邦における電気刺激療法に関する研究は,疼痛や運動麻痺などに対する報告は多いが,心理機能に対する電気刺激療法の効果を検証した報告は少ない。よって,CESは,今後の電気刺激療法の対象の幅を広げる新しい電気刺激療法として期待できる。