第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 運動器理学療法 ポスター

骨・関節17

2014年5月31日(土) 10:25 〜 11:15 ポスター会場 (運動器)

座長:吉住浩平(医療法人オアシス福岡志恩病院リハビリテーション部)

運動器 ポスター

[0795] 人工膝関節全置換術患者に対する持続的他動運動の効果

小田太史, 石丸将久, 佐賀里昭, 東友美, 内藤誠, 古賀彩佳, 川嵜真理子, 小路永知寿, 吉田佳弘 (日本赤十字社長崎原爆病院リハビリテーション科)

キーワード:人工膝関節全置換術, 持続的他動運動, 関節可動域

【はじめに,目的】
持続的他動運動(CPM)は,人工膝関節全置換術(TKA)の後療法として,従来,関節組織の修復と関節拘縮の予防を目的に用いられている。一方,関節可動域に関して,Grella(2008)が報告したシステマティックレビューには,TKA後の膝関節屈曲角度の改善には術後超早期より数時間から十数時間にわたるCPMの施行が必要であるとしており,有効性を示している報告の多くは長時間の施行に限局しており,短時間の施行では否定的な見解が多い。また,CPM施行期間に関しても,数日間という短期間の施行に限っており,数週間の施行に関する報告は少ない。そこで本研究では,臨床に即した2つの施行時間を設け,TKA後3週間の在院期間中に施行するCPMの効果を,関節可動域を中心に疼痛,腫脹,身体機能を測定することによって検討した。
【方法】
2013年2月から2013年10月までに当院で片側TKA(Zimmer社NexGen CR-flex Fixed)を施行された術前歩行が屋内自立レベル以上の患者42例(73.4±7.7歳,男性11例,女性31例)を対象とした。対象者はCPM非施行群(0分群;17例)とCPM施行群に振り分け,さらに,CPM施行群は20分×2回/日群(20分群;13例)と40分×2回/日群(40分群;12例)に振り分けられた。3群とも当院における術後3週間のTKAクリニカルパスを適用し,3群に対して術後1日目より通常の理学療法介入を行った。CPMは術後2日目より術後21日目まで継続して施行した。CPMにはZimmer社製JACE Universal CPM K100を使用し,設定角度は疼痛を誘発しないように毎回膝関節他動屈曲角度を測定して設定した。なお,設定角度の上限は120°であり,角速度は2°/秒とした。測定項目は,術側膝関節の他動屈曲・伸展角度と疼痛,腫脹,そしてTimed Up and Go test(TUG)と日本版変形性膝関節症患者機能評価表(JKOM)とした。ただし,JKOMに関しては,「膝の痛みやこわばり」(JKOM:B)と「日常生活の状態」(JKOM:C)の2項目のみ測定した。膝関節屈曲・伸展角度と疼痛の測定は術前,術後3,7,14,21日目に,腫脹とTUGの測定は術前と術後14,21日目に,JKOM:BとJKOM:Cの評価は術前と術後21日目に実施した。なお,術後21日目以前に退院した場合は,退院前日の測定値を術後21日目の測定値とした。疼痛にはvisual analog scale(VAS)を用い,腫脹は膝蓋骨直上を1mm単位で測定した。統計処理は,術前の群間の基本属性および身体機能の比較にはKruskal-Wallis検定を,群内の術前から術後に至る身体機能変化の比較にはFriedman検定とWilcoxonの順位和検定を用いた。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には事前に本研究の説明を十分に行い,同意を得た。なお,本研究は当院の倫理委員会の承認を得て行った。
【結果】
3群間の基本属性や術後在院日数に有意差を認めなかった。術前後の膝関節屈曲角度は0分群(術前122.4±17.3°,術後3日目85.0±13.3°,術後14日目107.6±11.8°,術後21日目111.8±11.4°),20分群(術前120.8±18.1°,術後3日目87.7±17.1°,術後14日目115.0±11.1°,術後21日目120.0±9.8°),40分群(術前115.8±10.0°,術後3日目82.1±13.1°,術後14日目110.4±11.3°,術後21日目115.4±10.3°)であった。術前は3群間に有意差を認めなかった。術後の屈曲角度を術前と比較すると,3群とも術後3日目は有意差を認めたが,術後14日目には0分群を除く20分群と40分群は有意差を認めず,術後21日目まで継続して有意差を認めなかった。0分群においては,屈曲角度の改善傾向はみられるものの,術後21日目まで継続して有意差を認めた。膝関節伸展角度と疼痛,腫脹,TUG,JKOM:B,JKOM:Cに関しては,経過とともに改善がみられ,術後21日目には3群ともに伸展角度と腫脹,TUGは有意差を認めず,疼痛とJKOM:B,JKOM:Cは有意差を認めた。
【考察】
本研究では,TKA後の患者に対してCPMを施行することで,術後の膝関節屈曲角度の回復を促進させる可能性を示唆している。また,疼痛や腫脹はCPM施行群と非施行群とでは変わりがないことから,膝関節の自動運動が困難な術後早期においても,炎症の増強を誘発せずに関節運動を実施することができることを意味している。これらのことは,先行研究にみられる術後超早期から長時間かつ数日間の施行のみならず,術後早期から短時間かつ数週間の施行でも有効性があることを示唆し,臨床に即した効果的な施行が可能であると思われる。今後は,さらに症例数を増やし,CPMの効果的な施行の再検討や退院後の長期的な経過からみたCPMの有効性について検討していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
臨床において実施可能なCPMの施行時間,かつ安全にTKA後の膝関節屈曲角度の回復を促す可能性を示した本研究は,臨床に直結した十分に意義のある研究である。