[0796] 人工膝関節置換術後の身体活動量の経時的変化
Keywords:人工膝関節置換術, 身体活動量, 経時的変化
【はじめに,目的】
人工膝関節置換術(TKA)後の評価項目としては,従来から身体機能の測定や質問紙による日常生活活動(ADL)の調査が中心であり,これらは術後早期から改善が得られている。しかし,院内で評価された術後成績の改善が,患者の在宅生活に反映されているかを客観的に測定した身体活動量を用いて示した報告は少ない。TKA後,患者がいかに活動的な生活を送ることが可能となったかが重要であることは明らかである。そこで本研究では,TKA後患者の身体活動量の経時的変化を明らかにするとともに,その他の術後成績の推移との対比を行い,身体活動量に影響を及ぼす因子を検討することを目的とした。
【方法】
対象は,2012年5月から2013年7月までに当院とK市民病院でTKAを施行された患者の内,同意が得られ,調査を完遂した23例23関節(女性:20例,男性:3例,手術時平均年齢73.2±7.4歳,BMI:26.7±4.6kg/m2,術後平均在院日数24.1±3.7日)とした。
評価時期は,術前,退院後1か月,術後3か月とした。評価項目として,身体活動量の指標は一日あたりの平均歩数とした。その他の術後成績には,術側膝屈曲可動域及び膝伸展可動域,日本版変形性膝関節症患者機能評価尺度(JKOM)の下位尺度である「膝の痛みとこわばり」「日常生活の状態」「ふだんの活動など」とLife-Space assessment(LSA)を用いた。歩数の測定には生活習慣記録機ライフコーダ(スズケン社製)を使用し,2週間以上連続で装着し,装着日及び回収日を除く連続1週間の平均歩数を算出し用いた。
統計学的処理は,繰り返しのない二元配置分散分析により評価時期での差がみとめられた場合はTukey-Kramer法にて多重比較検定を行った。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に則り,対象者に対して書面および口頭で説明を行い,書面での同意を得た。本研究は当院及びK市民病院における共同研究であり,両施設の臨床研究倫理委員会の承認を受け実施された。
【結果】
各評価項目のスコアを術前→退院後1か月→術後3か月の順に示す。身体活動量は2783±1199歩→2494±983歩→4116±1751歩であり,術後3か月で有意に改善をみとめた。術側膝屈曲可動域は122.8±18.6°→114.3±8.6°→119.1±10.0°,術側伸展可動域は-10±9.5°→-8.5±7.3°→-5.0±5.6°であった。JKOM「膝の痛みとこわばり」は17.8±6.3→8.2±4.8→4.7±4.2,JKOM「日常生活の状態」は20.0±8.8→12.4±5.5→7.2±5.1であり,それぞれ退院後1か月で有意に改善し,術後3か月でも継続して改善をみとめた。JKOM「ふだんの活動など」は,11.8±5.4→9.6±4.9→5.7±4.0であり,術後3か月で有意に改善をみとめた。LSAは71.6±26.1→66.5±18.0→82.7±21.6であり,術後3か月で有意に改善をみとめた。退院後1か月においてLSAの低下がみられた患者では身体活動量も低下する傾向をみとめた。
【考察】
退院後1か月では疼痛や身体機能,ADL能力は術前値を上回る改善をみとめたが,身体活動量は術前値までの改善にとどまった。TKA施行により院内における治療成績の改善が得られても,歩行や外出することに対する恐怖心や不安感から,実際の生活空間の広がりには反映されず,退院後1か月の身体活動量に影響を及ぼしている可能性が示唆された。術後3か月では,さらに疼痛や身体機能,ADL能力が改善し,気持ちに余裕が生まれることで,生活空間の広がりとともに,身体活動量の改善がみとめられたと考えられる。TKA後,身体活動量が思うように改善しない症例には,最低限の機能改善に加え,行動変容としてのアプローチが必要かもしれない。
また,TKA後患者における身体活動量評価は,これまで術後成績の中心であった疼痛や身体機能,ADL能力とは異なる術後経過をたどり,より患者の在宅生活を反映した評価指標であることが示唆された。今後はさらに症例数を増やし調査を継続するとともに,患者の家族背景や家庭内での役割の有無など生活環境との関連も検討していきたいと考えている。
【理学療法学研究としての意義】
TKA前の患者への情報提供や,術後身体活動量を改善するための介入の一助となり得ると考えている。
人工膝関節置換術(TKA)後の評価項目としては,従来から身体機能の測定や質問紙による日常生活活動(ADL)の調査が中心であり,これらは術後早期から改善が得られている。しかし,院内で評価された術後成績の改善が,患者の在宅生活に反映されているかを客観的に測定した身体活動量を用いて示した報告は少ない。TKA後,患者がいかに活動的な生活を送ることが可能となったかが重要であることは明らかである。そこで本研究では,TKA後患者の身体活動量の経時的変化を明らかにするとともに,その他の術後成績の推移との対比を行い,身体活動量に影響を及ぼす因子を検討することを目的とした。
【方法】
対象は,2012年5月から2013年7月までに当院とK市民病院でTKAを施行された患者の内,同意が得られ,調査を完遂した23例23関節(女性:20例,男性:3例,手術時平均年齢73.2±7.4歳,BMI:26.7±4.6kg/m2,術後平均在院日数24.1±3.7日)とした。
評価時期は,術前,退院後1か月,術後3か月とした。評価項目として,身体活動量の指標は一日あたりの平均歩数とした。その他の術後成績には,術側膝屈曲可動域及び膝伸展可動域,日本版変形性膝関節症患者機能評価尺度(JKOM)の下位尺度である「膝の痛みとこわばり」「日常生活の状態」「ふだんの活動など」とLife-Space assessment(LSA)を用いた。歩数の測定には生活習慣記録機ライフコーダ(スズケン社製)を使用し,2週間以上連続で装着し,装着日及び回収日を除く連続1週間の平均歩数を算出し用いた。
統計学的処理は,繰り返しのない二元配置分散分析により評価時期での差がみとめられた場合はTukey-Kramer法にて多重比較検定を行った。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に則り,対象者に対して書面および口頭で説明を行い,書面での同意を得た。本研究は当院及びK市民病院における共同研究であり,両施設の臨床研究倫理委員会の承認を受け実施された。
【結果】
各評価項目のスコアを術前→退院後1か月→術後3か月の順に示す。身体活動量は2783±1199歩→2494±983歩→4116±1751歩であり,術後3か月で有意に改善をみとめた。術側膝屈曲可動域は122.8±18.6°→114.3±8.6°→119.1±10.0°,術側伸展可動域は-10±9.5°→-8.5±7.3°→-5.0±5.6°であった。JKOM「膝の痛みとこわばり」は17.8±6.3→8.2±4.8→4.7±4.2,JKOM「日常生活の状態」は20.0±8.8→12.4±5.5→7.2±5.1であり,それぞれ退院後1か月で有意に改善し,術後3か月でも継続して改善をみとめた。JKOM「ふだんの活動など」は,11.8±5.4→9.6±4.9→5.7±4.0であり,術後3か月で有意に改善をみとめた。LSAは71.6±26.1→66.5±18.0→82.7±21.6であり,術後3か月で有意に改善をみとめた。退院後1か月においてLSAの低下がみられた患者では身体活動量も低下する傾向をみとめた。
【考察】
退院後1か月では疼痛や身体機能,ADL能力は術前値を上回る改善をみとめたが,身体活動量は術前値までの改善にとどまった。TKA施行により院内における治療成績の改善が得られても,歩行や外出することに対する恐怖心や不安感から,実際の生活空間の広がりには反映されず,退院後1か月の身体活動量に影響を及ぼしている可能性が示唆された。術後3か月では,さらに疼痛や身体機能,ADL能力が改善し,気持ちに余裕が生まれることで,生活空間の広がりとともに,身体活動量の改善がみとめられたと考えられる。TKA後,身体活動量が思うように改善しない症例には,最低限の機能改善に加え,行動変容としてのアプローチが必要かもしれない。
また,TKA後患者における身体活動量評価は,これまで術後成績の中心であった疼痛や身体機能,ADL能力とは異なる術後経過をたどり,より患者の在宅生活を反映した評価指標であることが示唆された。今後はさらに症例数を増やし調査を継続するとともに,患者の家族背景や家庭内での役割の有無など生活環境との関連も検討していきたいと考えている。
【理学療法学研究としての意義】
TKA前の患者への情報提供や,術後身体活動量を改善するための介入の一助となり得ると考えている。