[0797] 人工膝関節全置換術後患者の身体機能と術前及び術後の体幹機能の関連性
Keywords:体幹機能, 人工膝関節全置換術, 身体機能
【目的】
変形性膝関節症患者(以下,膝OA)の代表的な治療法として人工膝関節全置換術(以下,TKA)がある。膝OAは膝関節の炎症や変形などを主症状とする運動連鎖機能不全の一病態に至ったものであると報告されている。そのためTKA後は膝関節のみでなく,病変の悪化につながる体幹および下肢の運動連鎖を考慮することが重要である。しかし,体幹機能評価は主観的な評価が多く,我々はその機能を客観化することを目的にTrunk Righting Test(以下,TRT)を考案し,その再現性を報告した。TRTは膝OAを対象として,膝伸展筋力や動的バランス,歩行能力との相関が認められている。そこで今回はTKA前の膝OAに対しTRTを用いて体幹機能評価を実施し,TKA後の身体機能の関連性について検討し,またTKA後の体幹機能とTKA後の身体機能との関連性についても検討した。
【方法】
対象は当院に入院し,TKAを施行された患者30例(年齢72.5±9.8歳,身長153.9±9.6cm,体重58.2±11.2kg)とした。測定項目はTRTと膝伸展筋力,片脚立位時間,台ステップテスト(以下,ST),Timed up and go test(以下,TUG),5回椅子立ち座りテスト(以下,SS-5),30秒椅子立ち座りテスト(以下,CS-30)とした。TRTは昇降台に端座位をとり,10cm外側に体重移動させた肢位をとらせ,ベルトで固定されたハンドヘルドダイナモメーター(以下,HHD)のセンサーパッドを肩鎖関節内側にあて,上方へ押し上げるように立ち直り動作をさせた。測定は3回実施し,平均値を体重比に換算した数値を測定値とした。膝伸展筋力は加藤ら(2001)の方法に従い,端座位から膝関節屈曲90°位での最大等尺性収縮をHHDにて測定した。測定は3回実施し,平均値を体重比に換算した数値を測定値とした。片脚立位時間は姿勢鏡の前で両肩峰が地面と平行になるように片脚立位をとらせ,最大180秒を目標に保持させた時間(秒)を測定し,3回の平均値を測定値とした。STはHillら(1996)が提唱した方法を一部改変し,静止立位をとった対象者の足部から前方に設置した20cm台の上に,最大努力で一側下肢を10秒間ステップさせた回数を測定した。測定は2回実施し,その平均値を測定値とした。TUGは椅子座位を開始肢位とし,任意のタイミングで立ち上がり3m前方のコーンで回転して開始肢位に戻るまでの歩行時間を計測した。本研究では,最大努力を課す変法(2006)を用いた。測定は3回実施し,その平均値を測定値とした。立ち座りテストは自然安静座位を開始肢位とし,最大努力で40cm台からの立ち座り動作を繰り返す課題を行った。SS-5は5回の立ち座り動作の所要時間をストップウォッチにて測定した。CS-30は30秒間にできるだけ多く,立ち座り動作を繰り返させた回数を測定した。それぞれ測定は2回実施し,その平均値を測定値とした。測定は術前(以下,pre)と退院時(以下,post)にて実施した。比較検討は,pre TRTの術側と非術側をその他の項目のpostで関連性を検討し,またpost TRTの術側と非術側とその他の項目のpostで関連性を検討した。統計学的手法はSpearmanの順位相関係数を用い,有意水準を5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言及び,個人情報保護法の趣旨に則り,被験者に研究の趣旨や内容,データの取り扱い方法について十分に説明し,研究への参加の同意を得た。
【結果】
pre TRTの術側はpost TUG(r=0.38,p<0.05)との間に有意な負の相関が認められた。post TRTの術側はpost TUG(r=0.48,p<0.01),post SS-5(r=0.46,p<0.05)との間に有意な負の相関が認められた。また,post TRTの術側はpost CS-30(r=0.51,p<0.01),post STの術側(r=0.47,p<0.05)との間に有意な正の相関が認められた。その他には有意な相関が認められなかった。
【考察】
今回,pre TRTの術側はpost TUGと軽度の相関が認められ,またpost TRTの術側はpostのTUGとSTの術側,SS-5,CS-30と中等度の相関が認められた。今回行った体幹機能評価は,荷重時の体幹での支持能力を評価しており,体幹の左右非対称の筋活動による体幹の協調された固定性が要求される。さらにTRTの肢位から殿部が座面を押す力は,立位などの抗重力活動の際に下肢へ伝達され,足底面で床を押す力と加重し,抗重力活動の力源になると考えられる。つまり,TRTで示めされる体幹機能は,動作時の抗重力活動が必要な場面において,より不安定になりやすい姿勢を保持するために体幹の固定性が要求され,結果,各身体機能に関連性を示すにいたったと考えられた。よってTRTにて示されるTKA前後の術側の体幹機能は,TKA後の身体機能に影響を及ぼす因子であることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
TKA前後の体幹機能の重要性を定量的評価の中から考察できたこと。
変形性膝関節症患者(以下,膝OA)の代表的な治療法として人工膝関節全置換術(以下,TKA)がある。膝OAは膝関節の炎症や変形などを主症状とする運動連鎖機能不全の一病態に至ったものであると報告されている。そのためTKA後は膝関節のみでなく,病変の悪化につながる体幹および下肢の運動連鎖を考慮することが重要である。しかし,体幹機能評価は主観的な評価が多く,我々はその機能を客観化することを目的にTrunk Righting Test(以下,TRT)を考案し,その再現性を報告した。TRTは膝OAを対象として,膝伸展筋力や動的バランス,歩行能力との相関が認められている。そこで今回はTKA前の膝OAに対しTRTを用いて体幹機能評価を実施し,TKA後の身体機能の関連性について検討し,またTKA後の体幹機能とTKA後の身体機能との関連性についても検討した。
【方法】
対象は当院に入院し,TKAを施行された患者30例(年齢72.5±9.8歳,身長153.9±9.6cm,体重58.2±11.2kg)とした。測定項目はTRTと膝伸展筋力,片脚立位時間,台ステップテスト(以下,ST),Timed up and go test(以下,TUG),5回椅子立ち座りテスト(以下,SS-5),30秒椅子立ち座りテスト(以下,CS-30)とした。TRTは昇降台に端座位をとり,10cm外側に体重移動させた肢位をとらせ,ベルトで固定されたハンドヘルドダイナモメーター(以下,HHD)のセンサーパッドを肩鎖関節内側にあて,上方へ押し上げるように立ち直り動作をさせた。測定は3回実施し,平均値を体重比に換算した数値を測定値とした。膝伸展筋力は加藤ら(2001)の方法に従い,端座位から膝関節屈曲90°位での最大等尺性収縮をHHDにて測定した。測定は3回実施し,平均値を体重比に換算した数値を測定値とした。片脚立位時間は姿勢鏡の前で両肩峰が地面と平行になるように片脚立位をとらせ,最大180秒を目標に保持させた時間(秒)を測定し,3回の平均値を測定値とした。STはHillら(1996)が提唱した方法を一部改変し,静止立位をとった対象者の足部から前方に設置した20cm台の上に,最大努力で一側下肢を10秒間ステップさせた回数を測定した。測定は2回実施し,その平均値を測定値とした。TUGは椅子座位を開始肢位とし,任意のタイミングで立ち上がり3m前方のコーンで回転して開始肢位に戻るまでの歩行時間を計測した。本研究では,最大努力を課す変法(2006)を用いた。測定は3回実施し,その平均値を測定値とした。立ち座りテストは自然安静座位を開始肢位とし,最大努力で40cm台からの立ち座り動作を繰り返す課題を行った。SS-5は5回の立ち座り動作の所要時間をストップウォッチにて測定した。CS-30は30秒間にできるだけ多く,立ち座り動作を繰り返させた回数を測定した。それぞれ測定は2回実施し,その平均値を測定値とした。測定は術前(以下,pre)と退院時(以下,post)にて実施した。比較検討は,pre TRTの術側と非術側をその他の項目のpostで関連性を検討し,またpost TRTの術側と非術側とその他の項目のpostで関連性を検討した。統計学的手法はSpearmanの順位相関係数を用い,有意水準を5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言及び,個人情報保護法の趣旨に則り,被験者に研究の趣旨や内容,データの取り扱い方法について十分に説明し,研究への参加の同意を得た。
【結果】
pre TRTの術側はpost TUG(r=0.38,p<0.05)との間に有意な負の相関が認められた。post TRTの術側はpost TUG(r=0.48,p<0.01),post SS-5(r=0.46,p<0.05)との間に有意な負の相関が認められた。また,post TRTの術側はpost CS-30(r=0.51,p<0.01),post STの術側(r=0.47,p<0.05)との間に有意な正の相関が認められた。その他には有意な相関が認められなかった。
【考察】
今回,pre TRTの術側はpost TUGと軽度の相関が認められ,またpost TRTの術側はpostのTUGとSTの術側,SS-5,CS-30と中等度の相関が認められた。今回行った体幹機能評価は,荷重時の体幹での支持能力を評価しており,体幹の左右非対称の筋活動による体幹の協調された固定性が要求される。さらにTRTの肢位から殿部が座面を押す力は,立位などの抗重力活動の際に下肢へ伝達され,足底面で床を押す力と加重し,抗重力活動の力源になると考えられる。つまり,TRTで示めされる体幹機能は,動作時の抗重力活動が必要な場面において,より不安定になりやすい姿勢を保持するために体幹の固定性が要求され,結果,各身体機能に関連性を示すにいたったと考えられた。よってTRTにて示されるTKA前後の術側の体幹機能は,TKA後の身体機能に影響を及ぼす因子であることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
TKA前後の体幹機能の重要性を定量的評価の中から考察できたこと。