[0801] 改訂階段昇降テストの検者間信頼性とバリアンス発生に対する検査特性
Keywords:人工股関節全置換術, 最小可検変化量, 予測妥当性
【はじめに,目的】
人工股関節全置換術(THA)後は疼痛・関節可動域が改善し,歩行能力や生活の質(QOL)が改善するとされている。しかし,変形性股関節症(股OA)患者は,術後も継続して階段昇降が困難な状況にあることが報告されている。日本家屋は上がり框などの特徴的な段差を有しているため,自宅生活への復帰に不安があり,退院時期の決定に影響を及ぼしている可能性がある。退院時期の遅延は,医療経済的な問題を惹起するため,階段昇降能力の把握は重要である。我々は,階段昇降能力を評価する尺度の1つであるTimed stair test(TST)を基に改訂TSTを考案し,THA適用患者における検者内信頼性ICC(1,1)と10m歩行テスト・Timed up and go test(TUG)に対する同時的妥当性を明らかにした。また,10m歩行テストとの手術後の回復率の違いについての弁別的妥当性と,術後入院期間・バリアンス発生の有無に対する予測妥当性を明らかにした。しかし,先行研究では検者間信頼性については検討しておらず,異なる検者間における信頼性を担保できるかは不明であった。また,予測妥当性についても改訂TSTと術後入院期間・バリアンス発生の有無との検討のみであったため,ゴールドスタンダードとして使用されている動作尺度に対する改訂TSTの優位性は不明であり,より詳細な検討が必要である。本研究では改訂TSTの検者間信頼性を明らかにすること,ゴールドスタンダードの動作尺度と改訂TSTとの予測妥当性を比較することを目的とした。
【方法】
対象は当院整形外科にて股OAと診断され,初回片側THAを施行した17名(男性5名,女性12名,年齢:66.5±10.0歳,BMI:23.3±3.4kg/m2)であった。改訂TSTの階段の規格は,本邦で広く用いられている踊り場を含めた4段の階段(蹴上げ150mm,踏面300mm)とした。改訂TSTは,第1相が椅子から起立し3m歩行する,第2相が階段を昇段する,第3相が方向転換し階段を降段する,第4相が3m歩行し椅子に着座するという第1相~第4相に相分けした。この測定から得られた改訂TSTの総所要時間と各相別の所要時間を求めた。測定は術前に改訂TST総所要時間・各相別時間・10m歩行テスト・TUGを測定し,退院時に改訂TST総所要時間を測定した。統計解析として,検者間信頼性については,退院時の改訂TST総所要時間の検者間信頼性ICC(2,1)と検者間最小可検変化量(MDC)を検討した。なお,退院時の改訂TST総所要時間は2名の検者が同時に測定を行った。また,予測妥当性については,術後入院期間と術前改訂TST総所要時間・各相別時間・10m歩行テスト・TUGとの関連をPearsonの積率相関係数を用いて検討し,バリアンス発生(当院のクリニカルパスの術後在院日数である21日を超過して在院した場合)に対する検査特性をReceiver Operating Characteristic(ROC)曲線分析より求めた。データ解析はSPSS ver.21.0を用い,有意水準は両側5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は当院の倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号25-147)。対象者には趣旨を書面にて説明し,同意を得た。
【結果】
改訂TST総所要時間の検者間信頼性ICC(2,1)は0.99(p<0.001)であり,検者間MDCは1.62秒であった。予測妥当性については,術前改訂TST総所要時間・第1相・第4相に術後入院期間との間に有意な正の相関を認め,TUGと10m歩行テストには有意な相関は認められなかった。また,有意な相関関係を認めた術前改訂TST総所要時間・第1相・第4相とバリアンス発生の有無とのROC曲線分析の結果,曲線下面積はそれぞれ86.7%(p=0.02)・85.0%(p=0.027)・85.0%(p=0.027)であった。バリアンス発生の識別精度が最も高い改訂TST総所要時間のcut off値は15.57秒であり,感度は80.0%,特異度は91.7%,陽性尤度比は9.60,陰性尤度比は0.22であった。
【考察】
改訂TST総所要時間は,良好な検者間信頼性を有することが示唆された。また,検者間MDCは1.62秒であり,異なる検者間においても患者の変化を捉え得る尺度であることが示唆された。予測妥当性については,術前改訂TST総所要時間・第1相・第4相の遂行時間が長い者は,術後入院期間が長くなることが示唆された。特に,改訂TST総所要時間はゴールドスタンダードを含む全尺度の中で,バリアンス発生の予測に最も優れており,術前改訂TST総所要時間が16秒以上の者のバリアンス発生率は,バリアンス非発生率の約10倍となることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
改訂TST総所要時間は一定の検者間信頼性を認めたことから,異なる検者による測定が可能であると考える。さらに,術前改訂TST総所要時間の測定により,バリアンス発生の有無を判別することができるため,術後の理学療法介入を検討するための重要な指標になることが期待できる。
人工股関節全置換術(THA)後は疼痛・関節可動域が改善し,歩行能力や生活の質(QOL)が改善するとされている。しかし,変形性股関節症(股OA)患者は,術後も継続して階段昇降が困難な状況にあることが報告されている。日本家屋は上がり框などの特徴的な段差を有しているため,自宅生活への復帰に不安があり,退院時期の決定に影響を及ぼしている可能性がある。退院時期の遅延は,医療経済的な問題を惹起するため,階段昇降能力の把握は重要である。我々は,階段昇降能力を評価する尺度の1つであるTimed stair test(TST)を基に改訂TSTを考案し,THA適用患者における検者内信頼性ICC(1,1)と10m歩行テスト・Timed up and go test(TUG)に対する同時的妥当性を明らかにした。また,10m歩行テストとの手術後の回復率の違いについての弁別的妥当性と,術後入院期間・バリアンス発生の有無に対する予測妥当性を明らかにした。しかし,先行研究では検者間信頼性については検討しておらず,異なる検者間における信頼性を担保できるかは不明であった。また,予測妥当性についても改訂TSTと術後入院期間・バリアンス発生の有無との検討のみであったため,ゴールドスタンダードとして使用されている動作尺度に対する改訂TSTの優位性は不明であり,より詳細な検討が必要である。本研究では改訂TSTの検者間信頼性を明らかにすること,ゴールドスタンダードの動作尺度と改訂TSTとの予測妥当性を比較することを目的とした。
【方法】
対象は当院整形外科にて股OAと診断され,初回片側THAを施行した17名(男性5名,女性12名,年齢:66.5±10.0歳,BMI:23.3±3.4kg/m2)であった。改訂TSTの階段の規格は,本邦で広く用いられている踊り場を含めた4段の階段(蹴上げ150mm,踏面300mm)とした。改訂TSTは,第1相が椅子から起立し3m歩行する,第2相が階段を昇段する,第3相が方向転換し階段を降段する,第4相が3m歩行し椅子に着座するという第1相~第4相に相分けした。この測定から得られた改訂TSTの総所要時間と各相別の所要時間を求めた。測定は術前に改訂TST総所要時間・各相別時間・10m歩行テスト・TUGを測定し,退院時に改訂TST総所要時間を測定した。統計解析として,検者間信頼性については,退院時の改訂TST総所要時間の検者間信頼性ICC(2,1)と検者間最小可検変化量(MDC)を検討した。なお,退院時の改訂TST総所要時間は2名の検者が同時に測定を行った。また,予測妥当性については,術後入院期間と術前改訂TST総所要時間・各相別時間・10m歩行テスト・TUGとの関連をPearsonの積率相関係数を用いて検討し,バリアンス発生(当院のクリニカルパスの術後在院日数である21日を超過して在院した場合)に対する検査特性をReceiver Operating Characteristic(ROC)曲線分析より求めた。データ解析はSPSS ver.21.0を用い,有意水準は両側5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は当院の倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号25-147)。対象者には趣旨を書面にて説明し,同意を得た。
【結果】
改訂TST総所要時間の検者間信頼性ICC(2,1)は0.99(p<0.001)であり,検者間MDCは1.62秒であった。予測妥当性については,術前改訂TST総所要時間・第1相・第4相に術後入院期間との間に有意な正の相関を認め,TUGと10m歩行テストには有意な相関は認められなかった。また,有意な相関関係を認めた術前改訂TST総所要時間・第1相・第4相とバリアンス発生の有無とのROC曲線分析の結果,曲線下面積はそれぞれ86.7%(p=0.02)・85.0%(p=0.027)・85.0%(p=0.027)であった。バリアンス発生の識別精度が最も高い改訂TST総所要時間のcut off値は15.57秒であり,感度は80.0%,特異度は91.7%,陽性尤度比は9.60,陰性尤度比は0.22であった。
【考察】
改訂TST総所要時間は,良好な検者間信頼性を有することが示唆された。また,検者間MDCは1.62秒であり,異なる検者間においても患者の変化を捉え得る尺度であることが示唆された。予測妥当性については,術前改訂TST総所要時間・第1相・第4相の遂行時間が長い者は,術後入院期間が長くなることが示唆された。特に,改訂TST総所要時間はゴールドスタンダードを含む全尺度の中で,バリアンス発生の予測に最も優れており,術前改訂TST総所要時間が16秒以上の者のバリアンス発生率は,バリアンス非発生率の約10倍となることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
改訂TST総所要時間は一定の検者間信頼性を認めたことから,異なる検者による測定が可能であると考える。さらに,術前改訂TST総所要時間の測定により,バリアンス発生の有無を判別することができるため,術後の理学療法介入を検討するための重要な指標になることが期待できる。