第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 神経理学療法 ポスター

その他1

2014年5月31日(土) 10:25 〜 11:15 ポスター会場 (神経)

座長:柴喜崇(北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科理学療法学専攻基礎理学療法学)

神経 ポスター

[0811] 進行期パーキンソン病患者における両側視床下核脳深部刺激療法前後での脳血流の比較

尾崎啓次1, 上利崇2, 千野根勝行3, 小野敦4, 亀山真悟1, 佐々木達也2, 若森孝彰2, 伊達勲2 (1.光生病院診療支援部リハビリテーション課, 2.岡山大学大学院脳神経外科, 3.川崎医療福祉大学医療技術学部リハビリテーション学科, 4.光生病院診療支援部放射線科)

キーワード:パーキンソン病, STN-DBS, 運動学習

【はじめに,目的】
パーキンソン病(PD)は中脳黒室のドーパミンの変性により,大脳基底核ネットワークの機能不全から運動症状を引き起こす進行性の疾患である。そのため,PDは運動学習において不利な疾患であると考えられている。しかし,PDにおける視床下核(STN)の脳深部刺激療法(deep brain stimulation:DBS)は運動症状に対して有効な治療法とされている。そこで,本研究の目的は,STN-DBSが運動学習に関与する脳部位の局所血流量に対して,どのように作用するのかを明らかにすることである。
【方法】
当院へ入院した進行期PD患者8名(男性3名,女性5名,年齢62±14歳)を対象とした。対象者全員にSTN-DBS前と術後3ヶ月で脳血流SPECTを行った。SPECT装置は(99mTC-ECD)を用い,安静臥床状態で撮像を行なった。また,KuhlらのγCBF定量法に準拠し,脳血流量の算定を行なった。部位は,両側の一次聴覚野,一次視覚野,一次感覚野,海馬,前頭連合野,頭頂連合野,側頭葉連合野,基底核,小脳,運動関連領野である。そして術前後の局所脳血流量を比較し,統計学的解析には,Wilcoxonの符号付順位和検定を用いて,危険率5%未満をもって有意とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言の倫理規程に準拠しており,当院の倫理委員会の承認を得ている。症例の発表については,本人と家族にその目的を説明し同意を得ている。
【結果】
有位な血流増加を示した脳部位を下記に示す。(各脳部位 術前平均値±標準偏差/術後平均値±標準偏差/P値)。右側頭葉連合野33.91±3.84/36.23±6.59/0.04,左側頭連合野32.87±3.21/35.02±5.42/0.03,左海馬29.88±7.62/31.35±6.24/0.04,左上頭頂小葉34.05±6.24/36.29±6.28/0.04,左下頭頂小葉33.75±4.96/35.91±5.71/0.02,左一次感覚野34.85±6.66/37.16±7.94/0.04,左一次視覚野38.73±5.80/41.76±6.43/0.04。しかしながら,右前頭連合野34.35±5.17/34.40±5.12/0.86,左前頭連合野33.84±6.53/33.96±8.10/0.61,右補足運動野39.55±7.44/40.95±9.81/0.23,左補足運動野39.15±8.52/39.90±10.3/0.49,右運動前野34.68±4.38/36.81±4.39/0.17,左運動前野34.81±5.72/35.40±7.17/0.38においては血流の有位な変化は認められなかった。一方で,左尾状核頭は29.99±7.83/28.20±5.94/0.02であり,有位な血流低下が示された。
【考察】
今回の我々の結果では,両側側頭連合野,左海馬,左上頭頂小葉,左下頭頂小葉,左一次感覚野,左一次視覚野で有位な血流増加がみられた。このことは運動学習の認知的な過程での海馬による陳述記憶の優位性,左上頭頂小葉・下頭頂小葉及び一次感覚野での3次元的な姿勢図式の知覚や視覚的な身体像の形成を行なう上での優位性を示唆している。しかしながら,今回のデータでは当初血流量が増加すると予測していた補足運動野,運動前野の血流増加は認められなかった。PETやSPECTを用いた多くの先行研究によると,両側STN-DBSで運動前野や補足運動野の有位な血流増加を示すものが多い。今回の我々の研究においても,8人中6人は血流の増加を示した。個別のデータ間隔差が大きかったことが有位差を認めなかった一因であると考えられる。STN-DBSを行うことにより運動学習の固定化や自動化の過程においても優位に働く可能性が高い。一方で左尾状核頭の有位な血流低下も認められた。Alexanderらによると尾状核頭は背外側前頭前野との認知ループを形成している。今回の結果で前頭連合野の血流の変化が起こっていないこと,そして前頭連合野が運動学習の認知過程に関与することを考えると,認知ループの機能が維持されていることが術後の運動学習を左右するという可能性も示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
今回の結果により,STN-DBS後の運動療法では,導入として視覚情報を利用したアプローチが有効なのではないか。また記憶の形式は言語化し,陳述記憶としたほうがよいのではないか。STN-DBS術前に前頭葉機能評価を行なうことで予後判定に役立つのではないか,そして術前に前頭連合野-尾状核頭の認知ループの賦活化を行なうことの重要性が示唆される。
また,課題としては対象データ数が少なかったため,統計学的解析が不十分となった可能性がある。今後さらに症例数を増やし,信頼度の高いデータを収集する必要がある。