[0816] 高齢心臓血管外科術後患者に対する重錘負荷を用いた膝伸展運動の効果と限界
キーワード:心臓外科手術, 運動療法, pre-training
【はじめに】
ESC position statement 2011において,Resistance/Strength trainingの層別化が明確にされ,入院期における運動療法はResistance/Strength trainingを行う準備段階としてのpre-trainingと定義された。しかし,高齢心臓血管外科症例を対象とした術後早期からのpre-trainingとしての運動療法についての報告は見当たらない。本研究の目的は70才以上の心臓外科術後患者に対し重錘負荷を用いた膝伸展運動を実施し,術後の筋力,歩行速度,ADLスコアに及ぼす影響について検討することである。なお,本研究はJSPS科研費の助成を受けて実施された。
【方法】
対象は待機的に開胸下心臓血管外科手術を受ける70才以上の患者。選択基準は術前NYHA分類がIII以下であり,術前にトイレ歩行が許可されている症例とした。除外基準は心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドラインに準拠した。初期評価は筋力(膝伸展筋力,握力),膝伸展トルク体重比,歩行速度,ADLスコアとした。膝伸展筋力はANNIMA社製μTAS MT-1を使用し膝屈曲角度90度位での最大随意収縮(MVC)を測定した。握力測はTAKEI社製GRIP-Dを使用し座位上肢下垂位にて測定した。ADLスコアにはFIMを使用した。対象者を初期評価実施後,単純無作為化により2群へ分類した。無作為化では年齢,診断名,術式,リスク因子などの関連要因による調整は行わなかった。通常の離床動作練習,歩行練習およびADL練習のみを実施する群をコントロール群とし,加えて膝伸展運動を行う群を介入群とした。術後,立位保持可能となった時点で膝伸展運動を開始した。膝伸展運動は座位で重錘ベルトを使用し実施した。重錘ベルトの負荷量は術前に測定したMVCの5%重量(5%MVC)とし500g刻みで重錘負荷量を漸増させ,負荷量は最大で20%MVCとした。膝伸展運動は2秒の求心性収縮と2秒の遠心性収縮で一回とし,片側20回,両側で40回を1セットとし,一日当たり2セットを実施した。FIMスコアの群内比較にはMann-WhitneyのU検定を,群間比較にはWilcoxonの符号付き順位検定を使用し,その他の指標の群内比較には対応のあるt検定を,群間比較には初期評価時の値を共変量とした共分散分析(AVCOVA)を使用した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は当施設倫理委員会の承認を得,ヘルシンキ宣言に則り説明文書を用いて説明を行い,書面による同意を得た上で実施している。
【結果】
対象は25例,コントロール群12例,介入群13例であった。2群において年齢,体重,生化学指標,手術時間や入院日数等に有意差はなかった。膝伸展筋力(介入群pre vs. post;コントロール群pre vs. post)21.9±7.0 vs. 22.0±5.5(有意差なし);25.0±10.0 vs. 20.4±6.2(p<0.05)において群内差を認め,膝伸展トルク体重比1.00±0.26 vs. 1.10±0.15;0.98±0.58 vs. 0.94±0.26(p<0.05,ANCOVA)において群間差を認めた。歩行速度,FIMでは有意差を認めなかった。
【考察】
運動種目は安全性が報告14)されている膝関節伸展運動とし,初期負荷量は5%MVCとした。Pre-trainingでは1RMの30%負荷量からの開始が推奨されている。膝伸展筋力は屈曲60°付近でピーク値をとり,他の可動域では発揮筋力が小さくなるが,MVCからの1RM予測式16)に基づくと,5%MVCは30%1RMを超えない重量であることが確認できる。また,高齢者への40%1RM~50%1RMの強度での運動は筋力の改善に寄与(ACSM guideline 2013)するとされ,今回設定した負荷量は妥当であったと推察される。一方,FIMや他の指標については2群間で差は無かった。離床動作は複合関節の閉鎖運動連鎖による動作であり,歩行は有酸素能力も必要となる。これらの動作に今回の膝伸展運動のみの介入が影響しなかったことはトレーニングの特異性の見地からも当然のことであり,本トレーニングの限界が示されたことが推察される。
【理学療法学研究としての意義】
高齢心臓血管外科症例に対する術後早期からの運動療法の介入研究は少なく,負荷量を厳密に定量化した報告は見当たらない。今回我々は術後早期から定量的膝関節伸展運動を実施し,膝伸展トルク体重比の改善効果が示された。一方,他の指標に変化は生じ無かった。本研究結果は離床動作やADLにつながる運動療法実践の基礎的知見を示すものと考える。
ESC position statement 2011において,Resistance/Strength trainingの層別化が明確にされ,入院期における運動療法はResistance/Strength trainingを行う準備段階としてのpre-trainingと定義された。しかし,高齢心臓血管外科症例を対象とした術後早期からのpre-trainingとしての運動療法についての報告は見当たらない。本研究の目的は70才以上の心臓外科術後患者に対し重錘負荷を用いた膝伸展運動を実施し,術後の筋力,歩行速度,ADLスコアに及ぼす影響について検討することである。なお,本研究はJSPS科研費の助成を受けて実施された。
【方法】
対象は待機的に開胸下心臓血管外科手術を受ける70才以上の患者。選択基準は術前NYHA分類がIII以下であり,術前にトイレ歩行が許可されている症例とした。除外基準は心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドラインに準拠した。初期評価は筋力(膝伸展筋力,握力),膝伸展トルク体重比,歩行速度,ADLスコアとした。膝伸展筋力はANNIMA社製μTAS MT-1を使用し膝屈曲角度90度位での最大随意収縮(MVC)を測定した。握力測はTAKEI社製GRIP-Dを使用し座位上肢下垂位にて測定した。ADLスコアにはFIMを使用した。対象者を初期評価実施後,単純無作為化により2群へ分類した。無作為化では年齢,診断名,術式,リスク因子などの関連要因による調整は行わなかった。通常の離床動作練習,歩行練習およびADL練習のみを実施する群をコントロール群とし,加えて膝伸展運動を行う群を介入群とした。術後,立位保持可能となった時点で膝伸展運動を開始した。膝伸展運動は座位で重錘ベルトを使用し実施した。重錘ベルトの負荷量は術前に測定したMVCの5%重量(5%MVC)とし500g刻みで重錘負荷量を漸増させ,負荷量は最大で20%MVCとした。膝伸展運動は2秒の求心性収縮と2秒の遠心性収縮で一回とし,片側20回,両側で40回を1セットとし,一日当たり2セットを実施した。FIMスコアの群内比較にはMann-WhitneyのU検定を,群間比較にはWilcoxonの符号付き順位検定を使用し,その他の指標の群内比較には対応のあるt検定を,群間比較には初期評価時の値を共変量とした共分散分析(AVCOVA)を使用した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は当施設倫理委員会の承認を得,ヘルシンキ宣言に則り説明文書を用いて説明を行い,書面による同意を得た上で実施している。
【結果】
対象は25例,コントロール群12例,介入群13例であった。2群において年齢,体重,生化学指標,手術時間や入院日数等に有意差はなかった。膝伸展筋力(介入群pre vs. post;コントロール群pre vs. post)21.9±7.0 vs. 22.0±5.5(有意差なし);25.0±10.0 vs. 20.4±6.2(p<0.05)において群内差を認め,膝伸展トルク体重比1.00±0.26 vs. 1.10±0.15;0.98±0.58 vs. 0.94±0.26(p<0.05,ANCOVA)において群間差を認めた。歩行速度,FIMでは有意差を認めなかった。
【考察】
運動種目は安全性が報告14)されている膝関節伸展運動とし,初期負荷量は5%MVCとした。Pre-trainingでは1RMの30%負荷量からの開始が推奨されている。膝伸展筋力は屈曲60°付近でピーク値をとり,他の可動域では発揮筋力が小さくなるが,MVCからの1RM予測式16)に基づくと,5%MVCは30%1RMを超えない重量であることが確認できる。また,高齢者への40%1RM~50%1RMの強度での運動は筋力の改善に寄与(ACSM guideline 2013)するとされ,今回設定した負荷量は妥当であったと推察される。一方,FIMや他の指標については2群間で差は無かった。離床動作は複合関節の閉鎖運動連鎖による動作であり,歩行は有酸素能力も必要となる。これらの動作に今回の膝伸展運動のみの介入が影響しなかったことはトレーニングの特異性の見地からも当然のことであり,本トレーニングの限界が示されたことが推察される。
【理学療法学研究としての意義】
高齢心臓血管外科症例に対する術後早期からの運動療法の介入研究は少なく,負荷量を厳密に定量化した報告は見当たらない。今回我々は術後早期から定量的膝関節伸展運動を実施し,膝伸展トルク体重比の改善効果が示された。一方,他の指標に変化は生じ無かった。本研究結果は離床動作やADLにつながる運動療法実践の基礎的知見を示すものと考える。