[0819] 急性期心臓リハビリテーションの自律神経機能や精神機能および運動耐容能への効果
キーワード:急性心筋梗塞, 自律神経機能, 不安・抑うつ
【はじめに,目的】
自律神経機能は心疾患の予後規定因子であり,心拍変動(HRV)低下は心不全や冠動脈疾患による死亡率との関連が報告されている。
また不安や抑うつと冠動脈疾患の関連性の報告も多く,冠動脈疾患患者の30~45%に明らかな抑うつ症状が存在し,心血管イベント発症リスクは抑うつがあると数倍に上昇する。このことから抑うつは冠動脈疾患の危険因子である。
これに対し心臓リハビリテーション(CR)の運動療法はガイドラインにて,運動耐容能の向上,副交感神経活動増加や交感神経活動・心拍数の減少効果があるとされる。
しかし急性心筋梗塞(AMI)後の自律神経機能障害や不安・抑うつ等に対する運動療法の効果を長期的・継続的に調査した報告は少なく,不明な点も多い。
本研究ではAMI後の運動療法の自律神経機能や精神機能に対する効果を継時的に調査した。
【方法】
対象は2012年8月以降にAMIにて入院,CR実施し退院ののち
発症後6ヶ月経過した患者。
<測定項目>
①自律神経機能評価:HRVをチェックマイハート(DailyCare BioMedical.Taiwan)にて測定
②不安・抑うつ評価:質問紙Hospital Anxiety and Depression Scale:HADSを実施。
③運動耐容能:心肺運動負荷試験(CPX)にて最高酸素摂取量(PeakV(dot)O2)と安静時およびPeak心拍数(HR)を測定。
④生化学・生理機能検査として脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP),C反応性タンパク,白血球数,血清脂質,左室駆出率,動脈硬化検査を実施した。
<評価時期>
①②④:CR開始時(CRS),退院時(ENT),および発症後6ヶ月(6M)
③:ENTと6Mに検査した。採血や生理機能検査は医師や臨床検査技師により実施。
統計解析は各評価指標をShapiro-Wilk検定にて正規性を確認し,一元配置分散分析とFriedman検定,Steel-Dwassの多重比較等を行った。運動耐容能の比較にはt検定を用いた。解析ソフトはSPSS.Ver.21.0(IBM・Tokyo)を使用し,有意水準5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
研究実施に当たり,ヘルシンキ宣言および個人情報保護法等のもとデータを管理した。対象者には書面と口頭にて十分説明し同意を得た。本研究は所属施設の倫理委員会にて承認を得ている。
【結果】
対象16名,開始時年齢64±8.0歳,CR実施期間12.1±7.5日であった。各HRV指標に差を認めず。HADSは不安がCRS:5.4±3.5,ENT:4.4±2.5,6M:4.1±3.2,抑うつも同様の順で5.3±3.7,5.1±3.8,4.4±3.1で共に有意差なし。PeakV(dot)O2はENT:21.3±4.7ml/kg/min,6M:23.1±4.8ml/kg/minで,P=0.057と有意差は認めず。安静時HRではENT:71.3±10.1回/分,6M:65.5±9.3回/分で有意差を認めた(P<0.05)。
生化学検査は,BNPがCRS:218.0±253.9,ENT:132.1±121.1,6M:43.3±34.7でCRSと6M,ENTと6Mで差を認め,6Mが有意に低下していた(P<0.05)。各生理機能検査に明らかな差は認めない。
【考察】
HRVに変化を認めなった。Wiggersらは運動療法後6ヶ月~9ヶ月までHRV改善は認めないと報告しており,観察期間が結果に影響をおよぼした可能性が考えられる。またHRVの標準偏差が大きいことが影響した可能性が考えられ,HRVの各パラメーターは交感神経機能と副交感神経機能の各々を反映しており,これらは概日リズムを有し刻々と変化する。またHRVは個人差が大きく,これらがHRVの標準偏差が大きい要因の一つと考えられ,今後多くの対象者への調査や更なる観察期間が必要と考える。
不安・抑うつに変化を認めなかった。しかし,HADSは8点以上に問題があり,対象者は全体的に低値であった。斎藤らは長期化する抑うつに対しては専門的な介入が必要であると述べており,本検討の対象者も精神症状の重症例の判別は重要と考える。
運動耐容能に改善を認めなかった。これは退院後の運動継続性が不十分である可能性が考えられ,ガイドラインでは週3回以上の頻度で12週以上運動を継続した場合に最も運動耐容能の向上効果が得られると報告されており,回復期CRの重要性が挙げられる。
安静時HRの減少はAMI後の交感神経亢進の改善と推察できる。しかし本研究におけるHRVの変化からは言及できない。
BNPは発症後6ヶ月で明らかな低下を認め,これは心不全兆候の改善と考えられる。
本研究の限界として,退院後の運動継続は外来診察時の確認のみで直接的な介入でないこと,症例数が少ないことが挙げられる。
【理学療法学研究としての意義】
心疾患と自律神経機能と精神機能の関連性は不明な点も多い。本研究では継続的にこれら機能の変化を調査した意義は大きい。また,今後更に長期的に観察し,心疾患における自律神経機能と精神機能の関連性を調査・明示することは,CR介入ならびに理学療法学の一助となると考える。
自律神経機能は心疾患の予後規定因子であり,心拍変動(HRV)低下は心不全や冠動脈疾患による死亡率との関連が報告されている。
また不安や抑うつと冠動脈疾患の関連性の報告も多く,冠動脈疾患患者の30~45%に明らかな抑うつ症状が存在し,心血管イベント発症リスクは抑うつがあると数倍に上昇する。このことから抑うつは冠動脈疾患の危険因子である。
これに対し心臓リハビリテーション(CR)の運動療法はガイドラインにて,運動耐容能の向上,副交感神経活動増加や交感神経活動・心拍数の減少効果があるとされる。
しかし急性心筋梗塞(AMI)後の自律神経機能障害や不安・抑うつ等に対する運動療法の効果を長期的・継続的に調査した報告は少なく,不明な点も多い。
本研究ではAMI後の運動療法の自律神経機能や精神機能に対する効果を継時的に調査した。
【方法】
対象は2012年8月以降にAMIにて入院,CR実施し退院ののち
発症後6ヶ月経過した患者。
<測定項目>
①自律神経機能評価:HRVをチェックマイハート(DailyCare BioMedical.Taiwan)にて測定
②不安・抑うつ評価:質問紙Hospital Anxiety and Depression Scale:HADSを実施。
③運動耐容能:心肺運動負荷試験(CPX)にて最高酸素摂取量(PeakV(dot)O2)と安静時およびPeak心拍数(HR)を測定。
④生化学・生理機能検査として脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP),C反応性タンパク,白血球数,血清脂質,左室駆出率,動脈硬化検査を実施した。
<評価時期>
①②④:CR開始時(CRS),退院時(ENT),および発症後6ヶ月(6M)
③:ENTと6Mに検査した。採血や生理機能検査は医師や臨床検査技師により実施。
統計解析は各評価指標をShapiro-Wilk検定にて正規性を確認し,一元配置分散分析とFriedman検定,Steel-Dwassの多重比較等を行った。運動耐容能の比較にはt検定を用いた。解析ソフトはSPSS.Ver.21.0(IBM・Tokyo)を使用し,有意水準5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
研究実施に当たり,ヘルシンキ宣言および個人情報保護法等のもとデータを管理した。対象者には書面と口頭にて十分説明し同意を得た。本研究は所属施設の倫理委員会にて承認を得ている。
【結果】
対象16名,開始時年齢64±8.0歳,CR実施期間12.1±7.5日であった。各HRV指標に差を認めず。HADSは不安がCRS:5.4±3.5,ENT:4.4±2.5,6M:4.1±3.2,抑うつも同様の順で5.3±3.7,5.1±3.8,4.4±3.1で共に有意差なし。PeakV(dot)O2はENT:21.3±4.7ml/kg/min,6M:23.1±4.8ml/kg/minで,P=0.057と有意差は認めず。安静時HRではENT:71.3±10.1回/分,6M:65.5±9.3回/分で有意差を認めた(P<0.05)。
生化学検査は,BNPがCRS:218.0±253.9,ENT:132.1±121.1,6M:43.3±34.7でCRSと6M,ENTと6Mで差を認め,6Mが有意に低下していた(P<0.05)。各生理機能検査に明らかな差は認めない。
【考察】
HRVに変化を認めなった。Wiggersらは運動療法後6ヶ月~9ヶ月までHRV改善は認めないと報告しており,観察期間が結果に影響をおよぼした可能性が考えられる。またHRVの標準偏差が大きいことが影響した可能性が考えられ,HRVの各パラメーターは交感神経機能と副交感神経機能の各々を反映しており,これらは概日リズムを有し刻々と変化する。またHRVは個人差が大きく,これらがHRVの標準偏差が大きい要因の一つと考えられ,今後多くの対象者への調査や更なる観察期間が必要と考える。
不安・抑うつに変化を認めなかった。しかし,HADSは8点以上に問題があり,対象者は全体的に低値であった。斎藤らは長期化する抑うつに対しては専門的な介入が必要であると述べており,本検討の対象者も精神症状の重症例の判別は重要と考える。
運動耐容能に改善を認めなかった。これは退院後の運動継続性が不十分である可能性が考えられ,ガイドラインでは週3回以上の頻度で12週以上運動を継続した場合に最も運動耐容能の向上効果が得られると報告されており,回復期CRの重要性が挙げられる。
安静時HRの減少はAMI後の交感神経亢進の改善と推察できる。しかし本研究におけるHRVの変化からは言及できない。
BNPは発症後6ヶ月で明らかな低下を認め,これは心不全兆候の改善と考えられる。
本研究の限界として,退院後の運動継続は外来診察時の確認のみで直接的な介入でないこと,症例数が少ないことが挙げられる。
【理学療法学研究としての意義】
心疾患と自律神経機能と精神機能の関連性は不明な点も多い。本研究では継続的にこれら機能の変化を調査した意義は大きい。また,今後更に長期的に観察し,心疾患における自律神経機能と精神機能の関連性を調査・明示することは,CR介入ならびに理学療法学の一助となると考える。