第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 生活環境支援理学療法 口述

健康増進・予防9

Sat. May 31, 2014 11:20 AM - 12:10 PM 第6会場 (3F 304)

座長:武田知樹(学校法人平松学園大分リハビリテーション専門学校理学療法士科)

生活環境支援 口述

[0823] 地域高齢者を対象とした生活空間の縦断的変化とその予測モデルの提案

森川真也1, 玉利光太郎2, 谷口千明1, 得丸敬三3 (1.放射線第一病院リハビリテーション科, 2.ペルー共和国国立障害者リハビリテーションセンター(JICAボランティア参加), 3.佛教大学保健医療技術学部理学療法学科)

Keywords:Life-space assessment, 生活空間予測スケール, 診断特性

【はじめに・目的】加齢に伴う生活空間の狭小化は,身体活動量の低下に繋がると捉えられており,介護予防の観点からも,運動機能のみならず生活空間を踏まえた評価が重要視されている。つまり,低活動高齢者の生活空間の変化を早期に把握することで適切な介入を行い,増加する要介護認定者に歯止めをかけることが期待できる。生活空間の測定尺度としては,その妥当性からLife-space assessment(LSA)が用いられており,これまでに運動機能やIADL等との関連が報告されている。しかし,低活動高齢者を対象とした生活空間の経時的変化や関連因子は明らかにされていない。本研究は通院,通所高齢者を対象に,生活空間の縦断的変化について,介入があるにもかかわらず生活空間が1年間に低下または低活動域から脱却できない高齢者の予測モデルを作成すること,および予測モデルを基に予測スケールを作成し,その診断特性を明らかにすることを目的とした。
【方法】市内5施設の通院,通所者105名のうち1年間追跡調査が可能であった71名(男性25名,女性46名,平均年齢78.4±7.2歳)とした。除外基準は屋内移動が不可能な者,質問に回答困難な者とした。研究デザインは前向き縦断研究とし,初回にLSA・説明変数・介在変数(運動能力)を計測し,3ヶ月後に介在変数,1年後にLSAの計測を行った。測定項目は基本属性および説明変数として,身体組成(体水分量,骨量等),呼吸機能(VC,PEF等),等尺性膝伸展筋力(体重比を採用),握力,医学的属性(併存疾患,VAS,薬物療法),人とのつながり(LSNS-6),自己効力感(歩行SE)とした。身体組成の計測は組成計を用い,骨量は身長の二乗で補正した。介在変数は開眼片脚立位,TUG,10m最大歩行,3分間歩行距離,5回立ち上がりテストの変化量を測定した。交絡因子は年齢,BMI,性別,調査開始前介入期間を採用した。アウトカムの規定は,島田らのIADLの低下予測値を基に,LSAが全調査期間を通して56点未満あるいは1年後に56点未満に低下した者を非反応群,それ以外を反応群の2群に分類した。統計処理は,t検定,χ2検定にて関連(P<0.2)を認めた変数により二項ロジスティック回帰分析を行い,説明変数,交絡因子,介在変数を階層的に投入し関連因子を検討した。その際,交絡因子は主成分分析により2成分に統合した。また,最終予測モデルの独立因子とアウトカムとのROC解析にてカットオフ値を算出した。さらに標準偏回帰係数を基に,各独立因子を得点化した尺度(生活空間予測スケール)の合計点(0点~9点)とアウトカムとのROC解析を行い,診断特性を算出した。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】倫理的配慮として吉備国際大学大学院の倫理委員会の承認(受理番号11-24)を得た。対象者には趣旨を書面にて説明し,十分理解した上で同意書を得た。
【結果】非反応群は36名(50.7%)であった。二項ロジスティック回帰分析の結果,最終モデルでは膝伸展筋力,骨量,歩行SEが有意に従属変数を説明した。各因子の特異度の90・60・40%を基準としたカットオフ値と配点は,膝伸展筋力(25.4,38.2,46.4%),骨量(0.33,0.37,0.38kg/cm2),歩行SE(9.5,15.5,20.5点),各3点~0点(例:筋力25.4,骨量0.33,歩行SE9.5以下の場合,計9点)であった。生活空間予測スケール(AUC:0.795,p<0.01)の合計得点が3点の時の感度は97.2%,特異度37.1%,陽性尤度比(LR+)1.5,陰性尤度比(LR-)0.07,陰性的中率は93%,合計得点が7点の時の感度は25%,特異度97.1%,LR+は8.6,LR-は0.77,陽性的中率は90%であった。
【考察】本研究の結果,生活空間が1年後に低下,または低活動域から脱却できないリハビリテーション利用者が約50%も存在し,その特徴として,膝伸展筋力,骨量,歩行SEが低いことが示唆された。また,これら検査結果の組み合わせにより,1年後の生活空間の変化を予測できることが示唆された。すなわち,3因子を組み合わせた生活空間予測スケールが2点以下の場合,1年後に一定の生活空間を維持・改善できる確率はおよそ93%前後,一方7点以上の場合は低活動域から脱却できない,または生活空間が狭小化する確率がおよそ90%前後であることが示唆された。本研究の限界として,今回の対象が通院・通所者に限られているため,結果を全高齢者に一般化できないこと,および本研究のアウトカムには,介入以外の様々な因子が影響している可能性があることである。したがって,今後は抽出されたモデルの異なる集団における交差妥当性の検証が必要である。
【理学療法研究としての意義】本研究で提示した予測モデルを洗練していくことにより,低活動高齢者に対して,常時活動域が低い,あるいは低下する者を早期に把握し,医学管理や心身機能の面からより適切な理学療法介入を模索するうえでの一助となり,増加する要介護認定者に歯止めをかけることが期待できると考える。