第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 神経理学療法 口述

脳損傷理学療法7

Sat. May 31, 2014 11:20 AM - 12:10 PM 第13会場 (5F 503)

座長:斎藤均(横浜市立脳血管医療センターリハビリテーション部)

神経 口述

[0831] 脳卒中片麻痺者のバランス能力は病棟内における実用歩行を決定づける強力な因子である

菊池真名1, 市野沢由太2, 清水忍1, 武村奈美3, 平勝也3, 濱川みちる3, 知花勝也3, 山城貴大3, 仲西孝之3, 松永篤彦1,2 (1.北里大学医療衛生学部, 2.北里大学大学院医療系研究科, 3.沖縄リハビリテーションセンター病院)

Keywords:脳卒中, バランス能力, 実用歩行

【はじめに,目的】
脳卒中片麻痺者(片麻痺者)の理学療法の目的の一つとして実用歩行の再獲得が挙げられる。このため,実用歩行の可否を規定する因子を明確にすることは重要であり,多くの先行研究が行われている。我々は階段を除く病棟内を歩行動作のみで移動することを病棟内実用歩行(実用歩行)と定義し,発症後3ヶ月以降の片麻痺者を対象に,機能障害および歩行速度が実用歩行の規定因子となるか否かについて,発症後期間に着目して検討した(市野沢ら,2013)。その結果,歩行速度は3ヶ月以降どの時期においても実用歩行の規定因子となったが,機能障害が規定因子となったのは3ヶ月目のみであった。一方,片麻痺者の実用歩行はバランス能力との関係も多く報告されている。そこで本研究の目的は,バランス能力が発症後どの時期においても実用歩行の規定因子となりうるかを検討するとともに,実用歩行の適否を客観的に判定するバランス能力の値(カットオフ値)についても算出することとした。
【方法】
対象は平成23年1月から平成25年8月の間にリハビリテーション(リハ)目的で回復期病院に入院した片麻痺患者とし,採用基準は脳卒中発症後3~6ヶ月の者,リハ室内で10m間を介助なしで歩行可能な者とした。測定項目は1)患者背景因子:年齢,性別,脳血管障害の病型,麻痺側,2)麻痺側下肢機能:Stroke Impairment Assessment Set(SIAS)の下肢運動機能項目の3項目の合計点,3)バランス能力:Functional Balance Scale(FBS),4)病棟内における実用歩行の可否とした。なお,本研究では実用歩行を「階段を除く病棟内を歩行動作のみで移動すること」と定義し,各対象者の実用歩行の可否を調査した。測定項目の2),3)および4)は脳卒中発症後3ヶ月,4ヶ月,5ヶ月および6ヶ月の各時期においてそれぞれ調査を行った。解析は,発症後3~6ヶ月のそれぞれの時期に採用基準に当てはまる対象者をサンプリングし,各期で実用歩行の可否を従属変数,患者背景因子,SIAS,FBSを独立変数としたロジスティック回帰分析を用いて病棟内における実用歩行の規定因子を検討した。さらに,オーバーフィッティングを考慮し,1)の4項目を1つの項目(Propensity Score)に調整したうえで同様の解析を行った。また,規定因子として採択された項目に関して発症後の期間別にReceiver-Operating-Characteristic曲線(ROC曲線)を用いてカットオフ値,ならびに検査の予測能を示すROC曲線下面積(Area Under the Curve:AUC)を算出した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究における測定および評価データの使用に関しては病院の研究倫理審査委員会の承諾を得て行った。
【結果】
採用基準に合致した対象者は,発症3ヶ月75例(66.1±13.4才),発症4ヶ月65例(67.3±12.8才),発症5ヶ月48例(64.0±14.5才),および発症6ヶ月39例(65.1±11.3才)であった。そのうち病棟内で実用的な歩行を行っている者は発症3ヶ月では35例,発症4ヶ月では34例,発症5ヶ月で30例,発症6ヶ月では25例であった。それぞれにおけるロジスティック回帰分析の結果,病棟内における実用歩行の規定因子として,SIASは発症から3ヶ月でのみ抽出された。また,FBSは3から6ヶ月全てにおいて抽出された(P<0.05)。病棟内における実用歩行のFBSのカットオフ値は,発症後3ヶ月では42.5点(AUC:0.92,P<.001),4ヶ月では41.5点(AUC:0.91,P<.001),5ヶ月では40.5点(AUC:0.94,P<.001),6ヶ月では41.0点(AUC:0.94,P<.001)であった。
【考察】
本研究の結果から,片麻痺者の病棟内実用歩行を規定する因子として,FBSは発症後3ヶ月から6ヶ月のいずれの時期においても抽出されたが,下肢機能障害の指標であるSIASは発症後3ヶ月のみで抽出された。このことは,リハ室内で歩行可能な片麻痺者を対象にした場合,運動麻痺の改善が認められる発症後比較的早い時期でのみ下肢機能障害が病棟内実用歩行の可否に影響を与えているのに対し,FBSは発症後のどの時期においても影響を与えていることを示している。さらに,今回,発症からの期間ごとにカットオフ値を調べたところ,いずれの時期においても41~43点であった。以上のことから,片麻痺者の病棟内実用歩行は,発症後のどの時期においてもバランス能力が規定因子となっており,そのカットオフ値もほぼ一定であることが明らかとなった。
【理学療法学研究としての意義】
病棟内における実用歩行の可否は,退院後の屋内外における実用的移動手段としての歩行の適否に関与し,結果として転帰先や日常の身体活動量を規定する。特に,身体活動量は心理社会的側面だけでなく脳卒中の再発等にも関与することから,実用歩行を決定づける因子を詳細に把握することは片麻痺者の疾患管理にもつながると思われる。