第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 神経理学療法 口述

脳損傷理学療法7

Sat. May 31, 2014 11:20 AM - 12:10 PM 第13会場 (5F 503)

座長:斎藤均(横浜市立脳血管医療センターリハビリテーション部)

神経 口述

[0832] 脳卒中患者に対する二重課題トレーニングの介入適用の検証

井上優1,2, 平上尚吾3, 佐藤ゆかり4, 原田和宏1,5, 香川幸次郎6 (1.吉備国際大学保健福祉研究所, 2.社会医療法人全仁会倉敷平成病院, 3.兵庫医療大学リハビリテーション学部, 4.岡山県立大学保健福祉学部, 5.吉備国際大学保健医療福祉学部, 6.関西福祉大学大学院社会福祉学研究科)

Keywords:脳卒中, 二重課題, 介入適用

【はじめに,目的】
近年,転倒は介護状態に至らしめる主要な原因であると共に,脳卒中患者の屋外活動を妨げる大きな要因の一つであると考えられている。我々は脳卒中患者の転倒リスクを軽減するため,通常の運動療法に二重課題トレーニングを併用した運動療法の効果を,無作為化比較試験により検討した。その結果,二重課題トレーニングを併用した群と,通常の運動療法のみを実施した群では,Dynamic gait index(DGI)得点と転倒リスクの変化に有意な差があることを示し,転倒リスクに対する二重課題トレーニングを併用した運動療法の有効性を報告した。
無作為化比較試験により効果を確認した次のステージは,その介入方法の適用を探ることにある。特に脳卒中患者の示す臨床症状は多彩であり,症状別にみても効果が得られるかどうか検証を繰り返し,介入の適用を担保していかねばならない。そこで本研究では,我々の行った無作為化比較試験参加者を対象にサブグループ解析を実施し,経過期間やその他の身体要因によるDGI得点や転倒リスクへの影響を検討し,介入適用を検証することを目的とした。
【方法】
対象は,一医療施設,または二通所施設を利用している脳卒中患者の内,10m以上の自力歩行が可能な者を対象とした。その内,85歳以上の者,診療録上に高次脳機能障害と脳卒中以外の神経疾患の記載がある者,痛みを伴う骨関節疾患を有する者を除く14名(年齢67.1±6.9歳,男性7名,女性7名)とした。対象は通常の運動療法と二重課題トレーニングを併用する併用群,通常の運動療法のみを行う対照群の2群に無作為に割り付けた。二重課題トレーニングは1回20分間,合計6時間と設定し,座位,立位,歩行姿勢を安定させるよう教示した上で,各運動課題遂行中にタブレット端末に提示された認知課題への回答を要求した。前頭葉機能の評価にはFrontal assessment battery(FAB),注意機能はTrail making test part A,B(TMT-A,B)を用い,身体機能と選択性注意機能の影響を除くため,TMT-BとTMT-Aの所要時間の差(diff TMT)を算出した。二重課題処理能力を基盤とする歩行能力はDGI,転倒リスクはBerg balance scaleとStops walking when talking test(SWWT)の結果を用いて評価し,BBS45点未満でSWWT陽性の者は最も転倒リスクが高い群,BBS45点以上でSWWT陰性の者を最も転倒リスクの低い群とし計4群に分類した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に沿い,当該医療施設の倫理審査委員会と施設長の承認を得た後に,対象者に研究の目的と内容を説明し,書面による同意を得た上で実施した。
【結果】
FAB得点,diff TMTとDGI得点変化量の関連性を相関分析により検討したものの,有意な相関や一定の傾向は認めなかった。次に発症後経過期間に着目し,発症後6ヶ月未満の者と6カ月以上の者に分類しDGI得点変化量を中央値から比較した結果,併用群:6ヶ月未満(4.5点),6ヶ月以上(4.0点),対照群:6ヶ月未満(2.0点),6ヶ月以上(0.5点)であった。また転倒リスクが軽減した者は併用群の6ヶ月未満では4名中2名,6ヶ月以上では3名中2名であり,対照群では転倒リスクの変化は認めなかった。
【考察】
少数例であったため,FAB得点,diff TMTとDGI得点変化量の関係に一定の傾向を認めなかった。しかしながら,前頭葉機能や分配性注意機能といった脳機能は二重課題処理能力に関連することが報告されており,脳機能の保たれた症例では,二重課題処理能力を基盤とする歩行能力の改善が得られやすいことが期待される。一方,発症から6ヶ月未満の回復状態にある者と比較すると変化量は小さいものの,6ヶ月以上経過した維持期症例でも,併用群では対照群に比べ歩行能力の改善と共に転倒リスクの軽減が得られる可能性が示唆された。以上のことから,経過期間には関係なく,同時に課題を遂行するという刺激を継続的に与えることで,その後の歩行能力や転倒リスクに影響を与えることが推察された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果は,発症後6ヶ月以上経過した者でも二重課題トレーニングを併用した運動療法の適用となる可能性を示唆し,維持期脳卒中患者に対する運動療法を検討する上で有用な資料となりうるものであり,本研究の意義と考える。また少数例の結果から導かれたものであるため,今後も継続して取り組むことで症例数を増やし,二重課題トレーニングの介入適用を脳機能の観点から明らかにする必要がある。