[0833] 脳卒中片麻痺患者における転倒恐怖感の有訴頻度および麻痺側下肢機能との関連
Keywords:脳卒中片麻痺患者, 転倒恐怖感, 要因
【はじめに,目的】
日常生活における身体活動量の低下および廃用症候群の危険因子として,転倒恐怖感の存在が報告されて久しい。脳卒中片麻痺患者(以下,片麻痺患者)においては,日常的な活動量が以後の日常生活動作(以下,ADL)能力の低下に関与するとされており,転倒恐怖感の存在も軽視できない問題である。片麻痺患者の転倒恐怖感には,年齢や抑うつ,バランス能力,歩行能力,ADL能力等の要因が関与すると報告されている。これらの中で,身体的な側面よりアプローチ可能な要因のひとつである歩行能力を構成する機能と,転倒恐怖感との関連が明らかとなれば,転倒恐怖感に対する理学療法介入の際のより具体的な方策を探る資料となり得る。今回,片麻痺患者における転倒恐怖感の有訴頻度とその程度に関連する要因を検討することを本研究の目的とした。
【方法】
立位保持が物的介助なく可能で,平地歩行が自力で行える片麻痺患者38名(年齢67.1±10.0歳,男性26名,女性12名)を対象とした。転倒恐怖感の評価として,日本語版Modifided Falls Efficacy Scale(以下,MFES)を使用し,聞き取りにて調査を行った。転倒恐怖感の有訴頻度の検討においては,先行研究を参考に,MFESの総得点が140点満点を転倒恐怖感なし,139点以下を転倒恐怖感有とした。その他,MFESは歩行能力との関連が強いという先行研究を参考に,片麻痺患者の歩行能力に関連すると複数報告される要因を中心として,下肢Brunnstrom recovery stage(以下,下肢BRS),深部感覚障害の有無,非麻痺側膝伸展筋力体重比,非麻痺側・麻痺側下肢荷重率を調査した。非麻痺側膝伸展筋力体重比は徒手筋力計ミュータスF-1を,下肢荷重率はアニマ社製下肢荷重計G620を用いて測定した。統計学的処理として,MFES得点と,下肢BRS,深部感覚障害の有無,非麻痺側膝伸展筋力体重比,非麻痺側・麻痺側下肢荷重率との相関をPearsonの相関係数を用いて検討した。次に,MFES得点を従属変数とし重回帰分析を実施した。その際,ブロック1では年齢と性別を交絡因子として強制投入し,ブロック2ではMFES得点と有意な相関関係を認め,さらに多重共線性の問題のない項目を説明変数として,ステップワイズ法を用いて投入し,MFES得点との関連の程度を検討した。解析にはSPSS(ver.21)を使用し,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は調査対象病院の倫理委員会の承認を得た後に実施し,対象者に対しては文章と口頭にて説明を行い,書面にて同意を得た。
【結果】
対象者38名中,33名(87%)に転倒恐怖感が認められ,MFESの平均得点は123.3±20.0点(140点満点)であった。MFES得点と有意な相関を認めた要因は,深部感覚障害の有無(r=0.41,p<0.05)と麻痺側下肢荷重率(r=0.61,p<0.001)であった。下肢BRS(r=0.30,p=0.072),非麻痺側膝伸展筋力(r=0.29,p=0.074),非麻痺側下肢荷重率(r=0.15,p=0.366)に関しては有意な相関を認めなかった。MFES得点を従属変数,年齢と性別を交絡因子,深部感覚障害の有無と麻痺側下肢荷重率を説明変数とした重回帰分析においては,深部感覚障害の有無(B=13.19,95%CI:2.60-23.78,p<0.05,β=0.33)と麻痺側下肢荷重率(B=0.84,95%CI:0.46-1.22,p<0.001,β=0.57)の2変数が抽出され,決定係数R2は0.548であった。
【考察】
今回調査した片麻痺患者における転倒恐怖感の有訴頻度(87%)は,先行研究により報告されている地域高齢者のそれ(20.8%~85%)と比較し,同等またはそれ以上であった。重回帰分析の結果より,MFES得点と有意に関連している要因として,深部感覚障害の有無と麻痺側下肢荷重率が抽出された。モデルの適合性を評価する決定係数R2は0.548であり,投入した変数の数を考慮しても高い説明力を持つ要因であったと考える。片麻痺患者において,麻痺側下肢の深部感覚障害を有する者,麻痺側下肢の支持能力が低い者ほど転倒恐怖感が強いといった今回の結果は,臨床的観点からも妥当なものであり,転倒恐怖感に対して身体的な側面よりアプローチする際の着眼点のひとつとなり得ると考える。
【理学療法学研究としての意義】
歩行可能な片麻痺患者における転倒恐怖感の有訴頻度は高値であった。また,その転倒恐怖感の程度には麻痺側下肢の深部感覚障害や支持能力といった,麻痺側下肢機能が関与していることが示唆された。
日常生活における身体活動量の低下および廃用症候群の危険因子として,転倒恐怖感の存在が報告されて久しい。脳卒中片麻痺患者(以下,片麻痺患者)においては,日常的な活動量が以後の日常生活動作(以下,ADL)能力の低下に関与するとされており,転倒恐怖感の存在も軽視できない問題である。片麻痺患者の転倒恐怖感には,年齢や抑うつ,バランス能力,歩行能力,ADL能力等の要因が関与すると報告されている。これらの中で,身体的な側面よりアプローチ可能な要因のひとつである歩行能力を構成する機能と,転倒恐怖感との関連が明らかとなれば,転倒恐怖感に対する理学療法介入の際のより具体的な方策を探る資料となり得る。今回,片麻痺患者における転倒恐怖感の有訴頻度とその程度に関連する要因を検討することを本研究の目的とした。
【方法】
立位保持が物的介助なく可能で,平地歩行が自力で行える片麻痺患者38名(年齢67.1±10.0歳,男性26名,女性12名)を対象とした。転倒恐怖感の評価として,日本語版Modifided Falls Efficacy Scale(以下,MFES)を使用し,聞き取りにて調査を行った。転倒恐怖感の有訴頻度の検討においては,先行研究を参考に,MFESの総得点が140点満点を転倒恐怖感なし,139点以下を転倒恐怖感有とした。その他,MFESは歩行能力との関連が強いという先行研究を参考に,片麻痺患者の歩行能力に関連すると複数報告される要因を中心として,下肢Brunnstrom recovery stage(以下,下肢BRS),深部感覚障害の有無,非麻痺側膝伸展筋力体重比,非麻痺側・麻痺側下肢荷重率を調査した。非麻痺側膝伸展筋力体重比は徒手筋力計ミュータスF-1を,下肢荷重率はアニマ社製下肢荷重計G620を用いて測定した。統計学的処理として,MFES得点と,下肢BRS,深部感覚障害の有無,非麻痺側膝伸展筋力体重比,非麻痺側・麻痺側下肢荷重率との相関をPearsonの相関係数を用いて検討した。次に,MFES得点を従属変数とし重回帰分析を実施した。その際,ブロック1では年齢と性別を交絡因子として強制投入し,ブロック2ではMFES得点と有意な相関関係を認め,さらに多重共線性の問題のない項目を説明変数として,ステップワイズ法を用いて投入し,MFES得点との関連の程度を検討した。解析にはSPSS(ver.21)を使用し,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は調査対象病院の倫理委員会の承認を得た後に実施し,対象者に対しては文章と口頭にて説明を行い,書面にて同意を得た。
【結果】
対象者38名中,33名(87%)に転倒恐怖感が認められ,MFESの平均得点は123.3±20.0点(140点満点)であった。MFES得点と有意な相関を認めた要因は,深部感覚障害の有無(r=0.41,p<0.05)と麻痺側下肢荷重率(r=0.61,p<0.001)であった。下肢BRS(r=0.30,p=0.072),非麻痺側膝伸展筋力(r=0.29,p=0.074),非麻痺側下肢荷重率(r=0.15,p=0.366)に関しては有意な相関を認めなかった。MFES得点を従属変数,年齢と性別を交絡因子,深部感覚障害の有無と麻痺側下肢荷重率を説明変数とした重回帰分析においては,深部感覚障害の有無(B=13.19,95%CI:2.60-23.78,p<0.05,β=0.33)と麻痺側下肢荷重率(B=0.84,95%CI:0.46-1.22,p<0.001,β=0.57)の2変数が抽出され,決定係数R2は0.548であった。
【考察】
今回調査した片麻痺患者における転倒恐怖感の有訴頻度(87%)は,先行研究により報告されている地域高齢者のそれ(20.8%~85%)と比較し,同等またはそれ以上であった。重回帰分析の結果より,MFES得点と有意に関連している要因として,深部感覚障害の有無と麻痺側下肢荷重率が抽出された。モデルの適合性を評価する決定係数R2は0.548であり,投入した変数の数を考慮しても高い説明力を持つ要因であったと考える。片麻痺患者において,麻痺側下肢の深部感覚障害を有する者,麻痺側下肢の支持能力が低い者ほど転倒恐怖感が強いといった今回の結果は,臨床的観点からも妥当なものであり,転倒恐怖感に対して身体的な側面よりアプローチする際の着眼点のひとつとなり得ると考える。
【理学療法学研究としての意義】
歩行可能な片麻痺患者における転倒恐怖感の有訴頻度は高値であった。また,その転倒恐怖感の程度には麻痺側下肢の深部感覚障害や支持能力といった,麻痺側下肢機能が関与していることが示唆された。