第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 神経理学療法 口述

脳損傷理学療法7

Sat. May 31, 2014 11:20 AM - 12:10 PM 第13会場 (5F 503)

座長:斎藤均(横浜市立脳血管医療センターリハビリテーション部)

神経 口述

[0834] 重症脳卒中患者におけるBerg Balance Scale改善項目の後方視的検討

宮原拓也, 武田尊徳 (医療法人社団愛友会上尾中央総合病院リハビリテーション技術科)

Keywords:脳卒中, Berg Balance Scale, 回復期

【はじめに,目的】回復期リハビリテーション病棟(以下:回復期病棟)では,重傷者の改善率などのアウトカム評価があり,回復期病棟での重症者の改善が求められている。このような状況の中,当院ではセラピスト間の差を減じることを目的にフローチャートとステップアップ方式を用いた標準プログラムを作成している。この中で,辻ら(1996)が報告したFunctional Independence Measure(以下:FIM)の運動項目合計点(以下:FIM-M)を用いた分類を用いている。当院の在宅復帰率をこの分類を用いて示すと,入棟時FIM-M50点以上(半介助群以上)では90%,50点未満(全介助群)では54%となっている。したがって,当院でも重症者の在宅復帰が課題であり,過去にもFIM-M50点未満者の検討を行ってきた。第48回学術大会では,独居となる時間がある対象ではFIM-Mが50点以上に改善することが在宅復帰に必要と報告した。さらに,我々(2013)は50点以上に改善した対象のFIM改善項目を報告し,着目すべきFIM項目を示した。しかし,理学療法介入に関する内容は示せていない。そこで,本研究では入棟時FIM-M50点未満者に対する理学療法介入の一助を得ることを目的に50点以上に改善した群においてどのようなバランス機能が改善したかをBerg Balance Scale(以下BBS)を用いて検討した。
【方法】
対象は2008年11月から2013年6月までのA病院回復期病棟脳卒中患者のうちFIMとBBSが確認できた289名の中で以下の1から4に該当しなかった69名とした(脳出血33名,脳梗塞34名,くも膜下出血2名)。1.入棟時FIM-Mが50点以上,2.発症から回復期病棟入棟までが61日以上,3.回復期病棟入棟期間が短く2ヶ月目評価がない,4.その他データ欠損がある。情報収集は,後方視的に診療録等から疾患名,基本情報(年齢,発症から回復期病棟入棟までの期間,回復期病棟入棟期間,在院日数),FIM,BBSを収集した。群分けは退院直近のFIM-Mが50点以上に改善したものを改善群,50点未満のままであったものを非改善群とした。解析は,基本情報とBBS細項目(入棟時と退院直近)を用いて2群比較を実施した。その際に,正規性を示したパラメトリックデータに対しては対応のないT検定,正規性を示さなかったパラメトリックデータとBBSに対してはU検定を実施した。その後,改善群に関与したBBS項目を検討するために多重ロジスティック回帰分析を実施した。従属変数を改善・非改善とし,独立変数を2群比較にてP<0.05を示した退院直近BBS項目とした。なお,独立変数間の相関係数は0.89以下であったため独立変数の削除は行わなかった。
【倫理的配慮,説明と同意】
後方視的観察研究となるため個人情報の取り扱いに十分に留意した。また,当院倫理委員会の承認を得て実施した。
【結果】
2群比較の結果,基本情報で有意差を示した項目は年齢と発症から回復期病棟入棟までの期間であった。入棟時のBBSでは有意差を示した項目はなかった。退院直近のBBS(改善群中央値/非改善群中央値)では着座(4点/4点),閉眼立位(4点/3点),振り向き(4点/3点),一回転(2点/1点)で有意差を示した。多重ロジスティック回帰分析の結果,モデルχ2検定はP<0.05であり,判別的中率は63.2%であった。モデルに採用された項目は着座(P<0.05)であり,オッズ比(信頼区間)は0.646(0.434-0.960)であった。
【考察】
入棟時BBSの2群比較の結果から入棟時のバランス能力に差はなかった。一方,退院直近のBBSの結果では着座,閉眼立位,振り向き,一回転で有意差を示した。改善群の中央値を見ると着座では4点(安全に座れる),閉眼立位では4点(安全に10秒可能),振り向きが4点(両側振り向き可能),段差踏みかえが2点(監視で可能)であった。着座を除いた3つを島田ら(2006)の報告したバランス課題の因子に置き換えると,改善群では静的姿勢保持・支持基底面固定での重心移動がほぼ自立レベル,支持基底面移動での課題が監視レベルに改善した。多重ロジスティック回帰分析の結果,着座がモデルに採用された。これは,着座が他の3つのバランス課題の因子を含む複合的な課題であることが影響したと考える。
【理学療法学研究としての意義】
FIM-M50点未満者では着座といった複合的な課題に着目し,静的姿勢保持や支持基底面固定での重心移動,支持基底面移動での重心移動に介入する必要が示唆された。