第49回日本理学療法学術大会

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神経・筋機能制御2

2014年5月31日(土) 11:20 〜 12:10 ポスター会場 (物理療法)

座長:高木峰子(神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部リハビリテーション学科理学療法学専攻)

物理療法 ポスター

[0863] 神経筋電気刺激(NMES)とストレッチングの同時施行の有効性に関する検討

成田和生1, 吉田英樹2, 一戸のどか1, 原幹周1, 小山内太郎1, 片石悠介1, 谷脇雄次1, 花田真澄1, 前田貴哉2,3, 照井駿明2,4 (1.弘前大学医学部保健学科理学療法学専攻, 2.弘前大学大学院保健学研究科, 3.医療法人整友会弘前記念病院, 4.地方独立行政法人秋田県立病院機構秋田県立脳血管研究センター)

キーワード:神経筋電気刺激, ストレッチング, 同時施行

【はじめに,目的】
運動機能の改善を目的とした電気刺激療法である神経筋電気刺激(NMES)は,ストレッチングの前処置として,もしくはストレッチングと同時に施行することによりストレッチング効果をより高めるとされている(川村,2010.)。その根拠は,ストレッチングの標的筋の拮抗筋への神経筋刺激により生じるIa抑制に基づいた標的筋の筋緊張緩和である。先行研究では,ストレッチングの前処置としてのNMESの効果は既に報告されている。一方,NMESとストレッチングの同時施行の効果を検証した研究は皆無である。Ia抑制などの脊髄内抑制性神経回路は,刺激が入力されている時に最も賦活される可能性が高いはずであり,NMESをストレッチングの前処置として施行するよりもストレッチングと同時施行した方がより効果的であると予想される。以上から本研究の目的は,NMESとストレッチングの同時施行の有効性について検討することとした。
【方法】
健常者15例(女性5例,男性10例,年齢21.1±0.9歳)を対象とし,以下の2つの実験を実施順序をランダムとして1日以上の間隔を空けて実施した。なお,実験中の肢位は安静腹臥位とし,ストレッチングの標的筋は左右の下腿三頭筋(TS)とした。NMESには低周波治療器(ES-420,伊藤超短波)を用いて,左右の前脛骨筋(TA)の運動点に15分間の電気刺激を加えた。刺激条件としては,波形は矩形波,周波数30Hz,パルス幅300μsec,オン・オフ時間はともに10秒,パルス振幅は刺激に伴う痛みを感じない範囲内でTAが十分収縮する程度とした(平均25.8±6.7mA)。〈実験1〉対象者に対して,事前評価として後述する足関節背屈角度(背屈角)とTSの筋硬度(筋硬度)の測定後,15分間のNMESを実施した。その際,NMES開始5分後と15分後にNMESを施行したまま背屈角と筋硬度を測定した。〈実験2〉NMESを実施しないこと以外は実験1と同一の手順で実施した。背屈角(単位:度)については,足関節最大背屈を他動運動で実施し,その際に矢状面上で撮影されたデジタル画像から画像処理ソフト(ImageJ 1.43u,NIH)を用いて測定した。その上で,各実験での事前評価時の測定値を基準値として各評価時点での基準値からの変化量を求め,それらをTukey-Kramer法にて比較した。なお,他動運動時の外力については,筋力計(μTas F-100,アニマ)を用いて足関節最大他動背屈に必要な値を予め求めておき,各評価時点で同一の外力を用いた。筋硬度(単位:Nm)については,筋硬度計(NEUTONE TDM-NA1,TRY-ALL)を用いて,下腿近位1/3の筋腹中央部を測定部位とした。なお,NMES実施中の筋硬度は,本研究ではNMESとストレッチングの同時施行の検討を考慮しオン時間中に測定した。その上で,各実験での事前評価時の測定値を基準値として各評価時点での基準値からの変化量を求め,それらをTukey-Kramer法にて比較した。全ての統計学的検定の有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者に対して本研究の目的や本研究への同意および同意の撤回の自由,プライバシー保護の徹底等について予め十分に説明し,書面にて同意を得た。
【結果】
実験1では,背屈角の変化量(平均値)については,5分後では5.9,15分後では5.0であり,いずれも基準と比較して有意な増加を認めたが,5分後と15分後との間では明らかな違いを認めなかった。一方,筋硬度の変化量(平均値)については,5分後では0.8,15分後では1.2であり,基準と比較して5分後および15分後での有意な増加を認めたが,5分後と15分後との間では明らかな違いを認めなかった。これに対して,実験2では,背屈角,筋硬度ともに各評価時点間での明らかな違いを認めなかった。
【考察】
背屈角の結果は,NMESとストレッチングの同時施行によりストレッチング効果が向上する可能性に加えて,NMES施行時間を短縮出来る可能性も示唆していると考える。これは,Ia抑制による筋緊張緩和効果がNMES施行中に最も賦活されているためではないかと推察する。一方,筋硬度の結果については,実験1では実験2と異なり筋硬度がNMESによるTAの収縮時,すなわちTSのストレッチング時に測定されており,NMESに伴う筋緊張緩和とは無関係な筋伸張に伴う筋硬度の増加を反映していた可能性が高い。
【理学療法学研究としての意義】
本研究では,NMESとストレッチングの同時施行によるストレッチング効果の向上に加えて,NMES施行時間の短縮という画期的な可能性も示し得た。本結果は,ストレッチングの新たな治療戦略の構築に寄与するものであり,極めて意義深いと考える。