[0893] 椅子からの立ち上がり動作における関節運動の協調性は加齢の影響を受けるか
キーワード:加齢, 立ち上がり動作, Uncontrolled Manifold解析
【はじめに,目的】生体は冗長な自由度を駆使してタスクを達成する一方で,タスク達成に重要でない点にはさほど注意を払っていないとされている。ある特定のタスクを実現するための各関節角度や各筋活動量の組み合わせは無数にあり,さらにタスクは全身運動であるので多くの自由度を制御しなければならない。よってタスクを達成するためにはシナジーの利用,すなわち各部位の自由度の冗長性を基にした協調性が重要であり,これは椅子からの立ち上がり動作(sit-to-stand:以下,STS)においても自由度の冗長性である多数の組み合わせを必要とする。先行研究において,上肢運動の正確性や歩行のタスクにおける協調性は加齢変化によって減少することが示されているが,STS時の協調性の加齢による影響を調べた報告はほとんどない。
そこで本研究では,Uncontrolled Manifold(UCM)解析を用いてSTSのタスク達成に必要な関節運動の協調性の定量的評価法により,加齢によりSTS時の関節運動の協調性がどのように変化するかを検討することを目的として行った結果,幾つかの知見を得たので報告する。
【方法】
被験者は健常高齢女性12人(平均年齢70.4±2.8歳)の高齢群および,健常若年者7人(男性4人,女性3人:平均年齢24.1±2.8歳)の若年群であった。課題動作は下腿長の高さの座面高をもつ椅子からのSTSとした。動作スピードは被験者の感じる快適スピードとし,動作の試行回数は5回とした。STS中の運動学データは赤外線反射マーカーを身体各標点に貼付し,赤外線カメラ6台からなる三次元動作解析システムVicon MX(Vicon社製)を用いて取得した。同時に床反力計(テック技販社製)2基の上に椅子を載せ,殿部離床の瞬間を定義した。得られたデータを基にBodyBuilder(Vicon社製)を使用して,身体重心,セグメント角度を算出し,数値解析ソフトウェアMatLab R2013b(MathWorks社)を用いて,要素変数であるセグメント角度の変化とタスク変数である身体重心の変化とをヤコビ行列にて関係式を算出した。そしてUCMの線形近似を行い,タスク達成に影響を及ぼさない変動(以下,UCM-LA)とタスク達成に影響を及ぼす変動(以下,ORT),それらの差分を全体の分散で割った相対値である関節運動の協調性(以下,⊿V)をそれぞれ進行方向yと鉛直方向zに分けて算出した。動作時間は動作開始時0%,殿部離床時50%,動作終了時100%となるように正規化を行い,各10%の平均値を採用した。統計学的解析には統計ソフトウェアSPSS Ver.17.0J(エス・ピー・エス・エス社製)を用い,高齢群と若年群との比較には対応のないt検定を用いた。なお,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に沿った研究であり,研究の実施に先立ち,研究の行われた機関の倫理委員会の承認を得た。また,被験者に対して研究の意義,目的について十分に説明し,口頭および文書による同意を得た後に実施した。
【結果】
UCM-LAyおよびUCM-LAzは両群間に有意な差が認められなかった。しかし高齢群において,動作時間の20~30%,30~40%のORTyおよび60~70%のORTzは,若年群と比較して有意に高値を示した。また,高齢群において動作時間の0~10%,10~20%,20~30%,30~40%の⊿Vyおよび70~80%,80~90%の⊿Vzは,若年群と比較して有意に低値を示した。
【考察】
UCM解析の結果である⊿Vは,正の値であれば関節運動の協調性があることを,負の値であれば協調性がないことを示す。このことから,高齢群は若年群よりも殿部離床前の身体重心前方移動期における身体重心の進行成分に貢献する関節運動の協調性,殿部離床後の身体重心上方移動期における身体重心の鉛直成分に貢献する関節運動の協調性が低下していたと考えられる。高齢者は相反収縮パターンが少なく同時収縮パターンが多くなるとされており,高齢者のSTSにおいても自由度の冗長性である多数の組み合わせを減らした動作戦略をとっていることが示唆された。また,高齢群は若年群よりもORTは有意な増大を示したが,UCMは有意差が認められなかった。つまり,高齢者は要素変数であるセグメント角度の試行間変動の増大が,タスク変数である身体重心の変動に影響を及ぼしていると考えられ,タスクに対しての運動の調整が上手く行えていないことが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の意義は,UCM解析を用いて加齢によりSTS時の関節運動の協調性低下を定量的に示したことである。また,これまでの動作解析では試行間の変動を加算平均にてノイズとして除去していたため,試行間の変動の意味を捉えることの必要性を示したことである。
そこで本研究では,Uncontrolled Manifold(UCM)解析を用いてSTSのタスク達成に必要な関節運動の協調性の定量的評価法により,加齢によりSTS時の関節運動の協調性がどのように変化するかを検討することを目的として行った結果,幾つかの知見を得たので報告する。
【方法】
被験者は健常高齢女性12人(平均年齢70.4±2.8歳)の高齢群および,健常若年者7人(男性4人,女性3人:平均年齢24.1±2.8歳)の若年群であった。課題動作は下腿長の高さの座面高をもつ椅子からのSTSとした。動作スピードは被験者の感じる快適スピードとし,動作の試行回数は5回とした。STS中の運動学データは赤外線反射マーカーを身体各標点に貼付し,赤外線カメラ6台からなる三次元動作解析システムVicon MX(Vicon社製)を用いて取得した。同時に床反力計(テック技販社製)2基の上に椅子を載せ,殿部離床の瞬間を定義した。得られたデータを基にBodyBuilder(Vicon社製)を使用して,身体重心,セグメント角度を算出し,数値解析ソフトウェアMatLab R2013b(MathWorks社)を用いて,要素変数であるセグメント角度の変化とタスク変数である身体重心の変化とをヤコビ行列にて関係式を算出した。そしてUCMの線形近似を行い,タスク達成に影響を及ぼさない変動(以下,UCM-LA)とタスク達成に影響を及ぼす変動(以下,ORT),それらの差分を全体の分散で割った相対値である関節運動の協調性(以下,⊿V)をそれぞれ進行方向yと鉛直方向zに分けて算出した。動作時間は動作開始時0%,殿部離床時50%,動作終了時100%となるように正規化を行い,各10%の平均値を採用した。統計学的解析には統計ソフトウェアSPSS Ver.17.0J(エス・ピー・エス・エス社製)を用い,高齢群と若年群との比較には対応のないt検定を用いた。なお,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に沿った研究であり,研究の実施に先立ち,研究の行われた機関の倫理委員会の承認を得た。また,被験者に対して研究の意義,目的について十分に説明し,口頭および文書による同意を得た後に実施した。
【結果】
UCM-LAyおよびUCM-LAzは両群間に有意な差が認められなかった。しかし高齢群において,動作時間の20~30%,30~40%のORTyおよび60~70%のORTzは,若年群と比較して有意に高値を示した。また,高齢群において動作時間の0~10%,10~20%,20~30%,30~40%の⊿Vyおよび70~80%,80~90%の⊿Vzは,若年群と比較して有意に低値を示した。
【考察】
UCM解析の結果である⊿Vは,正の値であれば関節運動の協調性があることを,負の値であれば協調性がないことを示す。このことから,高齢群は若年群よりも殿部離床前の身体重心前方移動期における身体重心の進行成分に貢献する関節運動の協調性,殿部離床後の身体重心上方移動期における身体重心の鉛直成分に貢献する関節運動の協調性が低下していたと考えられる。高齢者は相反収縮パターンが少なく同時収縮パターンが多くなるとされており,高齢者のSTSにおいても自由度の冗長性である多数の組み合わせを減らした動作戦略をとっていることが示唆された。また,高齢群は若年群よりもORTは有意な増大を示したが,UCMは有意差が認められなかった。つまり,高齢者は要素変数であるセグメント角度の試行間変動の増大が,タスク変数である身体重心の変動に影響を及ぼしていると考えられ,タスクに対しての運動の調整が上手く行えていないことが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の意義は,UCM解析を用いて加齢によりSTS時の関節運動の協調性低下を定量的に示したことである。また,これまでの動作解析では試行間の変動を加算平均にてノイズとして除去していたため,試行間の変動の意味を捉えることの必要性を示したことである。