[0894] 起立動作最終域における膝関節伸展運動と回旋運動との関連性とその要因についての検討
Keywords:起立動作, 膝関節, 角速度計
【はじめに,目的】
非荷重状態での膝関節伸展運動に伴う回旋運動は,伸展最終域において外旋を伴うという終末強制回旋運動として一定の見解が得られているが,起立動作最終域における膝関節伸展運動に伴う回旋運動に関する報告は少なく,特にその機序には不明な点が多い。林らは膝関節に関する整形外科疾患は,膝関節回旋機能の破綻によるものが大きいと述べており,阿南らは変形性膝関節症患者の起立動作では,矢状面上における適切な膝関節の関節運動が破綻していると述べている。したがって,起立動作における膝関節の伸展運動と回旋運動の関連性を明らかにすることは重要であると考えられる。そこで本研究は,角速度計を用いて起立動作最終域における膝関節伸展運動と回旋運動との関連性とその要因を検討することを目的とした。
【方法】
対象は健常成人21名(26.3±4.0歳,性別:男16名,女5名)とした。測定課題は座位からの起立動作とした。角速度測定には無線モーションレコーダー(MicroStone社製)を使用し,大腿中央部及び腓骨頭直上に装着させた。座位の条件として,下腿は垂直位とし,大腿長の中点と座面の先端をあわせ,膝関節が屈曲80°となるように座面の高さを調節した。また,両足部間距離は両上前腸骨間距離と等しくなるようにした。なお,上肢は前胸部で組ませ,骨盤は前後傾中間位となるようにした。動作速度は快適速度とした。以上の条件において練習を行った後,計5回の計測を行った。
起立動作の全周期を大腿前傾運動開始時から終了時までと定義した上で,全期間を100%とし,5%ごとの平均値を算出した。角速度は前傾及び外旋を正とした。下腿が後傾する期間(以下,下腿後傾期)において,後傾速度が最大に達するタイミング(以下,ピーク時)を基準として前半相と後半相に分割した。膝関節回旋運動の傾向を評価するため,大腿と下腿の回旋速度変化(後半相回旋平均速度-前半相回旋平均速度)の差(以下,膝関節回旋速度変化量)を算出し,負の値となった場合に内旋運動が生じたものとして,その割合を求めた。次にピーク時における大腿及び下腿前後傾速度とその差による膝関節伸展速度を求めた。また,後半相における大腿及び下腿の前後傾速度の積分値(以下,前後傾角度変化量)と,回旋速度の積分値(以下,回旋角度変化量)を算出した。
以上のパラメーターを用いて,膝関節回旋速度変化量に対する,膝関節伸展速度,大腿及び下腿前後傾速度,大腿及び下腿前後傾角度変化量との相関分析を行った。その後,大腿及び下腿どうしの回旋角度変化量と前後傾角度変化量との相関分析を行った。なお,正規性を認めたものについてはPearsonの積率相関係数を,認めなかったものについてはSpearmanの順位相関係数を求めた。危険率は5%未満を有意水準とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に基づき,研究の目的及び方法を被検者に十分に説明し,同意を得て行った。
【結果】
膝関節回旋速度変化量は-0.448±0.707rad/sであり,21人中16人(76%)が内旋運動を認めた。膝関節回旋速度変化量と下腿前後傾速度及び下腿前後傾角度変化量には相関を認めなかった。膝関節回旋速度変化量と膝関節伸展速度(p<0.01,r=-0.627)及び大腿前後傾速度(p<0.01,r=-0.688),大腿前後傾角度変化量(p<0.01,r=-0.748)には負の相関を認めた。
下腿回旋角度変化量と下腿前後傾角度変化量には相関を認めなかった。大腿回旋角度変化量と大腿前後傾角度変化量には正の相関を認めた(p<0.01,r=0.605)。
【考察】
下腿後傾期における膝関節伸展運動に伴う回旋速度変化と,大腿と下腿の前後傾運動の影響を検討した。起立動作最終域において内旋運動を認めた割合は76%となった。また,膝関節伸展速度が高値であるほど,膝関節は内旋方向への速度変化(以下,内旋傾向)を示したが,分節ごとの結果では,大腿前後傾速度には相関を認めたが,下腿には認めず,大腿前傾速度が高値となることがその要因と考えられた。さらに,大腿前傾角度変化量が増加するほど内旋傾向が強くなっており,後半相開始時の大腿前傾角度の減少により膝関節屈曲角度が高値となることも内旋傾向を示す要因と考えられた。大腿回旋角度変化量と大腿前後傾角度変化量を分析した結果では,大腿前傾角度増加に伴い,大腿外旋角度変化量が増加しており,大腿前傾運動に伴う大腿外旋運動を生じることも内旋傾向を示す要因と考えられた。
以上から,起立動作の最終域である下腿後傾期において,大腿外旋運動を伴って,大腿前傾運動の速度や角度変化量が増加することにより,膝関節内旋運動が生じることが示唆された。また,膝関節回旋運動に影響する要因としては,下腿後傾運動ではなく,大腿前傾運動が挙げられた。
【理学療法学研究としての意義】
膝関節疾患患者の起立動作における膝関節回旋運動を評価する際の一指標となりえると考えられる。
非荷重状態での膝関節伸展運動に伴う回旋運動は,伸展最終域において外旋を伴うという終末強制回旋運動として一定の見解が得られているが,起立動作最終域における膝関節伸展運動に伴う回旋運動に関する報告は少なく,特にその機序には不明な点が多い。林らは膝関節に関する整形外科疾患は,膝関節回旋機能の破綻によるものが大きいと述べており,阿南らは変形性膝関節症患者の起立動作では,矢状面上における適切な膝関節の関節運動が破綻していると述べている。したがって,起立動作における膝関節の伸展運動と回旋運動の関連性を明らかにすることは重要であると考えられる。そこで本研究は,角速度計を用いて起立動作最終域における膝関節伸展運動と回旋運動との関連性とその要因を検討することを目的とした。
【方法】
対象は健常成人21名(26.3±4.0歳,性別:男16名,女5名)とした。測定課題は座位からの起立動作とした。角速度測定には無線モーションレコーダー(MicroStone社製)を使用し,大腿中央部及び腓骨頭直上に装着させた。座位の条件として,下腿は垂直位とし,大腿長の中点と座面の先端をあわせ,膝関節が屈曲80°となるように座面の高さを調節した。また,両足部間距離は両上前腸骨間距離と等しくなるようにした。なお,上肢は前胸部で組ませ,骨盤は前後傾中間位となるようにした。動作速度は快適速度とした。以上の条件において練習を行った後,計5回の計測を行った。
起立動作の全周期を大腿前傾運動開始時から終了時までと定義した上で,全期間を100%とし,5%ごとの平均値を算出した。角速度は前傾及び外旋を正とした。下腿が後傾する期間(以下,下腿後傾期)において,後傾速度が最大に達するタイミング(以下,ピーク時)を基準として前半相と後半相に分割した。膝関節回旋運動の傾向を評価するため,大腿と下腿の回旋速度変化(後半相回旋平均速度-前半相回旋平均速度)の差(以下,膝関節回旋速度変化量)を算出し,負の値となった場合に内旋運動が生じたものとして,その割合を求めた。次にピーク時における大腿及び下腿前後傾速度とその差による膝関節伸展速度を求めた。また,後半相における大腿及び下腿の前後傾速度の積分値(以下,前後傾角度変化量)と,回旋速度の積分値(以下,回旋角度変化量)を算出した。
以上のパラメーターを用いて,膝関節回旋速度変化量に対する,膝関節伸展速度,大腿及び下腿前後傾速度,大腿及び下腿前後傾角度変化量との相関分析を行った。その後,大腿及び下腿どうしの回旋角度変化量と前後傾角度変化量との相関分析を行った。なお,正規性を認めたものについてはPearsonの積率相関係数を,認めなかったものについてはSpearmanの順位相関係数を求めた。危険率は5%未満を有意水準とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に基づき,研究の目的及び方法を被検者に十分に説明し,同意を得て行った。
【結果】
膝関節回旋速度変化量は-0.448±0.707rad/sであり,21人中16人(76%)が内旋運動を認めた。膝関節回旋速度変化量と下腿前後傾速度及び下腿前後傾角度変化量には相関を認めなかった。膝関節回旋速度変化量と膝関節伸展速度(p<0.01,r=-0.627)及び大腿前後傾速度(p<0.01,r=-0.688),大腿前後傾角度変化量(p<0.01,r=-0.748)には負の相関を認めた。
下腿回旋角度変化量と下腿前後傾角度変化量には相関を認めなかった。大腿回旋角度変化量と大腿前後傾角度変化量には正の相関を認めた(p<0.01,r=0.605)。
【考察】
下腿後傾期における膝関節伸展運動に伴う回旋速度変化と,大腿と下腿の前後傾運動の影響を検討した。起立動作最終域において内旋運動を認めた割合は76%となった。また,膝関節伸展速度が高値であるほど,膝関節は内旋方向への速度変化(以下,内旋傾向)を示したが,分節ごとの結果では,大腿前後傾速度には相関を認めたが,下腿には認めず,大腿前傾速度が高値となることがその要因と考えられた。さらに,大腿前傾角度変化量が増加するほど内旋傾向が強くなっており,後半相開始時の大腿前傾角度の減少により膝関節屈曲角度が高値となることも内旋傾向を示す要因と考えられた。大腿回旋角度変化量と大腿前後傾角度変化量を分析した結果では,大腿前傾角度増加に伴い,大腿外旋角度変化量が増加しており,大腿前傾運動に伴う大腿外旋運動を生じることも内旋傾向を示す要因と考えられた。
以上から,起立動作の最終域である下腿後傾期において,大腿外旋運動を伴って,大腿前傾運動の速度や角度変化量が増加することにより,膝関節内旋運動が生じることが示唆された。また,膝関節回旋運動に影響する要因としては,下腿後傾運動ではなく,大腿前傾運動が挙げられた。
【理学療法学研究としての意義】
膝関節疾患患者の起立動作における膝関節回旋運動を評価する際の一指標となりえると考えられる。