[0895] 水中歩行時の体幹・下肢筋活動
Keywords:筋電図, ストンプウォーク, 水中運動療法
【はじめに,目的】近年,変形性関節症や腰痛症などの運動器疾患患者に対し,水中運動療法が盛んに行われている。代表的な水中運動療法の一つに水中歩行が行われており,その有効性が筋電図学的に検討されている。その中で近年,水中運動の効果を高めるために水中ストンプウォーク(腿上げ歩行)が実施されている。ストンプウォークは遊脚側の股関節屈曲・膝関節伸展運動を大きくし,下肢を大きく振り出す歩行である。下肢を振り出す際,水の粘性抵抗によって大腿直筋や腸腰筋の活動量が大きくなることから,陸上歩行よりも股関節屈筋・膝関節伸展筋群の筋力強化に有効であると推測するが,水中ストンプウォーク時の筋活動様式は明らかでない。そこで本研究では,水中ストンプウォーク時の筋活動様式を明らかにし,水中運動療法における有用性を検討することとした。
【方法】対象は競泳経験のある健常男性6名とした(年齢:21.3±2.0歳,身長:171.2±4.0cm,体重:67.4±11.5kg,体脂肪率:18.5±6.0%,mean±SD)。水深1.3mのプールにて,通常歩行およびストンプウォークを行わせた際の筋電図および画像データを同期させて収集した。歩幅は通常歩行:身長×0.35(cm),ストンプウォーク:身長×0.5(cm)とし,歩行速度は被験者自身の至適速度とした。水中にて筋電計測が可能なテレメータ筋電計(DL-5000およびDL-500,S&ME社製)を用い,右側の腹直筋,内腹斜筋,脊柱起立筋,中殿筋,大腿直筋,大腿二頭筋,腓腹筋の筋電図を測定した。画像データは1台のハイスピードカメラ(HAS-220,DITECT社製,撮影速度:200コマ/sec,シャッタースピード:1/500sec)を設置し,実験試技の矢状面画像を撮影した。得られた画像データから,右下肢の立脚前期,立脚中期,立脚後期,二重支持期(右下肢後方),遊脚前期,遊脚中期,遊脚後期,二重支持期(右下肢前方)の8phaseにphase分けし,各phaseの筋活動量を%MVCにて算出した。各phaseにおいて,筋活動量を試技条件間(通常歩行vs.ストンプウォーク)で対応のあるt検定を用いて比較した。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づいた倫理的配慮の下行った。なお,本研究は早稲田大学「人を対象とする研究に関する倫理審査委員会」による承認(申請番号:2013-160)を得たうえで行った。
【結果】腹直筋,内腹斜筋,中殿筋は,立脚中期および遊脚中期にてストンプウォーク時に活動量が有意に大きかった。脊柱起立筋は遊脚前期において,通常歩行:10.5±4.1%MVC,ストンプウォーク:13.8±2.7%MVCと,ストンプウォークで有意に大きかった。大腿直筋は遊脚中期にて,通常歩行:5.0±2.6%MVC,ストンプウォーク:65.0±23.3%MVCで,ストンプウォークで有意に大きかった。大腿二頭筋は立脚中期において,通常歩行:7.3±4.6%MVC,ストンプウォーク:23.3±8.6%MVCで,ストンプウォークで有意に大きかった。腓腹筋は全てのphaseにおいて有意差を認めなかった。
【考察】水中運動療法の効果の一つに,水の粘性抵抗を用いた筋力強化が可能となる点が挙げられる。ストンプウォークでは,水の粘性抵抗に対し,遊脚中期に大きく股関節屈曲,膝関節伸展を行うため,大腿直筋の活動量が65%MVCまで大きくなったと考える。さらに,その大きな下肢の振り出しに伴い,股関節や体幹の安定性が求められるため,遊脚中期にて腹直筋,内腹斜筋,中殿筋の活動量が通常歩行よりも大きくなったことが考えられる。また,立脚中期において,腹直筋,内腹斜筋,中殿筋,大腿二頭筋の活動量が通常歩行よりもストンプウォークで有意に大きかった。ストンプウォークの右立脚中期では,左下肢を大きく振り出しているphaseであり,その外乱に対する支持性を高めるために,下肢・体幹の筋活動量が大きくなったと考える。以上から,水中ストンプウォークでは下肢を大きく振り出す立脚中期および遊脚中期において,下肢・体幹の筋活動量が大きくなり,水中での筋力増強効果を促進する可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】通常の水中歩行では,下肢・体幹の筋活動量が減少することが報告されている(井上ら,2010)が,水中ストンプウォークは浮力により荷重関節への負荷が軽減された中で,筋力増強効果を高めることができるため,安全で効率的な運動方法であると考える。
【方法】対象は競泳経験のある健常男性6名とした(年齢:21.3±2.0歳,身長:171.2±4.0cm,体重:67.4±11.5kg,体脂肪率:18.5±6.0%,mean±SD)。水深1.3mのプールにて,通常歩行およびストンプウォークを行わせた際の筋電図および画像データを同期させて収集した。歩幅は通常歩行:身長×0.35(cm),ストンプウォーク:身長×0.5(cm)とし,歩行速度は被験者自身の至適速度とした。水中にて筋電計測が可能なテレメータ筋電計(DL-5000およびDL-500,S&ME社製)を用い,右側の腹直筋,内腹斜筋,脊柱起立筋,中殿筋,大腿直筋,大腿二頭筋,腓腹筋の筋電図を測定した。画像データは1台のハイスピードカメラ(HAS-220,DITECT社製,撮影速度:200コマ/sec,シャッタースピード:1/500sec)を設置し,実験試技の矢状面画像を撮影した。得られた画像データから,右下肢の立脚前期,立脚中期,立脚後期,二重支持期(右下肢後方),遊脚前期,遊脚中期,遊脚後期,二重支持期(右下肢前方)の8phaseにphase分けし,各phaseの筋活動量を%MVCにて算出した。各phaseにおいて,筋活動量を試技条件間(通常歩行vs.ストンプウォーク)で対応のあるt検定を用いて比較した。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づいた倫理的配慮の下行った。なお,本研究は早稲田大学「人を対象とする研究に関する倫理審査委員会」による承認(申請番号:2013-160)を得たうえで行った。
【結果】腹直筋,内腹斜筋,中殿筋は,立脚中期および遊脚中期にてストンプウォーク時に活動量が有意に大きかった。脊柱起立筋は遊脚前期において,通常歩行:10.5±4.1%MVC,ストンプウォーク:13.8±2.7%MVCと,ストンプウォークで有意に大きかった。大腿直筋は遊脚中期にて,通常歩行:5.0±2.6%MVC,ストンプウォーク:65.0±23.3%MVCで,ストンプウォークで有意に大きかった。大腿二頭筋は立脚中期において,通常歩行:7.3±4.6%MVC,ストンプウォーク:23.3±8.6%MVCで,ストンプウォークで有意に大きかった。腓腹筋は全てのphaseにおいて有意差を認めなかった。
【考察】水中運動療法の効果の一つに,水の粘性抵抗を用いた筋力強化が可能となる点が挙げられる。ストンプウォークでは,水の粘性抵抗に対し,遊脚中期に大きく股関節屈曲,膝関節伸展を行うため,大腿直筋の活動量が65%MVCまで大きくなったと考える。さらに,その大きな下肢の振り出しに伴い,股関節や体幹の安定性が求められるため,遊脚中期にて腹直筋,内腹斜筋,中殿筋の活動量が通常歩行よりも大きくなったことが考えられる。また,立脚中期において,腹直筋,内腹斜筋,中殿筋,大腿二頭筋の活動量が通常歩行よりもストンプウォークで有意に大きかった。ストンプウォークの右立脚中期では,左下肢を大きく振り出しているphaseであり,その外乱に対する支持性を高めるために,下肢・体幹の筋活動量が大きくなったと考える。以上から,水中ストンプウォークでは下肢を大きく振り出す立脚中期および遊脚中期において,下肢・体幹の筋活動量が大きくなり,水中での筋力増強効果を促進する可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】通常の水中歩行では,下肢・体幹の筋活動量が減少することが報告されている(井上ら,2010)が,水中ストンプウォークは浮力により荷重関節への負荷が軽減された中で,筋力増強効果を高めることができるため,安全で効率的な運動方法であると考える。