[0904] 2型糖尿病患者における振動覚低下はバランス機能を反映するか?
キーワード:2型糖尿病, 振動覚, バランス
【はじめに,目的】
超高齢社会となった我が国では,高齢糖尿病患者が著明に増加している。高齢糖尿病患者では下肢筋力低下などの要因により転倒リスク,さらにそれに伴う骨折リスクが高いことが報告されている。従って,できる限り簡便な検査によって糖尿病患者の転倒リスクをスクリーニングすることは重要であると思われる。
糖尿病患者における3大合併症の一つとして糖尿病性神経障害があり,過剰なブドウ糖による細胞内代謝異常が原因と考えられている。その特徴としては末梢優位で左右対称のしびれなどの感覚障害を呈することが知られている。臨床においては脛骨内果の振動覚検査は簡便にできる糖尿病性神経障害の診断手法の一つとして用いられ,「糖尿病性神経障害を考える会」の提案する簡易診断基準では振動覚10秒未満を「振動覚低下」と判断する。
一方でバランス能力を反映する重心動揺測定での総軌跡長は,振動覚と同様に深部感覚の一つである身体位置覚と関連があると報告されている。そのため,2型糖尿病患者においては振動覚の低下がバランス能力の低下を反映する可能性がある。そこで本研究の目的は2型糖尿病患者における脛骨内果振動覚と総軌跡長との関連を明らかにし,振動覚低下とバランス能力低下の関連を明らかにすることである。
【方法】
当院に入院した運動療法可能な2型糖尿病患者27名(男/女:16/11名,年齢:68.8±7.4歳,BMI:24.5±3.6kg/m2,HbA1c:9.37±1.50%)を対象とした。振動覚の測定は十分な安静臥床の後C128音叉を用いて脛骨内果の振動感知時間を左右2回ずつ測定し,左右の平均値を算出した。総軌跡長の測定は床反力計1基(AMTI社,USA)を用い,床反力計上に裸足で立位となり,踵とつま先を揃えた膝伸展位で開眼・閉眼時の静止立位30秒間のデータを算出した。
対象者を糖尿病性神経障害の簡易診断基準を参考に,脛骨内果振動感知時間10秒未満と10秒以上で分け,それぞれ10秒未満群,10秒以上群とした。統計学的解析として2群間の比較には対応の無いt検定,振動感知時間と開眼・閉眼総軌跡長との関連にはPearsonの積率相関係数を用い,有意水準は0.05未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は広島大学病院疫学研究倫理審査委員会の承認を得た(承認番号;疫-534号)。また対象者に研究内容を説明ののち,同意を得てから測定を行った。
【結果】
脛骨内果振動感知時間10秒未満群は13名,10秒以上群は14名であった。10秒未満群と10秒以上群では,開眼軌跡長(95.7±34.4cm vs 89.8±21.3cm:P=0.296)に有意差を認めなかったが,10秒未満群の閉眼軌跡長(138.8±62.3 vs 107.5±25.4:P=0.047)で10秒以上群と比較して有意に高値を示した。振動覚と軌跡長の相関では,振動覚と開眼軌跡長に有意な相関は認めなかった(P=0.339,r=-0.191)が,振動覚と閉眼軌跡長では有意な負の相関を認めた(P=0.024,r=-0.434)。
【考察】
2型糖尿病患者を対象とし脛骨内果振動感知時間10秒未満と10秒以上で分類した結果,10秒未満群は10秒以上群と比較し開眼軌跡長では有意差を認めないものの,閉眼軌跡長では有意に高値を示し,脛骨内果振動感知時間と閉眼軌跡長は有意な負の相関関係を示した。閉眼立位での動揺増大は深部感覚障害を反映していると考えられており,本研究でみられた10秒未満群での閉眼立位時の動揺増大は糖尿病性神経障害による深部感覚障害が原因と考えられる。
健常者において振動覚は転倒を予測する因子であることが報告されているが2型糖尿病においては明らかでない。先行研究によれば2型糖尿病患者では下肢筋力低下や足底の感覚異常により転倒リスクが増大することが報告されている。しかしながら,本研究においては振動覚と閉眼総軌跡長に関連を認めたことから,2型糖尿病患者における転倒リスクの一つとして振動覚の低下も関与することが推察された。結論として,2型糖尿病患者において振動覚はバランス能力を反映し,転倒リスクを予測する因子となりうることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
2型糖尿病患者における脛骨内果の振動覚低下が閉眼時総軌跡長と関連していることから,振動覚低下症例に対しては血糖コントロール目的の運動療法だけでなく,バランス能力を向上させ転倒予防につながる理学療法プログラムの作成も必要であると考えられる。
超高齢社会となった我が国では,高齢糖尿病患者が著明に増加している。高齢糖尿病患者では下肢筋力低下などの要因により転倒リスク,さらにそれに伴う骨折リスクが高いことが報告されている。従って,できる限り簡便な検査によって糖尿病患者の転倒リスクをスクリーニングすることは重要であると思われる。
糖尿病患者における3大合併症の一つとして糖尿病性神経障害があり,過剰なブドウ糖による細胞内代謝異常が原因と考えられている。その特徴としては末梢優位で左右対称のしびれなどの感覚障害を呈することが知られている。臨床においては脛骨内果の振動覚検査は簡便にできる糖尿病性神経障害の診断手法の一つとして用いられ,「糖尿病性神経障害を考える会」の提案する簡易診断基準では振動覚10秒未満を「振動覚低下」と判断する。
一方でバランス能力を反映する重心動揺測定での総軌跡長は,振動覚と同様に深部感覚の一つである身体位置覚と関連があると報告されている。そのため,2型糖尿病患者においては振動覚の低下がバランス能力の低下を反映する可能性がある。そこで本研究の目的は2型糖尿病患者における脛骨内果振動覚と総軌跡長との関連を明らかにし,振動覚低下とバランス能力低下の関連を明らかにすることである。
【方法】
当院に入院した運動療法可能な2型糖尿病患者27名(男/女:16/11名,年齢:68.8±7.4歳,BMI:24.5±3.6kg/m2,HbA1c:9.37±1.50%)を対象とした。振動覚の測定は十分な安静臥床の後C128音叉を用いて脛骨内果の振動感知時間を左右2回ずつ測定し,左右の平均値を算出した。総軌跡長の測定は床反力計1基(AMTI社,USA)を用い,床反力計上に裸足で立位となり,踵とつま先を揃えた膝伸展位で開眼・閉眼時の静止立位30秒間のデータを算出した。
対象者を糖尿病性神経障害の簡易診断基準を参考に,脛骨内果振動感知時間10秒未満と10秒以上で分け,それぞれ10秒未満群,10秒以上群とした。統計学的解析として2群間の比較には対応の無いt検定,振動感知時間と開眼・閉眼総軌跡長との関連にはPearsonの積率相関係数を用い,有意水準は0.05未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は広島大学病院疫学研究倫理審査委員会の承認を得た(承認番号;疫-534号)。また対象者に研究内容を説明ののち,同意を得てから測定を行った。
【結果】
脛骨内果振動感知時間10秒未満群は13名,10秒以上群は14名であった。10秒未満群と10秒以上群では,開眼軌跡長(95.7±34.4cm vs 89.8±21.3cm:P=0.296)に有意差を認めなかったが,10秒未満群の閉眼軌跡長(138.8±62.3 vs 107.5±25.4:P=0.047)で10秒以上群と比較して有意に高値を示した。振動覚と軌跡長の相関では,振動覚と開眼軌跡長に有意な相関は認めなかった(P=0.339,r=-0.191)が,振動覚と閉眼軌跡長では有意な負の相関を認めた(P=0.024,r=-0.434)。
【考察】
2型糖尿病患者を対象とし脛骨内果振動感知時間10秒未満と10秒以上で分類した結果,10秒未満群は10秒以上群と比較し開眼軌跡長では有意差を認めないものの,閉眼軌跡長では有意に高値を示し,脛骨内果振動感知時間と閉眼軌跡長は有意な負の相関関係を示した。閉眼立位での動揺増大は深部感覚障害を反映していると考えられており,本研究でみられた10秒未満群での閉眼立位時の動揺増大は糖尿病性神経障害による深部感覚障害が原因と考えられる。
健常者において振動覚は転倒を予測する因子であることが報告されているが2型糖尿病においては明らかでない。先行研究によれば2型糖尿病患者では下肢筋力低下や足底の感覚異常により転倒リスクが増大することが報告されている。しかしながら,本研究においては振動覚と閉眼総軌跡長に関連を認めたことから,2型糖尿病患者における転倒リスクの一つとして振動覚の低下も関与することが推察された。結論として,2型糖尿病患者において振動覚はバランス能力を反映し,転倒リスクを予測する因子となりうることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
2型糖尿病患者における脛骨内果の振動覚低下が閉眼時総軌跡長と関連していることから,振動覚低下症例に対しては血糖コントロール目的の運動療法だけでなく,バランス能力を向上させ転倒予防につながる理学療法プログラムの作成も必要であると考えられる。