第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 生活環境支援理学療法 口述

その他

Sat. May 31, 2014 1:00 PM - 1:50 PM 第6会場 (3F 304)

座長:羽崎完(大阪電気通信大学医療福祉工学部理学療法学科)

生活環境支援 口述

[0907] 勤労者における顎関節症関連症状の発症率と姿勢及び頸部痛の分析

高橋秀平1, 塚田月美2, 小倉広康2, 上村一貴1,3, 内山靖1 (1.名古屋大学大学院医学系研究科リハビリテーション療法学専攻, 2.パナソニックエコソリューションズ電路株式会社, 3.日本学術振興会)

Keywords:健康増進, 顎関節症, 姿勢変化

【はじめに,目的】
顎関節症は咀嚼筋の疼痛,関節音,開口障害や顎運動異常を主要症候とする慢性疾患群である。顎関節症については,会話や食事への影響が着目されていたが,近年,頭頸部の不良姿勢との関連や頸部痛との関連が示唆されるなど,顎口腔系以外の部位とへ関連が明らかになってきた。また,杉崎らは勤労者の顎関節症有症率が一般人と比較して高率であることを報告し,Nishiyamaらが勤労者における顎関節症発症要因モデルを提唱するなど,勤労者における顎関節症の管理は産業衛生上の課題として注目を集めている。
歯科医による咬合治療の他,非侵襲的な顎関節症の治療手段として,Makinoらは理学療法士による下顎運動の指導,Wrightらは理学療法士による姿勢指導が顎関節関連症状を改善すると報告している。理学療法士による治療手段は場を選ばず,特別な機器を使用しないという点で,企業における健康指導にも適すると考えられる。しかし,顎関節症と不良姿勢や頸部痛との関連は女性を中心とした検討であり,勤労者における傾向は明らかでない。
そこで本研究の目的は,勤労者における顎関節関連症状の発症率と姿勢及び頸部痛との関連を定量的方法を用いて検討することである。
【方法】
対象は,A社 定期健康診断を受診した勤労者354名(男性253名,平均41.9歳)とした。顎関節症関連症状は,開口時の下顎運動軌跡をサンプリング周波数で動画撮影し,二次元動作解析を用いて下顎左右偏移(mm)と開口障害の有無(開口距離35mm未満を開口障害有りと判定)を算出した。また,咀嚼筋の疼痛及び顎関節クリック音の有無を調査した。頭部姿勢評価には,作業前後の矢状面姿勢を動画撮影し,Cervical Angle(CV角)を二次元動作解析装置によって算出した。頸部痛評価にはVisual Analogue Scale(VAS)を用い,一般的に中等度以上の症状と分類される30mm以上の症状を頸部痛有り,未満を頸部痛無しと判定した。
統計解析として,Man-Whitney U検定,x2検定を用いて,各顎関節症関連症状の有無による頸部痛の比較を行った。またCV角の変化について,各顎関節関連症状有無の群要因と課題前後の時系列要因の二要因に二元配置分散分析及び事後検定(Bonferroni法)を実施した。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には本研究の主旨および目的を口頭と書面にて説明し,同意を得た。実施主体施設の倫理・利益相反委員会の承認を受けて実施した。
【結果】
各顎関節症関連症状は,クリック音を有する対象者177人(50%),咀嚼筋痛を有する対象者48人(14%),開口障害を有する対象者28人(8%),開口時の運動軌跡の左右偏移8.3±7.8mmであった。クリック音を有する対象者の85.7%,開口障害を有する対象者の56.0%が頸部痛を有し,χ2乗検定の結果,それぞれの症状を有する対象者は同時に頸部痛を有する者が有意に多いと判定された。咬筋痛の有無及び開口障害の量と頸部痛の有無には関連がみられなかった。また課題前後のCV角について,二元配置分散分析の結果,クリック音の有無で主効果及び交互作用が認められ(p<0.05),クリック音を有する対象者は課題後に有意に頭部が前方へ偏移する結果となった。その他の顎関節関連症状ではCV角との間に関連はみられなかった。
【考察】
本対象者では,顎関節関連症状を有する対象者の割合が非常に高いことが明らかとなった。また,クリック音と頭部の前方偏移姿勢及び頸部痛は相互に関連があることが明らかとなった。下顎頭位置は頭部姿勢により影響を受けることや頸部屈曲が側頭筋の活動を高めることが報告されており,頭部前方偏移姿勢は顎関節への物理的負荷を高めることが考えられる。それぞれの所見への治療によって,他所見へも相互に影響を及ぼす可能性があり,今後因果関係を明らかとすることで治療標的の具体化が可能となる。開口障害は咀嚼筋の過緊張を反映していると考えられており,咀嚼筋活動を補償する後頸筋群への負荷が頸部痛を引き起こしていると考えられた。咀嚼筋痛,開口障害に対しては,一般人女性を対象とした検討において,下顎の運動療法が効果的であることが報告されており,理学療法治療の効果が期待できる。
今後,各顎関節症関連症状への介入を通し,理学療法の効果を検証していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,産業衛生上の課題である顎関節症に対する健康管理を示唆するものである。産業衛生分野への理学療法士参入の可能性を具体化する点で意義を有するものと考える。