[0912] 直流前庭電気刺激が動的立位バランスに与える影響
キーワード:直流前庭電気刺激, 動的立位バランス, 足踏み
【はじめに,目的】
直流前庭電気刺激(Galvanic vestibular stimulation:以下GVS)は前庭系を直流電流で刺激し陽極側への身体傾斜を生じさせる。近年は脳卒中後の空間無視やpushing,パーキンソン病の姿勢異常に対し実施した報告がみられる。しかし,それらは静的座位や静的立位での報告である。今回は健常人を対象にし,足踏み課題を用いて動的な状況下においてもGVSで姿勢の異常を修正することができるかという点について,陽極側と陰極側のプレート別総軌跡長と立脚相・遊脚相の時間因子や荷重速度,移行変化を基に調査した。また,先行研究では刺激強度に依存して陽極側への傾斜も強まるとの報告から,GVSで足踏み動作時の荷重様式やリズムを修正することができるかという点と,刺激強度も加味し陽極側への荷重様式についても調査した。
【方法】
対象は健常成人14名(男性8名,女性6名,年齢24.9±3.6歳,身長166.4±9.1cm,体重58.6±9.2kg)を対象とした。課題は重心動揺計(ツイングラビコーダGP-6000,アニマ社製)上での足踏み検査とした。取込時間は20歩で設定した。対象者への刺激条件は両側乳様突起に電極を貼付し,2種の極性(左陽極,右陽極)と3種の刺激強度(sham刺激,1.5mA,2.5mA)を組み合わせた計6条件とし,各セッション間のインターバルは5分間とした。対象者はexcel(Microsoft社製)の乱数プログラムを用いてA群とB群に無作為割付した。A群は左陽極条件実施後に右陽極条件を実施し,B群は右陽極条件実施後に左陽極条件を実施した。直流電流刺激にはIntelect Advanced Combo(chattanooga社製)を使用した。統計処理は6条件を陽極側と陰極側に分け刺激強度ごとに二要因の反復測定分散分析で検討し,効果が見られた場合,多重比較法(Shaffer法)を併用した。統計ソフトはR ver. 2.8.1.を使用した。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には本研究の趣旨と目的を説明し同意を得た。
【結果】
左右プレート別総軌跡長(cm)は陽極側と陰極側に差はなかった。立脚相時間因子(ストライド/秒)は1.5mAと2.5mAの刺激強度で陽極側が有意に増加した(p<0.001)。遊脚相時間因子(ストライド/秒)は1.5mAと2.5mAの刺激強度で陽極側が有意に減少した(p<0.001)。接床荷重速度(%/秒)は陽極側と陰極側に差はなかったが,離床荷重速度(%/秒)は1.5mAと2.5mAの刺激強度で陽極側と陰極側の両側で有意に増加した(p<0.001)。離床から接床への移行変化(%/秒)は陽極側と陰極側に差はなかったが,接床から離床への移行変化(%/秒)は1.5mAと2.5mAの刺激強度で陰極側が有意に増加した(p<0.01)。
【考察】
健常成人の足踏み課題に対してGVSを実施した。結果,左右差なく陽極側の立脚相延長と遊脚相短縮がみられ,接床荷重速度とプレート別総軌跡長は陽極側と陰極側とで差がなかった。これは,急激な接床や荷重速度の増加によるバランスの低下を起こすことなく,陽極側立脚相延長を誘導できたことを示唆するものと思われた。また,陰極側のみで接床から離床への移行変化が増加し,対側である陽極側の離床から接床への移行変化はみられなかったことから,陰極側下肢の速やかな引き上げが陽極側への移動を促進していたことを示しているのではないかと考えられる。離床荷重速度に関しては,陽極側と陰極側ともに増加しており,歩行におけるリズミカルな蹴り出しの改善に寄与できる可能性がある。各評価の多重比較法の結果からは1.5mAと2.5mAでは差は認められなかった。これにより低刺激でも動的立位バランスへの影響は得ることができ,刺激増強による不快感を回避することが可能と考えられる。今回の健常者における足踏み課題から示された結果をもとに,臨床適応を目指し,持続効果や歩行動作への影響も検討して行く必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
GVSは,安全且つ円滑に動的立位における荷重の誘導が可能であり,動的立位バランスの不良な例に対しての介入手段として活用できる可能性が示唆された。
直流前庭電気刺激(Galvanic vestibular stimulation:以下GVS)は前庭系を直流電流で刺激し陽極側への身体傾斜を生じさせる。近年は脳卒中後の空間無視やpushing,パーキンソン病の姿勢異常に対し実施した報告がみられる。しかし,それらは静的座位や静的立位での報告である。今回は健常人を対象にし,足踏み課題を用いて動的な状況下においてもGVSで姿勢の異常を修正することができるかという点について,陽極側と陰極側のプレート別総軌跡長と立脚相・遊脚相の時間因子や荷重速度,移行変化を基に調査した。また,先行研究では刺激強度に依存して陽極側への傾斜も強まるとの報告から,GVSで足踏み動作時の荷重様式やリズムを修正することができるかという点と,刺激強度も加味し陽極側への荷重様式についても調査した。
【方法】
対象は健常成人14名(男性8名,女性6名,年齢24.9±3.6歳,身長166.4±9.1cm,体重58.6±9.2kg)を対象とした。課題は重心動揺計(ツイングラビコーダGP-6000,アニマ社製)上での足踏み検査とした。取込時間は20歩で設定した。対象者への刺激条件は両側乳様突起に電極を貼付し,2種の極性(左陽極,右陽極)と3種の刺激強度(sham刺激,1.5mA,2.5mA)を組み合わせた計6条件とし,各セッション間のインターバルは5分間とした。対象者はexcel(Microsoft社製)の乱数プログラムを用いてA群とB群に無作為割付した。A群は左陽極条件実施後に右陽極条件を実施し,B群は右陽極条件実施後に左陽極条件を実施した。直流電流刺激にはIntelect Advanced Combo(chattanooga社製)を使用した。統計処理は6条件を陽極側と陰極側に分け刺激強度ごとに二要因の反復測定分散分析で検討し,効果が見られた場合,多重比較法(Shaffer法)を併用した。統計ソフトはR ver. 2.8.1.を使用した。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には本研究の趣旨と目的を説明し同意を得た。
【結果】
左右プレート別総軌跡長(cm)は陽極側と陰極側に差はなかった。立脚相時間因子(ストライド/秒)は1.5mAと2.5mAの刺激強度で陽極側が有意に増加した(p<0.001)。遊脚相時間因子(ストライド/秒)は1.5mAと2.5mAの刺激強度で陽極側が有意に減少した(p<0.001)。接床荷重速度(%/秒)は陽極側と陰極側に差はなかったが,離床荷重速度(%/秒)は1.5mAと2.5mAの刺激強度で陽極側と陰極側の両側で有意に増加した(p<0.001)。離床から接床への移行変化(%/秒)は陽極側と陰極側に差はなかったが,接床から離床への移行変化(%/秒)は1.5mAと2.5mAの刺激強度で陰極側が有意に増加した(p<0.01)。
【考察】
健常成人の足踏み課題に対してGVSを実施した。結果,左右差なく陽極側の立脚相延長と遊脚相短縮がみられ,接床荷重速度とプレート別総軌跡長は陽極側と陰極側とで差がなかった。これは,急激な接床や荷重速度の増加によるバランスの低下を起こすことなく,陽極側立脚相延長を誘導できたことを示唆するものと思われた。また,陰極側のみで接床から離床への移行変化が増加し,対側である陽極側の離床から接床への移行変化はみられなかったことから,陰極側下肢の速やかな引き上げが陽極側への移動を促進していたことを示しているのではないかと考えられる。離床荷重速度に関しては,陽極側と陰極側ともに増加しており,歩行におけるリズミカルな蹴り出しの改善に寄与できる可能性がある。各評価の多重比較法の結果からは1.5mAと2.5mAでは差は認められなかった。これにより低刺激でも動的立位バランスへの影響は得ることができ,刺激増強による不快感を回避することが可能と考えられる。今回の健常者における足踏み課題から示された結果をもとに,臨床適応を目指し,持続効果や歩行動作への影響も検討して行く必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
GVSは,安全且つ円滑に動的立位における荷重の誘導が可能であり,動的立位バランスの不良な例に対しての介入手段として活用できる可能性が示唆された。