[0918] 大腿骨近位部骨折患者に対する術後急性期での起立-着座練習の効果
Keywords:大腿骨近位部骨折, 起立-着座練習, 急性期
【はじめに,目的】
近年,大腿骨近位部骨折に対する手術は発展してきており,術後早期から離床を進めることが一般化されてきている。また地域連携パスを用いて早期に急性期病院から回復期病院へ転院し,早期に在宅復帰を実現することが重要視されている。このような流れの中で,急性期病院においても早期よりADLの改善が求められている。
一方で術後は炎症反応が強く,著明な疼痛のために積極的にリハビリを進められない事や,炎症による筋力低下のため思うように身体機能を発揮できない場合がある。しかし,起立-着座練習は両脚での動作であり患側への荷重が歩行動作に比べ少なく,疼痛に応じて患側への荷重量を調節できる。また閉鎖運動連鎖(CKC)での動作であることからADLに直結しやすいと報告されている。さらに大腿四頭筋を中心に下肢全体や体幹の筋において求心性及び遠心性収縮を繰り返すことで筋発火率を高めることができる。そのため大腿骨近位部骨折の術後急性期のリハビリでも実施しやすく筋力にアプローチしやすいと考えられる。
よって本研究では術後早期の起立-着座練習を中心としたリハビリが筋力やADLの回復に与える影響を明らかにすることを目的にした。
【方法】
対象は大腿骨近位部骨折を受傷し当院で手術を施行した患者11名(年齢77.2±8.5歳,骨接合術7名,人工骨頭置換術4名)とした。除外基準は受傷前のADLで歩行動作を行なっていなかった者と重度の認知症等で従命がとれない者とした。介入方法は術後2日までは起立-着座練習を計30回,術後3~7日は計50回,術後8~14日は計100回とし,それに加え歩行器や平行棒,T-caneを用いた歩行練習を50~200mで可能な範囲で実施した。また起立-着座動作を自己にて行えない場合には適宜介助した。評価は術後介入2日目を初回評価,術後2週後を最終評価とした。評価項目は膝伸展筋力とBarthel index(BI)とした。また術後の炎症反応の評価項目としてC-reactive protein(CRP)値(mg/dl)と安静時及び運動時のVisual analog scale(VAS;cm)を採用した。膝伸展筋力の測定は患側と健側に対し多用途筋機能評価運動装置(BIODEX system4.0,BIODEX社)を用い,設定は等速性運動で60°/secの最大トルク体重比(Nm/kg×100)及び300°/secの総仕事量(J)とし,それぞれを筋出力と筋持久力の評価指標とした。統計学的解析は膝伸展筋力,CRP値,VASに対し対応のあるt検定を実施し,BIの各項目及び合計点に対してはWilcoxonの符号付順位検定を実施した。なお解析にはSPSS version19.0を使用し,有意水準を危険率5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に基づき,すべての対象者に対して書面にて研究の目的および測定に関する説明を行い,口頭と書面にて研究参加の同意を得て実施した。また当院倫理委員会の承認を得て実施した。
【結果】
膝伸展筋力は初回と最終評価との間に患側において60°/sec(51.3±20.1 vs 61.2±24.8)と300°/sec(93.5±44.6 vs 113.3±37.4)で有意な差を認めた(p<0.05)。BI(中央値,最小値-最大値)に関してはトイレ動作(0,0-10 vs 5,0-10),移動(10,0-10 vs 10,0-15),更衣(0,0-10 vs 5,0-10),合計点(45,5-80 vs 70,5-95)で初回と最終評価に有意な差を認めた(p<0.05)。またCRP値(5.4±3.0 vs 1.0±1.2)と安静時のVAS(1.7±1.4 vs 0.7±0.9),運動時のVAS(5.2±3.0 vs 3.6±2.1)においても初回と最終評価に有意な差を認めた(p<0.05)。その他の項目に対しては初回と最終評価との間に有意な差は認められなかった。
【考察】
本研究の結果より大腿骨近位部骨折患者において,術後の起立-着座練習を中心としたリハビリは炎症症状を悪化させずに筋力を改善しADLレベルを向上させることが示された。筋出力及び筋持久力が共に向上した要因として,CRP値とVASの結果より炎症反応が低下するといった治癒過程が基盤となっている。そのような状態に加え,起立-着座練習を繰り返し実施したことにより神経性の要因による筋出力の増加と軽負荷で頻回な刺激によって術後2週間という短期間でも筋出力と筋持久力の向上が得られた。また起立-着座練習はCKC運動の特性よりADLの向上にも寄与しやすくトイレ動作や移動動作が向上しBIの合計点も改善したと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究より大腿骨近位部骨折患者において,起立-着座練習を中心としたリハビリは急性期かつ2週間という短期間でも筋力を改善させ,それに伴いADLレベルも向上することが示唆された。したがって術後早期より離床が促される大腿骨近位部骨折の急性期リハビリでの起立-着座練習は炎症反応を増強させずに機能面を向上させるプログラムとして有効である。
近年,大腿骨近位部骨折に対する手術は発展してきており,術後早期から離床を進めることが一般化されてきている。また地域連携パスを用いて早期に急性期病院から回復期病院へ転院し,早期に在宅復帰を実現することが重要視されている。このような流れの中で,急性期病院においても早期よりADLの改善が求められている。
一方で術後は炎症反応が強く,著明な疼痛のために積極的にリハビリを進められない事や,炎症による筋力低下のため思うように身体機能を発揮できない場合がある。しかし,起立-着座練習は両脚での動作であり患側への荷重が歩行動作に比べ少なく,疼痛に応じて患側への荷重量を調節できる。また閉鎖運動連鎖(CKC)での動作であることからADLに直結しやすいと報告されている。さらに大腿四頭筋を中心に下肢全体や体幹の筋において求心性及び遠心性収縮を繰り返すことで筋発火率を高めることができる。そのため大腿骨近位部骨折の術後急性期のリハビリでも実施しやすく筋力にアプローチしやすいと考えられる。
よって本研究では術後早期の起立-着座練習を中心としたリハビリが筋力やADLの回復に与える影響を明らかにすることを目的にした。
【方法】
対象は大腿骨近位部骨折を受傷し当院で手術を施行した患者11名(年齢77.2±8.5歳,骨接合術7名,人工骨頭置換術4名)とした。除外基準は受傷前のADLで歩行動作を行なっていなかった者と重度の認知症等で従命がとれない者とした。介入方法は術後2日までは起立-着座練習を計30回,術後3~7日は計50回,術後8~14日は計100回とし,それに加え歩行器や平行棒,T-caneを用いた歩行練習を50~200mで可能な範囲で実施した。また起立-着座動作を自己にて行えない場合には適宜介助した。評価は術後介入2日目を初回評価,術後2週後を最終評価とした。評価項目は膝伸展筋力とBarthel index(BI)とした。また術後の炎症反応の評価項目としてC-reactive protein(CRP)値(mg/dl)と安静時及び運動時のVisual analog scale(VAS;cm)を採用した。膝伸展筋力の測定は患側と健側に対し多用途筋機能評価運動装置(BIODEX system4.0,BIODEX社)を用い,設定は等速性運動で60°/secの最大トルク体重比(Nm/kg×100)及び300°/secの総仕事量(J)とし,それぞれを筋出力と筋持久力の評価指標とした。統計学的解析は膝伸展筋力,CRP値,VASに対し対応のあるt検定を実施し,BIの各項目及び合計点に対してはWilcoxonの符号付順位検定を実施した。なお解析にはSPSS version19.0を使用し,有意水準を危険率5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に基づき,すべての対象者に対して書面にて研究の目的および測定に関する説明を行い,口頭と書面にて研究参加の同意を得て実施した。また当院倫理委員会の承認を得て実施した。
【結果】
膝伸展筋力は初回と最終評価との間に患側において60°/sec(51.3±20.1 vs 61.2±24.8)と300°/sec(93.5±44.6 vs 113.3±37.4)で有意な差を認めた(p<0.05)。BI(中央値,最小値-最大値)に関してはトイレ動作(0,0-10 vs 5,0-10),移動(10,0-10 vs 10,0-15),更衣(0,0-10 vs 5,0-10),合計点(45,5-80 vs 70,5-95)で初回と最終評価に有意な差を認めた(p<0.05)。またCRP値(5.4±3.0 vs 1.0±1.2)と安静時のVAS(1.7±1.4 vs 0.7±0.9),運動時のVAS(5.2±3.0 vs 3.6±2.1)においても初回と最終評価に有意な差を認めた(p<0.05)。その他の項目に対しては初回と最終評価との間に有意な差は認められなかった。
【考察】
本研究の結果より大腿骨近位部骨折患者において,術後の起立-着座練習を中心としたリハビリは炎症症状を悪化させずに筋力を改善しADLレベルを向上させることが示された。筋出力及び筋持久力が共に向上した要因として,CRP値とVASの結果より炎症反応が低下するといった治癒過程が基盤となっている。そのような状態に加え,起立-着座練習を繰り返し実施したことにより神経性の要因による筋出力の増加と軽負荷で頻回な刺激によって術後2週間という短期間でも筋出力と筋持久力の向上が得られた。また起立-着座練習はCKC運動の特性よりADLの向上にも寄与しやすくトイレ動作や移動動作が向上しBIの合計点も改善したと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究より大腿骨近位部骨折患者において,起立-着座練習を中心としたリハビリは急性期かつ2週間という短期間でも筋力を改善させ,それに伴いADLレベルも向上することが示唆された。したがって術後早期より離床が促される大腿骨近位部骨折の急性期リハビリでの起立-着座練習は炎症反応を増強させずに機能面を向上させるプログラムとして有効である。