[0922] 精神疾患を合併した大腿骨頚部骨折術後患者のアウトカム
Keywords:精神疾患, 大腿骨頚部骨折, 機能的自立度評価法(FIM)
【はじめに,目的】
高齢者が寝たきりになる原因として,最も多い疾患の一つに大腿骨頚部骨折が挙げられる。移動手段の獲得,早期離床,早期退院のために大腿骨頚部骨折術後の患者に対して早期のリハビリテーション(以下,リハビリ)が重要なのは一般的にも周知の事実であると言ってもよいだろう。先行研究では早期リハビリが在院日数の短縮に効果的との報告があり,医療費削減のためにも推奨されている。大腿骨頚部骨折のアウトカム評価の研究においては認知症を合併している場合は歩行再獲得の影響因子となるとされている一方で,認知症以外の精神疾患を罹患している場合は除外対象となることが多く,不明な点が多い。そこで,認知症を含む精神疾患を合併した大腿骨頚部骨折術後患者のアウトカムについて普遍的な結果を得ていくために,データベースを作成し多施設で統合・分析する取り組みを始めた。今回は術後日数とアウトカムの相関関係を検討したので若干の考察を加えて報告する。
【方法】
平成19年1月~25年9月の期間に精神科病院にて身体合併症を持つ患者のうち,大腿骨頚部骨折を受傷して手術を施行し,理学療法を行った128名のうち,データに欠損がある患者,現在入院を継続している患者,脳血管疾患およびパーキンソン病,てんかんなどを合併している患者を除いた62名を対象とした。方法は精神疾患名,身体疾患名,年齢,性別,術後から理学療法開始までの期間を調査。機能的自立度評価法(以下,FIM)にて理学療法開始時と終了時に評価をした。アウトカムの指標はFIMでの総利得,終了時の歩行,終了から開始時の歩行を差し引いた利得点(以下,歩行利得点)とし,術後からの開始期間との相関係数を求めた。開始時,終了時のFIM総得点は対応のあるt検定を実施し,5%未満の危険率を有意とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はデータベースに参加した各施設の倫理委員会の承認を得て実施された。
【結果】
精神疾患名としては認知症:7名,統合失調症:29名,うつ病(双極性障害含む):13名,その他(アルコール依存症,発達遅滞,器質性精神障害等):13名。身体疾患名は大腿骨頚部骨折:46名,大腿骨転子部骨折:16名。年齢:69.4±11.5歳。男性:18名,女性:44名。術後から理学療法開始までの期間:44.0±64.3日であった。FIM総利得点:21.2±20.9点,終了時の歩行点:4.9±1.9点,歩行利得点:2.5±2.1点であった。各アウトカム指標と術後から理学療法開始までの期間では相関は認められなかった。開始時FIM:61.3±25.7点と終了時FIM:83.9±28.2点間で有意に終了時FIMが高い結果となった。(p<0.000)
【考察】
今回の調査ではFIM総得点で有意な改善が得られた。回復期リハビリ病棟入退院時のFIMを比較した先行研究と比べても同程度の結果であり,精神疾患を合併した大腿骨頚部骨折術後の患者に対しての理学療法の効果が認められたと考える。しかし,理学療法開始までの期間とアウトカムについての相関は認められなかった。歩行能力の再獲得を指標とした先行研究と比べると開始までの期間が長くばらつきも大きい結果であったことも理由の一つであると思われる。また,この要因としては,理学療法を実施できる精神科病院が限られており,ケースワークや転院調整に時間がかかりやすいことも影響していると推察された。また,精神疾患の症状により介入に対する理解が得られず拒否が続き開始時期が遅れてしまうことや,認知機能の低下により危険回避が困難になるなどの理由で,見守り歩行レベル以上の獲得に時間がかかることも数値のばらつきの大きさなどに影響していると思われる。先行研究により,アウトカムを不良にする影響因子の一つとして,認知症の有無が挙げられているが,今回の調査では認知症は最も少なく,他の精神疾患が多い。特に統合失調症が29名と最も多かったことが,アウトカムを良好にする方向へ働いていたとも考えられ,この部分には,精神科病院の特徴が現れた。今後は各精神疾患の間でのアウトカムの比較や,リハ実施期間などにおいての検討も必要である。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の意義は,認知症以外の精神疾患を合併した大腿骨頚部骨折術後の患者に対しての理学療法効果を示した点にある。また,精神疾患を持つ患者に対してリハビリを提供できる施設は少ない為,量的な研究が行われづらい背景があった。これに対し施設を跨いでデータを統合することでより普遍性及び精度の高い研究を実施できるようになったことについても理学療法研究としての意義があると考えられる。
高齢者が寝たきりになる原因として,最も多い疾患の一つに大腿骨頚部骨折が挙げられる。移動手段の獲得,早期離床,早期退院のために大腿骨頚部骨折術後の患者に対して早期のリハビリテーション(以下,リハビリ)が重要なのは一般的にも周知の事実であると言ってもよいだろう。先行研究では早期リハビリが在院日数の短縮に効果的との報告があり,医療費削減のためにも推奨されている。大腿骨頚部骨折のアウトカム評価の研究においては認知症を合併している場合は歩行再獲得の影響因子となるとされている一方で,認知症以外の精神疾患を罹患している場合は除外対象となることが多く,不明な点が多い。そこで,認知症を含む精神疾患を合併した大腿骨頚部骨折術後患者のアウトカムについて普遍的な結果を得ていくために,データベースを作成し多施設で統合・分析する取り組みを始めた。今回は術後日数とアウトカムの相関関係を検討したので若干の考察を加えて報告する。
【方法】
平成19年1月~25年9月の期間に精神科病院にて身体合併症を持つ患者のうち,大腿骨頚部骨折を受傷して手術を施行し,理学療法を行った128名のうち,データに欠損がある患者,現在入院を継続している患者,脳血管疾患およびパーキンソン病,てんかんなどを合併している患者を除いた62名を対象とした。方法は精神疾患名,身体疾患名,年齢,性別,術後から理学療法開始までの期間を調査。機能的自立度評価法(以下,FIM)にて理学療法開始時と終了時に評価をした。アウトカムの指標はFIMでの総利得,終了時の歩行,終了から開始時の歩行を差し引いた利得点(以下,歩行利得点)とし,術後からの開始期間との相関係数を求めた。開始時,終了時のFIM総得点は対応のあるt検定を実施し,5%未満の危険率を有意とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はデータベースに参加した各施設の倫理委員会の承認を得て実施された。
【結果】
精神疾患名としては認知症:7名,統合失調症:29名,うつ病(双極性障害含む):13名,その他(アルコール依存症,発達遅滞,器質性精神障害等):13名。身体疾患名は大腿骨頚部骨折:46名,大腿骨転子部骨折:16名。年齢:69.4±11.5歳。男性:18名,女性:44名。術後から理学療法開始までの期間:44.0±64.3日であった。FIM総利得点:21.2±20.9点,終了時の歩行点:4.9±1.9点,歩行利得点:2.5±2.1点であった。各アウトカム指標と術後から理学療法開始までの期間では相関は認められなかった。開始時FIM:61.3±25.7点と終了時FIM:83.9±28.2点間で有意に終了時FIMが高い結果となった。(p<0.000)
【考察】
今回の調査ではFIM総得点で有意な改善が得られた。回復期リハビリ病棟入退院時のFIMを比較した先行研究と比べても同程度の結果であり,精神疾患を合併した大腿骨頚部骨折術後の患者に対しての理学療法の効果が認められたと考える。しかし,理学療法開始までの期間とアウトカムについての相関は認められなかった。歩行能力の再獲得を指標とした先行研究と比べると開始までの期間が長くばらつきも大きい結果であったことも理由の一つであると思われる。また,この要因としては,理学療法を実施できる精神科病院が限られており,ケースワークや転院調整に時間がかかりやすいことも影響していると推察された。また,精神疾患の症状により介入に対する理解が得られず拒否が続き開始時期が遅れてしまうことや,認知機能の低下により危険回避が困難になるなどの理由で,見守り歩行レベル以上の獲得に時間がかかることも数値のばらつきの大きさなどに影響していると思われる。先行研究により,アウトカムを不良にする影響因子の一つとして,認知症の有無が挙げられているが,今回の調査では認知症は最も少なく,他の精神疾患が多い。特に統合失調症が29名と最も多かったことが,アウトカムを良好にする方向へ働いていたとも考えられ,この部分には,精神科病院の特徴が現れた。今後は各精神疾患の間でのアウトカムの比較や,リハ実施期間などにおいての検討も必要である。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の意義は,認知症以外の精神疾患を合併した大腿骨頚部骨折術後の患者に対しての理学療法効果を示した点にある。また,精神疾患を持つ患者に対してリハビリを提供できる施設は少ない為,量的な研究が行われづらい背景があった。これに対し施設を跨いでデータを統合することでより普遍性及び精度の高い研究を実施できるようになったことについても理学療法研究としての意義があると考えられる。