[0933] 下肢筋群の活動量と下肢のlateralizationの関係
キーワード:lateralization, 側方リーチ動作, 下肢筋活動量
【はじめに,目的】ヒトの身体は,利き手や利き足のように機能的な非対称性が報告されている。木村らはボールを蹴る足を機能脚とし,走り幅跳びの踏切する足を支持脚としている。臼井らは人間本来の支持脚は左であるとし,この機能的な非対称性を下肢のlateralization(一側優位性)と報告をしている。側方リーチ時の立位バランス制御において股関節戦略が重要であると言われており,下肢のlateralizationの関係性があるのではないかと考えた。また,理学療法において上肢の利き手動作トレーニングは重要視されているが,下肢においては機能脚,支持脚を意識してのトレーニングはなされていない。今回,側方リーチ時の股関節戦略に関与していると考える左右の中殿筋,薄筋,大腿直筋の活動を筋電図にて測定を行い,左右の側方リーチ時における各筋の活動の違いを側方重心移動距離(以下,重心距離)と合わせて,各項目の左右差を比較することにより下肢筋群と下肢のlateralizationとの関係性を検討した。
【方法】対象は平衡機能,身体機能に問題のない健常成人男性10名,年齢は平均21.8±0.9歳,身長は平均168.1±4.4cm,体重は平均64.2±12.2kg,足幅は右足8.6±0.5 cm,左足8.9±0.5cmであった。支持脚は,全対象者が左であった。リーチ動作の方法は閉脚立位での側方ファンクショナル・リーチを用いた。リーチ方向の上肢90°外転位で,反対側の上肢が体側から離れないように指示し,5秒間にて側方へ移動し,足底が接地した最大移動位置で5秒間保持させた。重心距離の測定はANIMA社製グラビコーダG-620を用い,閉脚立位時の両足間の位置から最大移動時の横軸重心点までの距離を重心距離とし,数値を足幅比にて算出した。筋電図の測定にはキッセイコムテック社製Vital Recorder2,解析にはBIMUTAS-Videoを用いた。電極位置を中殿筋は腸骨稜と大転子を結ぶ線の近位1/3,薄筋は恥骨と大腿骨内側顆を結ぶ線の中央,大腿直筋は下前腸骨棘と膝蓋骨上縁を結ぶ線の中央とした。測定した筋電図は全波整流を行い,最初と最後の1秒を除いた3秒間の積分値を求め,最大随意収縮時の積分値にて正規化し,百分率した(以下,%MVC)。統計処理にはSPSS version 17.0を用いた。Wilcoxonの符号付順位和検定にて,重心距離,リーチ動作時の%MVCの左右比較を行った。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】全ての被験者には口頭および文章にて研究の趣旨を十分に説明し,同意を得たのちに実験を行った。
【結果】各項目の平均は,右重心距離は平均0.28±0.17,左重心距離は平均0.46±0.12であった。右リーチ動作時の%MVCは,右中殿筋は平均9.2±4.0%,左中殿筋は平均18.4±9.9%,右薄筋は平均10.1±6.1%,左薄筋は平均16.9±7.1%,右大腿直筋は平均8.1±3.3%,左大腿直筋は平均13.2±8.1%であった。左リーチ動作時の%MVCは,右中殿筋は平均8.1±4.8%,左中殿筋は平均17.0±5.8%,右薄筋は平均11.4±8.1%,左薄筋は平均10.5±7.0%,右大腿直筋は平均16.2±13.1%,左大腿直筋は平均9.8±5.5%であった。重心距離において左が有意に大きかった(p<0.05)。リーチ動作時の%MVCにおいて左中殿筋が左右リーチともに右中殿筋より有意に大きかった(p<0.05)。その他においては有意差を認めなかった。
【考察】今回の結果から,側方リーチ動作時の左右の薄筋,大腿直筋の%MVCにおいて有意差を認めなかった。これは,左右へのリーチ動作時の薄筋,大腿直筋は,左下肢の支持脚としてのlateralizationへの関与は少ないと考えられる。中殿筋において,左右のリーチ動作ともに左中殿筋の%MVCが有意に大きくなった。左右の重心距離において左が有意に大きくなった。これは,左リーチ動作時の左中殿筋は重心を左側へ移動させながらの遠心性収縮により%MVCが大きく,右リーチ動作時の左中殿筋は重心を左側へ残しながらの遠心性収縮により%MVCが大きくなっており,左中殿筋が重心位置の制御を行い,左下肢の支持脚として機能し,左への重心距離が大きかったのではないかと考えられる。以上より,側方リーチ動作において左中殿筋の活動が,支持脚としてのlateralizationへの関与が見られた。今後は,機能脚としての下肢筋群の筋活動量のlateralizationへの関係性,支持脚トレーニングと機能脚トレーニングでの側方リーチ動作時の違いについての検討も併せて研究していく必要性が感じられた。
【理学療法学研究としての意義】今回の研究で,左右の側方リーチ動作において左中殿筋の筋活動における股関節戦略が重要であることが考えられ,左中殿筋の機能低下が側方への転倒リスクを高める可能性があると思われる。
【方法】対象は平衡機能,身体機能に問題のない健常成人男性10名,年齢は平均21.8±0.9歳,身長は平均168.1±4.4cm,体重は平均64.2±12.2kg,足幅は右足8.6±0.5 cm,左足8.9±0.5cmであった。支持脚は,全対象者が左であった。リーチ動作の方法は閉脚立位での側方ファンクショナル・リーチを用いた。リーチ方向の上肢90°外転位で,反対側の上肢が体側から離れないように指示し,5秒間にて側方へ移動し,足底が接地した最大移動位置で5秒間保持させた。重心距離の測定はANIMA社製グラビコーダG-620を用い,閉脚立位時の両足間の位置から最大移動時の横軸重心点までの距離を重心距離とし,数値を足幅比にて算出した。筋電図の測定にはキッセイコムテック社製Vital Recorder2,解析にはBIMUTAS-Videoを用いた。電極位置を中殿筋は腸骨稜と大転子を結ぶ線の近位1/3,薄筋は恥骨と大腿骨内側顆を結ぶ線の中央,大腿直筋は下前腸骨棘と膝蓋骨上縁を結ぶ線の中央とした。測定した筋電図は全波整流を行い,最初と最後の1秒を除いた3秒間の積分値を求め,最大随意収縮時の積分値にて正規化し,百分率した(以下,%MVC)。統計処理にはSPSS version 17.0を用いた。Wilcoxonの符号付順位和検定にて,重心距離,リーチ動作時の%MVCの左右比較を行った。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】全ての被験者には口頭および文章にて研究の趣旨を十分に説明し,同意を得たのちに実験を行った。
【結果】各項目の平均は,右重心距離は平均0.28±0.17,左重心距離は平均0.46±0.12であった。右リーチ動作時の%MVCは,右中殿筋は平均9.2±4.0%,左中殿筋は平均18.4±9.9%,右薄筋は平均10.1±6.1%,左薄筋は平均16.9±7.1%,右大腿直筋は平均8.1±3.3%,左大腿直筋は平均13.2±8.1%であった。左リーチ動作時の%MVCは,右中殿筋は平均8.1±4.8%,左中殿筋は平均17.0±5.8%,右薄筋は平均11.4±8.1%,左薄筋は平均10.5±7.0%,右大腿直筋は平均16.2±13.1%,左大腿直筋は平均9.8±5.5%であった。重心距離において左が有意に大きかった(p<0.05)。リーチ動作時の%MVCにおいて左中殿筋が左右リーチともに右中殿筋より有意に大きかった(p<0.05)。その他においては有意差を認めなかった。
【考察】今回の結果から,側方リーチ動作時の左右の薄筋,大腿直筋の%MVCにおいて有意差を認めなかった。これは,左右へのリーチ動作時の薄筋,大腿直筋は,左下肢の支持脚としてのlateralizationへの関与は少ないと考えられる。中殿筋において,左右のリーチ動作ともに左中殿筋の%MVCが有意に大きくなった。左右の重心距離において左が有意に大きくなった。これは,左リーチ動作時の左中殿筋は重心を左側へ移動させながらの遠心性収縮により%MVCが大きく,右リーチ動作時の左中殿筋は重心を左側へ残しながらの遠心性収縮により%MVCが大きくなっており,左中殿筋が重心位置の制御を行い,左下肢の支持脚として機能し,左への重心距離が大きかったのではないかと考えられる。以上より,側方リーチ動作において左中殿筋の活動が,支持脚としてのlateralizationへの関与が見られた。今後は,機能脚としての下肢筋群の筋活動量のlateralizationへの関係性,支持脚トレーニングと機能脚トレーニングでの側方リーチ動作時の違いについての検討も併せて研究していく必要性が感じられた。
【理学療法学研究としての意義】今回の研究で,左右の側方リーチ動作において左中殿筋の筋活動における股関節戦略が重要であることが考えられ,左中殿筋の機能低下が側方への転倒リスクを高める可能性があると思われる。