第49回日本理学療法学術大会

Presentation information

発表演題 ポスター » 基礎理学療法 ポスター

身体運動学11

Sat. May 31, 2014 1:00 PM - 1:50 PM ポスター会場 (基礎)

座長:石田弘(川崎医療福祉大学リハビリテーション学科)

基礎 ポスター

[0935] 三次元動作分析装置を用いたサッカーの熟練者と非熟練者のインフロントキック動作の相違

奥秋拓未1, 上野亘2, 田代宙3, 武田要4 (1.厚生中央病院リハビリテーション科, 2.昭和大学藤が丘リハビリテーション病院リハビリテーション部, 3.七沢リハビリテーション病院脳血管センター, 4.関西福祉科学大学保健医療学部)

Keywords:サッカー, 三次元動作分析装置, 床反力

【はじめに,目的】
近年,理学療法士のスポーツ障害予防に対する指導が増えてきている。サッカーでの障害はグローインペイン症候群などが見られ,フォームからの指導も重要となる。先行研究で,熟練者は非熟練者に比べ振り出す際,初めに股関節屈曲が起こり,その後膝関節を伸展し蹴り脚を鞭のように振り出すという報告がある。競技場面では,キック動作時の軸足の支持性も重要であるが,軸足に視点を置いた先行研究は見られなかった。本研究ではキック動作での軸足の運動要素を含めた熟練者,非熟練者の軸足踏み込み時の床反力,下肢関節モーメント,各関節角度の相違について検討した。
【方法】
対象者は全員右利きの健常成人男性16名,熟練者は中学・高校で部活,クラブでサッカーの指導を受けた者,非熟練者は今まで部活,クラブでサッカーの指導を受けていない者とした。(平均年齢21.1±1.0歳,平均身長172.1.±2.7cm,平均体重63.3±6.5kg)。下肢,腰部に特記すべき既往のあるものは除外した。
測定機器は,三次元動作解析システムVICONNEXUS(VICON社製),床反力計(ANTI社製)4枚,サンプリング周波数200Hzの赤外線カメラ9台を用いた。赤外線反射マーカーは左右計15か所に貼付した。使用したボールはsvolmeフットサルボールDescarga(svolme社製)を用いた。
課題は,静止立位から2歩の助走を取り,インフロントキックでボールを右足で全力で前方へ蹴る動作とした。初期の立ち位置は指定せず,本人が最も蹴りやすい立ち位置とした。計測前に3回キック動作を練習し,その後キック動作を3回計測した。抽出データは,①軸足踏み込み時:振り足の股関節伸展,膝関節屈曲角度の最大値。軸足の床反力(左右成分)の最大値とそのときの床反力(前後・鉛直成分),および各関節角度②振り出し初期:振り足の股関節屈曲,膝関節伸展モーメント最大値③振り出し後期:振り足股関節内転モーメント最大値。軸足股関節外転モーメント最大値とし,3施行での各パラメータの平均値を産出した。関節モーメントは身長と体重の積で,床反力は体重で正規化した。熟練者と非熟練者の各パラメータ比較には,Mann-Whitney検定を用い分析した(p<0.05)。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,被験者に対し口頭と書面にて本研究の説明と同意を得た上で測定を行った。
【結果】
軸足踏み込み時において,熟練者では振り足の股関節伸展角度,膝関節屈曲角度が有意に増加し(p<0.05),軸足の外方向への床反力左右成分が有意に増加した(非熟練者:27.9±11.8N/kg,熟練者:63.5±12.6N/kg,p<0.05)。床反力の前後・鉛直成分,各関節角度には有意な差はみられなかった。振り出し初期の振り足股関節屈曲モーメントでは熟練者で有意に増加し(p<0.05),膝関節伸展モーメントでは有意な差はみられなかった。振り出し後期では,熟練者で振り足股関節内転モーメントが有意に増加し(p<0.05),軸足股関節外転モーメントが有意に増加した(非熟練者:10.6±2.1Nm/m・kg,熟練者:15.6±1.7Nm/m・kg,p<0.05)。
【考察】
熟練者では踏み込み時の振り足の股関節伸展,膝関節屈曲角度が増加した。振り出し初期の股関節屈曲モーメントの増加,振り出し後期の股関節内転モーメントの増加もみられた。これらから,熟練者では振り足の力が増加しているため,より大きな遠心力がかかると推察される。そのため,姿勢を維持するには遠心力に拮抗する軸足の外方向への力が必要となる。今回の研究では熟練者において,軸足踏み込み時の床反力左右成分が外方向に有意に増加した。関節モーメントについては,軸足股関節外転モーメントの最大値が非熟練者に比べ,熟練者では有意に増加する結果となった。床反力左右成分が外方向に有意に増加した要因として,遠心力に対する拮抗力として踏み込み時に軸足を内方向に着くことで,外方向への床反力を発生させ,姿勢を維持していると考える。そのため,熟練者はより大きな遠心力を生み出せるため,軸足にかかる股関節外転モーメントも増加したと考えられる。
本研究の限界として,遠心力に関係すると思われる回旋要素のデータを得られなかった。また,フォームの違いと障害の関連性については,今後検討する必要性がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は理学療法士がサッカーでの障害予防の指導において,キック動作時に起こる障害予防,パフォーマンスの向上のための基礎的データとなるものと考える。