[0947] 棘上筋腱の退行性変化は腱板損傷メカニズムの一因になり得るか
Keywords:棘上筋腱, 加齢, コラーゲン
【はじめに,目的】
肩腱板損傷は,臨床的に高頻度に認める加齢性腱障害である。肩腱板損傷の主な病因はメカニカルストレスに加え,加齢や喫煙といった腱自身の生物学的な影響も大きいことが報告されている(Kaux,2012)。すなわち,インピンジメントやoveruseといったメカニカルストレスが腱板損傷に深く関与していることは周知の通りだが,腱板構成を構成する腱や腱骨付着部,軟骨組織の退行性変性の影響は不明な点が多い。特に,関節を構成する上で中心的な組成タンパクであるコラーゲンについて検討された研究は少ない。本研究は,腱板の中でも棘上筋の腱および腱骨付着部,関節軟骨に着目し,免疫組織学的,分子生物学的分析法を用いて加齢的変化を検証することで腱板損傷メカニズムの一助とすることを目的とした。
【方法】
Wistar系雄性ラット(10週齢,6ヶ月齢,2年齢)21匹を用い,各週齢に達するまで同一条件下で飼育した(昼夜12時間サイクル,飼料は自由摂取)。免疫組織学的観察では,棘上筋腱骨付着部を採取し,浸潤固定(4%PFA溶液,48時間)および中性脱灰(10%EDTA溶液,pH7.3)を経て,腱,骨腱付着部,関節軟骨を免疫蛍光法でコラーゲンの局在性を観察した。一次抗体はI型,II型,III型コラーゲン(1:500で希釈)とし,二次抗体はDylight 488(1:250で希釈)を利用し,蛍光顕微鏡で観察した。また,分子生物学的分析には棘上筋腱を採取し,トータルRNA抽出およびcDNA合成後,リアルタイムPCR法を用い,コラーゲンに関連するターゲット遺伝子(COL1A1・COL2A1・COL3A1)のmRNA発現量を比較Ct法(内在性コントロール:β-actin)によって解析した。統計解析は一元配置分散分析,後検定はTukey法を採用した(有意水準5%未満)。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究内容は,本大学動物実験倫理委員会による承認を受けて実施した。
【結果】
腱実質部~腱骨付着部にかけて,I型コラーゲンが濃染され,腱骨付着部の一部および上腕骨関節軟骨でII型コラーゲンが観察された。線維性軟骨である腱骨付着部のI型コラーゲンで染色性に個体差はあるものの,加齢に伴う顕著な差は認めなかった。一方で,関節軟骨はII型コラーゲンが濃染され,染色性に差は認めなかったが,加齢に伴い軟骨細胞の減少や軟骨表層の亀裂が観察された。生物分子学的分析では,10週齢を1とした場合にCOL1A,COL3A1 mRNA発現量はそれぞれ6ヶ月齢で0.60倍(p<0.05),0.64倍(p<0.05),2年齢では0.25倍(p<0.05),0.20倍(p<0.05)と有意に減少した。COL2A1に有意差は認めなかった。
【考察】
腱骨付着部はenthesisともいわれ,腱に強い牽引力が様々な角度で作用しても断裂しないよう線維軟骨を介して骨に付着している。一般に線維軟骨はI型コラーゲンで構成され,関節軟骨などの硝子軟骨はII型コラーゲンの組成である。このため,本研究における免疫蛍光染色結果はタイプ別コラーゲンの局在性を示している結果である。これらの結果から,コラーゲンの染色性や局在性に加齢による明らかな差を観察することはできなかった。これは加齢だけではenthesisの強靭な構成要素に及ぼす影響は小さいことを示唆し,肩腱板損傷には先行研究同様に何らかの機械的な要素も関連していることを示唆する結果である。一方で,mRNAレベルの検証では,加齢に伴ってCOL1A1は有意な減少を示した。I型コラーゲンに関連するmRNAやタンパク量は腱の力学的な強度と相関し,加齢によって量・強度ともに減少することが報告されている。すなわち,mRNAレベルであるものの,COL1A1発現量の減少は加齢によるコラーゲン代謝回転能力の減少を示し,加齢がコラーゲン量や力学的要素に影響を与えていることで腱板損傷を惹起させる一因である可能性を示唆する。本研究で示したように組織学的な退行性変化よりもmRNAレベルの生化学的な退行性変化が顕著であることは,腱板の損傷には加齢に伴う組織自体の変性に加えて,メカニカルストレスといった物理的な影響が重要であることを示す根拠となり得る。今後,肩関節構成体のトータルコラーゲン量や力学強度,最終糖化産物や老化架橋といった詳しい分析についても今後検証する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】本研究は分析が寡少である肩関節正常組織の調査,退行性疾患である腱板損傷に関連する組織の退行性変化を調査し,新規性を得た。退行性変性のみでは損傷は少ない可能性があり,理学療法評価・治療介入する上で運動機能障害から生じる腱板に対する機械的ストレスについても着目する必要がある。
肩腱板損傷は,臨床的に高頻度に認める加齢性腱障害である。肩腱板損傷の主な病因はメカニカルストレスに加え,加齢や喫煙といった腱自身の生物学的な影響も大きいことが報告されている(Kaux,2012)。すなわち,インピンジメントやoveruseといったメカニカルストレスが腱板損傷に深く関与していることは周知の通りだが,腱板構成を構成する腱や腱骨付着部,軟骨組織の退行性変性の影響は不明な点が多い。特に,関節を構成する上で中心的な組成タンパクであるコラーゲンについて検討された研究は少ない。本研究は,腱板の中でも棘上筋の腱および腱骨付着部,関節軟骨に着目し,免疫組織学的,分子生物学的分析法を用いて加齢的変化を検証することで腱板損傷メカニズムの一助とすることを目的とした。
【方法】
Wistar系雄性ラット(10週齢,6ヶ月齢,2年齢)21匹を用い,各週齢に達するまで同一条件下で飼育した(昼夜12時間サイクル,飼料は自由摂取)。免疫組織学的観察では,棘上筋腱骨付着部を採取し,浸潤固定(4%PFA溶液,48時間)および中性脱灰(10%EDTA溶液,pH7.3)を経て,腱,骨腱付着部,関節軟骨を免疫蛍光法でコラーゲンの局在性を観察した。一次抗体はI型,II型,III型コラーゲン(1:500で希釈)とし,二次抗体はDylight 488(1:250で希釈)を利用し,蛍光顕微鏡で観察した。また,分子生物学的分析には棘上筋腱を採取し,トータルRNA抽出およびcDNA合成後,リアルタイムPCR法を用い,コラーゲンに関連するターゲット遺伝子(COL1A1・COL2A1・COL3A1)のmRNA発現量を比較Ct法(内在性コントロール:β-actin)によって解析した。統計解析は一元配置分散分析,後検定はTukey法を採用した(有意水準5%未満)。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究内容は,本大学動物実験倫理委員会による承認を受けて実施した。
【結果】
腱実質部~腱骨付着部にかけて,I型コラーゲンが濃染され,腱骨付着部の一部および上腕骨関節軟骨でII型コラーゲンが観察された。線維性軟骨である腱骨付着部のI型コラーゲンで染色性に個体差はあるものの,加齢に伴う顕著な差は認めなかった。一方で,関節軟骨はII型コラーゲンが濃染され,染色性に差は認めなかったが,加齢に伴い軟骨細胞の減少や軟骨表層の亀裂が観察された。生物分子学的分析では,10週齢を1とした場合にCOL1A,COL3A1 mRNA発現量はそれぞれ6ヶ月齢で0.60倍(p<0.05),0.64倍(p<0.05),2年齢では0.25倍(p<0.05),0.20倍(p<0.05)と有意に減少した。COL2A1に有意差は認めなかった。
【考察】
腱骨付着部はenthesisともいわれ,腱に強い牽引力が様々な角度で作用しても断裂しないよう線維軟骨を介して骨に付着している。一般に線維軟骨はI型コラーゲンで構成され,関節軟骨などの硝子軟骨はII型コラーゲンの組成である。このため,本研究における免疫蛍光染色結果はタイプ別コラーゲンの局在性を示している結果である。これらの結果から,コラーゲンの染色性や局在性に加齢による明らかな差を観察することはできなかった。これは加齢だけではenthesisの強靭な構成要素に及ぼす影響は小さいことを示唆し,肩腱板損傷には先行研究同様に何らかの機械的な要素も関連していることを示唆する結果である。一方で,mRNAレベルの検証では,加齢に伴ってCOL1A1は有意な減少を示した。I型コラーゲンに関連するmRNAやタンパク量は腱の力学的な強度と相関し,加齢によって量・強度ともに減少することが報告されている。すなわち,mRNAレベルであるものの,COL1A1発現量の減少は加齢によるコラーゲン代謝回転能力の減少を示し,加齢がコラーゲン量や力学的要素に影響を与えていることで腱板損傷を惹起させる一因である可能性を示唆する。本研究で示したように組織学的な退行性変化よりもmRNAレベルの生化学的な退行性変化が顕著であることは,腱板の損傷には加齢に伴う組織自体の変性に加えて,メカニカルストレスといった物理的な影響が重要であることを示す根拠となり得る。今後,肩関節構成体のトータルコラーゲン量や力学強度,最終糖化産物や老化架橋といった詳しい分析についても今後検証する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】本研究は分析が寡少である肩関節正常組織の調査,退行性疾患である腱板損傷に関連する組織の退行性変化を調査し,新規性を得た。退行性変性のみでは損傷は少ない可能性があり,理学療法評価・治療介入する上で運動機能障害から生じる腱板に対する機械的ストレスについても着目する必要がある。