[0946] 除神経がラット有毛型踵部皮膚の褥瘡形成に及ぼす影響
Keywords:褥瘡, 除神経, 表皮
【はじめに,目的】我々は以前に,ラット坐骨神経の切断後の踵部に褥瘡様皮膚損傷が形成されることを発見した(小形ら,2007)。その後,同動物の飼育に工夫を加えて褥瘡形成の実験モデルとして提唱した(長井ら,2010)。しかしながら,褥瘡様皮膚損傷の形成機序の詳細は未解明のままであった。褥瘡形成には,毛細血管の破壊に伴って阻血が生じ,組織壊死を招くことが関係すると報告されている(Peirce et al., 2000)。また,坐骨神経切断により手掌型皮膚の表皮は菲薄することが報告されている(Huang et al., 1999)。よって今回,坐骨神経切断そのものが有毛型皮膚に与える影響を調べ,さらに末梢での毛細血管の変化を観察することとした。これらによって,本モデル動物に引き起こされる褥瘡様皮膚損傷の形成機序を検討した。
【方法】12週齢Wistar系雄性ラットを用いた。対照群(n=5)と褥瘡モデル作成する群(褥瘡群;n=25)を作成した。褥瘡モデルは長井ら(2010)の方法に倣い,両坐骨神経後に,踵部を常時接地するように軽度尾部懸垂を施し,片側下腿に錘負荷を行った。さらに坐骨神経切断による皮膚への影響を見るため,踵部を非荷重にするよう尾部懸垂を施す群(除神経群;n=25)を作成した。さらに,尾部懸垂の影響を見るため,坐骨神経を切断せず尾部懸垂を行う群(非荷重群;n=25)も作成した。上記条件下で飼育後1,3,5,7,14日の時点において,屠殺後に踵部皮膚を切り出し,冷アセトンを用いて凍結した。クリオスタットを用い12µmの縦断切片を作製し,Hematoxylin-Eosin染色を施して形態学的観察を行うとともに,Alkaline Phosphatase染色を試みて,毛細血管の分布を観察し,単位面積当たりの毛細血管数を数えた。
【倫理的配慮,説明と同意】全ての実験は所属機関における動物実験に関する指針に従い,動物実験委員会の許可を得た上で実施した。
【結果】褥瘡群の表皮は1日目から3日目まで圧迫部直下で厚みを増し,基底層や有棘層で細胞の増加が観察された。その後7日目まで皮膚に変化はみられなかった。また,3日目から14日目まで褥瘡群の真皮の膠原線維は減少していた。褥瘡群の表皮は7日目以降厚さが減少し,14日目において表皮が消失し,開放創の形成に至った。除神経群では,飼育開始3日目から5日目まで表皮の厚さが減少し,その後14日目までは変化はみられなかった。非荷重群では皮膚に変化は認められなかった。褥瘡群の真皮最表層の毛細血管数は3日目から減少し始め,14日目に毛細血管が消失した。除神経群の同部の毛細血管は飼育後7日目に減少し,その後14日目まで変化はみられなかった。非荷重群は毛細血管数に変化は見られなかった。
【考察】非荷重群では皮膚に影響が無かったが,除神経群では表皮が菲薄化した。すなわち,除神経により有毛型皮膚でも表皮の菲薄化が生じることが明らかになった。除神経群の表皮の菲薄化は3日目から起こり,7日目になると真皮最上層の毛細血管が減少した。血管を支配する交感神経は動脈壁を走行するため,坐骨神経切断では損傷されない。よって7日目以降の毛細血管数減少は,3日目から起こっている表皮の菲薄化に応じて細胞の代謝量が減少し,それに伴う反応として起こったものであろうと思われる。一方,坐骨神経切断に錘負荷を加えた褥瘡群では,3日目から圧迫部直下で表皮は肥厚したが,これは物理的刺激に対する反応であろうと思われる。しかし,同時期に褥瘡群では真皮最上層の毛細血管数が減少し,さらに同時期に,褥瘡群の真皮は膠原線維が減少していた。よって,真皮の構造が破綻した結果,真皮内の毛細血管が減少した可能性が示唆された。ヒト褥瘡の形成機序において,外力により軟部組織の血流が持続的に低下し,阻血状態に陥る事が報告されている(Peirce et al., 2000)。本褥瘡モデルでは,3日目以降に起こる表皮の肥厚化に伴い細胞の代謝需要が増加する一方で,同じ時期に真皮最上層の毛細血管は減少してしまう。この不均衡が褥瘡群での表皮の消失を招き,後の開放創形成に至るのではないかと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】本研究では,除神経が有毛部皮膚の表皮に与える影響を明らかにでき,表皮の代謝に重要な真皮最表層の毛細血管数を減少させることも明らかにできた。よって,本研究で使用した動物モデルは,末梢神経切断患者の褥瘡予防及び治療のための実験モデルとして有用である。
【方法】12週齢Wistar系雄性ラットを用いた。対照群(n=5)と褥瘡モデル作成する群(褥瘡群;n=25)を作成した。褥瘡モデルは長井ら(2010)の方法に倣い,両坐骨神経後に,踵部を常時接地するように軽度尾部懸垂を施し,片側下腿に錘負荷を行った。さらに坐骨神経切断による皮膚への影響を見るため,踵部を非荷重にするよう尾部懸垂を施す群(除神経群;n=25)を作成した。さらに,尾部懸垂の影響を見るため,坐骨神経を切断せず尾部懸垂を行う群(非荷重群;n=25)も作成した。上記条件下で飼育後1,3,5,7,14日の時点において,屠殺後に踵部皮膚を切り出し,冷アセトンを用いて凍結した。クリオスタットを用い12µmの縦断切片を作製し,Hematoxylin-Eosin染色を施して形態学的観察を行うとともに,Alkaline Phosphatase染色を試みて,毛細血管の分布を観察し,単位面積当たりの毛細血管数を数えた。
【倫理的配慮,説明と同意】全ての実験は所属機関における動物実験に関する指針に従い,動物実験委員会の許可を得た上で実施した。
【結果】褥瘡群の表皮は1日目から3日目まで圧迫部直下で厚みを増し,基底層や有棘層で細胞の増加が観察された。その後7日目まで皮膚に変化はみられなかった。また,3日目から14日目まで褥瘡群の真皮の膠原線維は減少していた。褥瘡群の表皮は7日目以降厚さが減少し,14日目において表皮が消失し,開放創の形成に至った。除神経群では,飼育開始3日目から5日目まで表皮の厚さが減少し,その後14日目までは変化はみられなかった。非荷重群では皮膚に変化は認められなかった。褥瘡群の真皮最表層の毛細血管数は3日目から減少し始め,14日目に毛細血管が消失した。除神経群の同部の毛細血管は飼育後7日目に減少し,その後14日目まで変化はみられなかった。非荷重群は毛細血管数に変化は見られなかった。
【考察】非荷重群では皮膚に影響が無かったが,除神経群では表皮が菲薄化した。すなわち,除神経により有毛型皮膚でも表皮の菲薄化が生じることが明らかになった。除神経群の表皮の菲薄化は3日目から起こり,7日目になると真皮最上層の毛細血管が減少した。血管を支配する交感神経は動脈壁を走行するため,坐骨神経切断では損傷されない。よって7日目以降の毛細血管数減少は,3日目から起こっている表皮の菲薄化に応じて細胞の代謝量が減少し,それに伴う反応として起こったものであろうと思われる。一方,坐骨神経切断に錘負荷を加えた褥瘡群では,3日目から圧迫部直下で表皮は肥厚したが,これは物理的刺激に対する反応であろうと思われる。しかし,同時期に褥瘡群では真皮最上層の毛細血管数が減少し,さらに同時期に,褥瘡群の真皮は膠原線維が減少していた。よって,真皮の構造が破綻した結果,真皮内の毛細血管が減少した可能性が示唆された。ヒト褥瘡の形成機序において,外力により軟部組織の血流が持続的に低下し,阻血状態に陥る事が報告されている(Peirce et al., 2000)。本褥瘡モデルでは,3日目以降に起こる表皮の肥厚化に伴い細胞の代謝需要が増加する一方で,同じ時期に真皮最上層の毛細血管は減少してしまう。この不均衡が褥瘡群での表皮の消失を招き,後の開放創形成に至るのではないかと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】本研究では,除神経が有毛部皮膚の表皮に与える影響を明らかにでき,表皮の代謝に重要な真皮最表層の毛細血管数を減少させることも明らかにできた。よって,本研究で使用した動物モデルは,末梢神経切断患者の褥瘡予防及び治療のための実験モデルとして有用である。