第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 基礎理学療法 ポスター

人体構造・機能情報学4

Sat. May 31, 2014 1:00 PM - 1:50 PM ポスター会場 (基礎)

座長:黒木裕士(京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻運動機能解析学分野)

基礎 ポスター

[0948] バイオマーカーCOMP mRNA発現量から比較した前方引き出しの制動が膝OAに与える影響

中島彩1, 金村尚彦1, 国分貴徳1, 村田健児2, 森下佑里1, 吉野晃平1, 高柳清美1 (1.埼玉県立大学保健医療福祉学部理学療法学科, 2.埼玉県立大学大学院保健医療福祉学研究科リハビリテーション学専修)

Keywords:関節制動, COMP, 変形性膝関節症

【はじめに,目的】変形性膝関節症(osteoarthritis;膝OA)は運動器疾患のうちで患者数の多い疾患のひとつであるにも関わらず,明確かつ早期での臨床診断はいまだ確立されていない。現在膝OAの診断のひとつの方法として期待されているのがバイオマーカーである。膝OAの発症の可能性の高さや患者数を考慮すると,簡易な手法で同定することは極めて重要である。バイオマーカーのうち,特に膝OAの診断・進行予測に有力とされているのがcartilage origomeric matrix protein(COMP)である。わが国の大規模住民コホートにおける血清COMP濃度と膝OAとの関係の調査では,Kellgren&Lawrence(K-L)分類による病期の進行とともに血清COMP濃度の上昇をきたすことが明らかとなり,血清COMPが膝OAの病態の進行を密接に反映していることが示されている。膝OAはメカニカルストレスの貯蓄を受けて,関節軟骨の変性・破壊および骨棘の形成を生じるが,異常な関節病態運動である膝関節の前方引き出しの制動がCOMPの発現にどのような影響をもたらしているか明らかになっていない。本研究では,バイオマーカーとしてのCOMP mRNA発現量から関節制動が膝OAの進行に与える影響を明らかにすることを目的とした。
【方法】Wistar系雄性ラット29匹を対象とし,術後2週15匹と術後4週14匹のグループに分けた。さらにACL transection(ACLT)群9匹,関節制動群10匹,Sham群10匹に分類した。ACLT群では右膝関節の関節包をメスにて切開し,ACLを完全に切断した。ACL切断後は関節包,皮膚の縫合を行った。関節制動群では,外科的にACLを完全に切断後,脛骨に骨孔を作成した。その後,同部と大腿遠位部後面にナイロン糸を通してループを形成し,脛骨の前方引き出しを制動した。Sham群では,骨孔の作成と関節包の切開を行い,ACLには介入を行わずに関節包,皮膚の縫合を行った。術後すべてのラットにおいて,飼料や水は自由に摂取させた。実験終了後,シリンジを用いて心臓より直接血液を採取し,RNA protect Animal Blood Tube(Qiagen)にて血液を安定化させた。その後,RNeasy Protect Animal Blood Kit(Qiagen)に従い,total RNAを抽出した。逆転写反応により作成したcDNAを鋳型とし,リアルタイムPCR法(ΔΔCt法)にて発現量を検討した。ターゲット遺伝子はCOMP,内部標準遺伝子は,beta actinを用いた。各群のmRNA発現量を比較するために二元配置分散分析を用い,下位検定にはBonferroni法による多重比較を用いた。有意水準は5%未満とした。COMP mRNAは他の2群と比較して,Sham群で有意に多く発現した。Sham群を1としたときにACLT群で0.42倍,関節制動群で0.34倍の発現量であった(P<0.05)。COMP mRNA発現量の経時変化においては,有意差を認めなかった。また,各群の大腿骨・脛骨の接合面を肉眼で観察し,Sham群と比較すると,ACLT群では明らかな軟骨の変性を確認することができた。
【倫理的配慮,説明と同意】本実験は,大学動物実験倫理審査委員会の承認を得て行った。
【結果】COMP mRNAは他の2群と比較して,Sham群で有意に多く発現した。Sham群を1としたときにACLT群で0.42倍,関節制動群で0.34倍の発現量であった(P<0.05)。COMP mRNA発現量の経時変化においては,有意差を認めなかった。また,各群の大腿骨・脛骨の接合面を肉眼で観察し,Sham群と比較すると,ACLT群では明らかな軟骨の変性を確認することができた。
【考察】COMP mRNA発現量がSham群で有意に多かったことからは,健常関節や滑膜にもCOMPは存在しているため,Sham群に発現したことが考えられる。また,今回のSham群以外では組織損傷が大きく,炎症系サイトカイン等の因子がCOMPの発現を上回り,検出量が低量であった可能性も考えた。ACLT群では,COMP mRNA発現量は少なかったが,明らかな軟骨の変性を肉眼で確認できたことから,COMPは発現しているものの,タンパクの合成が翻訳レベルで調節を受けていたことや,軟骨の変性が軽度で,血液中へのCOMPの流出が少なかったため,バイオマーカーとして検出量も少なかったのではないかと推察された。今後の課題として,COMPのタンパク合成の調節が転写レベルと翻訳レベルのどちらで行われているのかを明らかにするためにCOMPタンパク量の測定を行うこと,血液中への流出量が少なかったのか,関節組織内でもCOMPの発現量について明らかにするために関節軟骨組織におけるCOMP発現量を比較検討する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】膝OAにおいてK-L分類と関連性が示されているCOMPを用いることで,発現量が膝OAの進行を表すことがわかる。そこで,血液におけるCOMP濃度の測定で正常な関節運動を目指した運動療法により,膝関節制動が膝OAの進行抑制に効果を発揮しているか明らかにできる可能性がある。