第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 内部障害理学療法 ポスター

循環3

Sat. May 31, 2014 1:00 PM - 1:50 PM ポスター会場 (内部障害)

座長:櫻田弘治(心臓血管研究所リハビリテーション室)

内部障害 ポスター

[0951] 心疾患者における家庭で行う運動の検討

荒木真由美1, 畑本陽一1, 桧垣靖樹2,3, 清永明2,3, 田中宏暁2,3 (1.福岡大学大学院スポーツ健康科学研究科, 2.福岡大学スポーツ科学部, 3.福岡大学身体活動研究所)

Keywords:心疾患, 歩行運動, ターン

【はじめに,目的】
平成17年厚生労働省による患者調査によると,わが国における虚血性心疾患の総患者数は約86万人であり,心不全有病者数も含めるとさらに多くの心疾患者がいることが推定される。回復期・維持期の心疾患者においても運動療法を主体とした心臓リハビリテーションで,死亡率や心筋梗塞再発の減少が報告されているが,日本では退院後に心臓リハビリテーションを行っている施設,あるいは推奨されるプログラムはまだ少ない。また,自宅での運動が継続できない理由として,天候・気温の変動や運動する時間の確保ができないなどの問題がある。本研究は,ターンを使用した歩行(スローシャトルウォーキング:SSW)が,心疾患を持つ個人に合わせた最適な運動となるか検討することを目的とした。
【方法】
対象者は21歳から35歳までの健常成人10名(男性5名:24.2±5.2歳,女性5名:26.2±6.1歳)である。
対象者は,2m,3m,5mの各距離をそれぞれ速さ2kg/時,3kg/時,4kg/時で各4分間の歩行を計9セッション行った。歩行速度はメトロノーム(DM-17 Seiko Digital Metronome;Seiko Corporation,東京)を使用して制御した。ターン回数は,距離と速度によって異なり,2mの距離では1分間あたり17,25,33回,3mではそれぞれ11,17,22回,5mでは7,10,13回であった。ターンの方法は180°ターンを採用し,対象者に運動前に指導した。
対象者は実験開始3時間前より絶食とした。運動中はフェイスマスクを着用し,呼気ガスを採取した。呼気ガス分析は,ARCO2000(ARCO System,千葉)により12秒間隔で計測し,各セッション最終1分の酸素摂取量(VO2)の平均値を各運動負荷に対するVO2として採用した。各セッションの最終1分にPolar HR monitor(CE0537;Polar Electro,Kempele,Finland)で心拍数(HR)の計測と,主観的運動強度(RPE)をBorg指数により確認した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は当法人倫理審査委員会における承認を受けるとともに,すべての対象者には本実験の開始前に,各課題のプロトコルおよび実験に伴う危険性と利益に関する詳細な説明を行い,インフォームドコンセントを得た。
【結果】
同じ速度の歩行でも,歩行距離が短くターンの回数が多いほどVO2が高かった。また,同じターン回数では歩行速度が速いほどVO2が高かった。各セッションにおけるVO2の平均値を代謝当量(1METをVO2;3.5ml/kg/minとする)に変換して以下に示す。2km/時の歩行では2mで3.0 METs,3mで2.7 METs,5mで2.7 METsであり,3km/時の歩行では2mで4.5 METs,3mで3.9 METs,5mで3.0 METs,4km/時の歩行では2mで5.8 METs,3mで5.6 METs,5mで4.1 METsであった。
【考察】
心疾患者に対する運動処方としてはRPEやHRを用いる方法,また身体活動のMETs表(国立健康・栄養研究所)を用いた運動処方を行うことが多い。しかし,処方薬によりHRでの処方が困難となるケースや,対象者の自覚強度に依存することで目的とする運動強度に至らないなどのケースもあり,少なからず問題を抱えている。
今回,180°ターンによるエネルギーコストに着目し,室内で行いやすいSSWについて検討した。ターン動作は,方向転換時に減速・加速局面を含む動作であり,その際に多くの筋収縮を伴うため,ターンなしの運動と比較するとエネルギーコストが高いことが先行研究から明らかとなっているが,時速2~4kmの低速度歩行でのターンコストについて研究したものはない。今回,低速度歩行であってもランニングやそのほかのスポーツと同様に,ターンによるエネルギーコストが増大する結果となった。
本研究により,歩行という安全な運動手段を用いても,歩行距離と速度の工夫,ターンを利用することでより高強度の運動が処方できることが明らかとなった。運動療法の対象をNYHA分類II~III度の心疾患者とすると,室内でも容易に最適な運動強度を処方できるため,心疾患者のための家庭における運動形態の一つとして用いることが可能であることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
今回,心疾患者の家庭における運動療法の一つの方法として,距離・速度を設定した歩行運動SSWを提案した。運動強度の設定はRPEやHRを目安にする場合が多いが,その利点の一方で目的とする運動強度での運動遂行が困難となるケースもある。本研究は,心疾患を持つ個人に合わせて最適な運動強度を処方するための一助になると考える。