[0953] 一般型デイサービス利用者の身体機能の経年的推移について
キーワード:デイサービス, 身体機能, 縦断調査
【はじめに,目的】
介護保険で利用できる居宅サービスの一つである通所介護(以下デイサービス)は,入浴・排泄・食事の介護や機能訓練などのサービスの他,他者との交流の場を提供し,心身機能の維持・向上や社会的孤立感の解消を支援することを目的としている。デイサービスの事業所数は年々増加しており,規模の大小,サービス提供時間の長短,重点を置いているサービスの違いなどにより,その事業形態も多岐にわたっている。これまでの研究で,積極的な運動介入が歩行能力や生活機能の維持・向上,要介護状態への重度化予防に繋がるという報告は見られるものの,追跡期間が一年以内のものが多く,一般型のデイサービスを長期にわたり利用することが,要支援・要介護者の身体機能に与える影響を検証した報告は少ない。そこで本研究では,デイサービスを長期間利用している要支援・要介護者の身体機能の推移を把握し,通所による効果を検証することを目的とした。
【方法】
2006年4月から2010年10月の間に,東京都新宿区のデイサービスセンターにて個別機能訓練計画の初期評価として体力測定を行い,その後3年以上デイサービスの利用を継続した要支援・要介護者60名(男性16名,女性44名)を対象とした。デイサービスにおいては送迎,体操,レクリエーションの実施や,身体状況に応じて食事,入浴,排泄など日常生活動作の介助を行い,一般的なサービスを提供するとともに,一部希望者に対してはリハビリテーション専門職による理学療法,言語聴覚療法を実施した。身体機能評価は,体重,握力,5m歩行時間(快適,最速),30秒椅子立ち上がりテスト(CS-30)とし,初期評価時から1年毎の体力測定の数値の経年的推移を比較した。また,初期評価時と3年経過時の要介護度を比較して,要介護度が維持・改善されていた群と重度化した群の二層に層別化した分析も実施した。統計的手法には反復測定による一元配置分散分析を用いて,有意水準を5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には利用開始時にデイサービスでの援助計画について口頭および書面を用いて説明するとともに,調査及び個人が特定されないようデータ分析を行う旨を同様に説明し,同意を得ている。
【結果】
初期評価における対象者の年齢は78.5±7.7歳(mean±SD),初期評価時における要介護度の内訳は要支援2が2名,要介護1・2・3・4・5がそれぞれ28名・12名・12名・4名・2名であり,3年後の要介護度の変化については,改善7名,維持25名,重度化28名であった。身体機能評価においてはいずれの項目においても,有意差は見られなかった。また,要介護度の変化別の検討でも,維持・改善群,重度化群ともに有意な経年的変化は見られなかった。
【考察】
加齢による心身機能の低下や疾患など,何らかの原因で要介護状態に陥ると,生活範囲が縮小して自宅に閉じこもることが多くなり,廃用性のさらなる機能低下を招くという悪循環が生じやすい。しかし,本研究からデイサービスなどの通所サービスを利用することにより,要介護状態であっても長期にわたり歩行能力など身体機能の低下を予防できることが示唆された。デイサービスの基本的な役割は日常生活上の支援であるが,「何でもやってあげる」という一方的に援助するだけでは要支援・要介護者の残存能力を引き出せず,却って機能低下を進行させてしまう危険がある。移動・移乗をはじめ,日常生活動作を行う際に残存能力を活用できるような介助を行なったり,食事の配膳や掃除などの作業を手伝ってもらったりする他,対象者の機能に応じた運動プログラムを実施するなど,一日を通して適切なサービスを提供することによって身体活動量が確保でき,筋力や歩行機能の維持に繋がったと推察される。身体機能が維持されていた一方で,要介護度は3年後には重度化している割合が高かった。当然ながら,要介護度の変化には歩行だけでなく,その他の日常生活動作の自立度や認知機能が包括的に反映されている。これらの機能に対する評価を理学療法士などのリハビリテーション専門職が中心となって行い,介護職など他職種と連携して継続的にアプローチしていくことで,要介護度の重度化予防や生活支援の強化に繋がると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
デイサービスでの適切な援助の提供により,要支援・要介護者であっても身体機能を長期的に維持することが可能であることが示された。しかし,身体機能だけでなく要介護度の重度化を予防するためには,生活機能や認知機能の維持・向上が必要であり,理学療法士などリハビリテーション専門職が介入する意義は大きい。
介護保険で利用できる居宅サービスの一つである通所介護(以下デイサービス)は,入浴・排泄・食事の介護や機能訓練などのサービスの他,他者との交流の場を提供し,心身機能の維持・向上や社会的孤立感の解消を支援することを目的としている。デイサービスの事業所数は年々増加しており,規模の大小,サービス提供時間の長短,重点を置いているサービスの違いなどにより,その事業形態も多岐にわたっている。これまでの研究で,積極的な運動介入が歩行能力や生活機能の維持・向上,要介護状態への重度化予防に繋がるという報告は見られるものの,追跡期間が一年以内のものが多く,一般型のデイサービスを長期にわたり利用することが,要支援・要介護者の身体機能に与える影響を検証した報告は少ない。そこで本研究では,デイサービスを長期間利用している要支援・要介護者の身体機能の推移を把握し,通所による効果を検証することを目的とした。
【方法】
2006年4月から2010年10月の間に,東京都新宿区のデイサービスセンターにて個別機能訓練計画の初期評価として体力測定を行い,その後3年以上デイサービスの利用を継続した要支援・要介護者60名(男性16名,女性44名)を対象とした。デイサービスにおいては送迎,体操,レクリエーションの実施や,身体状況に応じて食事,入浴,排泄など日常生活動作の介助を行い,一般的なサービスを提供するとともに,一部希望者に対してはリハビリテーション専門職による理学療法,言語聴覚療法を実施した。身体機能評価は,体重,握力,5m歩行時間(快適,最速),30秒椅子立ち上がりテスト(CS-30)とし,初期評価時から1年毎の体力測定の数値の経年的推移を比較した。また,初期評価時と3年経過時の要介護度を比較して,要介護度が維持・改善されていた群と重度化した群の二層に層別化した分析も実施した。統計的手法には反復測定による一元配置分散分析を用いて,有意水準を5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には利用開始時にデイサービスでの援助計画について口頭および書面を用いて説明するとともに,調査及び個人が特定されないようデータ分析を行う旨を同様に説明し,同意を得ている。
【結果】
初期評価における対象者の年齢は78.5±7.7歳(mean±SD),初期評価時における要介護度の内訳は要支援2が2名,要介護1・2・3・4・5がそれぞれ28名・12名・12名・4名・2名であり,3年後の要介護度の変化については,改善7名,維持25名,重度化28名であった。身体機能評価においてはいずれの項目においても,有意差は見られなかった。また,要介護度の変化別の検討でも,維持・改善群,重度化群ともに有意な経年的変化は見られなかった。
【考察】
加齢による心身機能の低下や疾患など,何らかの原因で要介護状態に陥ると,生活範囲が縮小して自宅に閉じこもることが多くなり,廃用性のさらなる機能低下を招くという悪循環が生じやすい。しかし,本研究からデイサービスなどの通所サービスを利用することにより,要介護状態であっても長期にわたり歩行能力など身体機能の低下を予防できることが示唆された。デイサービスの基本的な役割は日常生活上の支援であるが,「何でもやってあげる」という一方的に援助するだけでは要支援・要介護者の残存能力を引き出せず,却って機能低下を進行させてしまう危険がある。移動・移乗をはじめ,日常生活動作を行う際に残存能力を活用できるような介助を行なったり,食事の配膳や掃除などの作業を手伝ってもらったりする他,対象者の機能に応じた運動プログラムを実施するなど,一日を通して適切なサービスを提供することによって身体活動量が確保でき,筋力や歩行機能の維持に繋がったと推察される。身体機能が維持されていた一方で,要介護度は3年後には重度化している割合が高かった。当然ながら,要介護度の変化には歩行だけでなく,その他の日常生活動作の自立度や認知機能が包括的に反映されている。これらの機能に対する評価を理学療法士などのリハビリテーション専門職が中心となって行い,介護職など他職種と連携して継続的にアプローチしていくことで,要介護度の重度化予防や生活支援の強化に繋がると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
デイサービスでの適切な援助の提供により,要支援・要介護者であっても身体機能を長期的に維持することが可能であることが示された。しかし,身体機能だけでなく要介護度の重度化を予防するためには,生活機能や認知機能の維持・向上が必要であり,理学療法士などリハビリテーション専門職が介入する意義は大きい。