[0960] 人工膝関節全置換術患者における歩行満足度に関与する身体機能因子についての検討
キーワード:人工膝関節全置換術, 歩行, 満足度
【はじめに,目的】当大学附属4病院リハビリテーション科では人工膝関節全置換術(以下TKA)を施行した患者の治療および評価の標準化に向け,経時的データが蓄積可能な評価表およびデータベースを作成しH22年4月より運用を開始している。本評価表は身体機能評価表と,患者による5段階の主観的評価表(以下問診表)からなり,身体機能だけでなく患者満足度の評価が可能となっている。これまでTKA患者における主観的な満足度やQOLに関する報告,満足度と単一の身体機能との関係性などの報告はなされているが,患者の主観的な歩行満足度と複数の身体機能因子による関連性の検討はあまりなされていない。そこで本研究では,我々の作成した評価表を用いてTKA患者の術前,術後における歩行満足度にはどのような身体機能因子が関与するのかを検討することとした。
【方法】研究デザインはデータベースからの後方視的調査である。対象はH22年4月からH25年8月までに当大学附属4病院で変形性膝関節症と診断されTKAを施行し,術前,および術後3週,術後8週,術後12週のいずれかの時期に測定項目が評価可能であった456例(術前:男性28例,女性84例,平均年齢74.7±7.8歳,術後:男性71例,女性273例,平均年齢74.3±6.9歳)とした。なお,再置換術,両側同時TKA,プロトコール逸脱症例は除外した。測定項目は機能評価として1)術側膝屈曲可動域,2)術側膝伸展可動域,3)術側膝伸展筋力(Nm/kg):アニマ社製μ-TAS F-1を使用し端坐位,膝関節60°屈曲位にて最大筋力を2回測定し平均値を採用,4)術側膝屈曲筋力(Nm/kg):測定方法は3)に同じ,5)5m歩行時間,6)Timed Up and Go Test(以下TUG):2回計測しその平均値を採用,7)Quick Squat回数:膝関節屈曲60°までのスクワットの10秒間での施行回数を2回測定し平均値を採用,8)疼痛:Visual Analogue Scale(以下VAS)を使用,を調査した。歩行満足度は問診表より「歩く」とうい質問項目に対して5点「楽に出来る」~1点「できない・やっていない」の5段階の主観的評価により回答を得た。統計学的解析は,歩行満足度として問診表の5段階評価の回答を従属変数,上記8項目の機能評価を独立変数とした変数増減法による重回帰分析を行い,歩行満足度に影響を与える機能因子を検討した。統計解析ソフトはSPSS(ver.16)を使用した。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は本学倫理委員会の承認を得て,ヘルシンキ宣言に則り実施した。
【結果】歩行満足度は術前2.9±1.1,術後3.5±1.1であった。重回帰分析の結果,歩行満足度に影響を与える因子として,術前ではVAS(63.6±23.8),5m歩行時間(5.2±2.2秒)が抽出され標準偏回帰係数はそれぞれ-0.396,-0.231であった(R2=0.47 ANOVA p<0.001)。術後ではVAS(36.4±23.1),5m歩行時間(5.2±2.4秒),QS回数(9.4±3.5回)が抽出され標準偏回帰係数はそれぞれ-0.399,-0.262,-0.124であった(R2=0.60 ANOVA p<0.001)。
【考察】術前,術後ともVASと5m歩行時間が抽出された。TKAは除痛を目的として行われる手術であるため,疼痛の程度が歩行満足度に影響を与えると考えられる。そのため,理学療法施行時には疼痛の程度やその原因を明確にし,除痛に対して介入することの必要性が改めて示された。5m歩行時間は歩行能力を表す質的な評価指標であり,さらに,歩行時間の向上は屋外活動につながるため,主観的な満足度にも影響すると考えられる。術後にはQS回数が抽出された。QSは歩行にも認められている伸張-短縮サイクル運動であり,我々は第47回日本理学療法学術大会において,TKA患者のQS回数が歩行速度およびTUGに相関が認められることを報告しQSの有用性を示している。本結果でも同様に歩行動作との関連から,歩行の主観的満足度にも影響したと考えられる。今回の結果では,標準偏回帰係数は術前後とも高い数値を示すものはなかった。これは歩行満足度が主観的であり,症例によりその評価基準や背景因子が異なることから,多くの因子の影響を受ける可能性が考えられること,また患者の主観的な評価を理学療法士が評価する機能面から検討することの難しさを表していると考える。しかしながら,今回抽出された機能因子は理学療法でアプローチが可能な因子であり,これらの因子へ介入することが歩行満足度の向上につながることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】TKA患者における歩行満足度は疼痛や歩行時間ならびにQSの影響を受ける結果となった。歩行満足度の向上には歩行能力自体に対するプログラムだけでなく疼痛に対するプログラムの重要性が示唆され,本研究はTKA患者の理学療法プログラム立案の一助になると考えられる。
【方法】研究デザインはデータベースからの後方視的調査である。対象はH22年4月からH25年8月までに当大学附属4病院で変形性膝関節症と診断されTKAを施行し,術前,および術後3週,術後8週,術後12週のいずれかの時期に測定項目が評価可能であった456例(術前:男性28例,女性84例,平均年齢74.7±7.8歳,術後:男性71例,女性273例,平均年齢74.3±6.9歳)とした。なお,再置換術,両側同時TKA,プロトコール逸脱症例は除外した。測定項目は機能評価として1)術側膝屈曲可動域,2)術側膝伸展可動域,3)術側膝伸展筋力(Nm/kg):アニマ社製μ-TAS F-1を使用し端坐位,膝関節60°屈曲位にて最大筋力を2回測定し平均値を採用,4)術側膝屈曲筋力(Nm/kg):測定方法は3)に同じ,5)5m歩行時間,6)Timed Up and Go Test(以下TUG):2回計測しその平均値を採用,7)Quick Squat回数:膝関節屈曲60°までのスクワットの10秒間での施行回数を2回測定し平均値を採用,8)疼痛:Visual Analogue Scale(以下VAS)を使用,を調査した。歩行満足度は問診表より「歩く」とうい質問項目に対して5点「楽に出来る」~1点「できない・やっていない」の5段階の主観的評価により回答を得た。統計学的解析は,歩行満足度として問診表の5段階評価の回答を従属変数,上記8項目の機能評価を独立変数とした変数増減法による重回帰分析を行い,歩行満足度に影響を与える機能因子を検討した。統計解析ソフトはSPSS(ver.16)を使用した。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は本学倫理委員会の承認を得て,ヘルシンキ宣言に則り実施した。
【結果】歩行満足度は術前2.9±1.1,術後3.5±1.1であった。重回帰分析の結果,歩行満足度に影響を与える因子として,術前ではVAS(63.6±23.8),5m歩行時間(5.2±2.2秒)が抽出され標準偏回帰係数はそれぞれ-0.396,-0.231であった(R2=0.47 ANOVA p<0.001)。術後ではVAS(36.4±23.1),5m歩行時間(5.2±2.4秒),QS回数(9.4±3.5回)が抽出され標準偏回帰係数はそれぞれ-0.399,-0.262,-0.124であった(R2=0.60 ANOVA p<0.001)。
【考察】術前,術後ともVASと5m歩行時間が抽出された。TKAは除痛を目的として行われる手術であるため,疼痛の程度が歩行満足度に影響を与えると考えられる。そのため,理学療法施行時には疼痛の程度やその原因を明確にし,除痛に対して介入することの必要性が改めて示された。5m歩行時間は歩行能力を表す質的な評価指標であり,さらに,歩行時間の向上は屋外活動につながるため,主観的な満足度にも影響すると考えられる。術後にはQS回数が抽出された。QSは歩行にも認められている伸張-短縮サイクル運動であり,我々は第47回日本理学療法学術大会において,TKA患者のQS回数が歩行速度およびTUGに相関が認められることを報告しQSの有用性を示している。本結果でも同様に歩行動作との関連から,歩行の主観的満足度にも影響したと考えられる。今回の結果では,標準偏回帰係数は術前後とも高い数値を示すものはなかった。これは歩行満足度が主観的であり,症例によりその評価基準や背景因子が異なることから,多くの因子の影響を受ける可能性が考えられること,また患者の主観的な評価を理学療法士が評価する機能面から検討することの難しさを表していると考える。しかしながら,今回抽出された機能因子は理学療法でアプローチが可能な因子であり,これらの因子へ介入することが歩行満足度の向上につながることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】TKA患者における歩行満足度は疼痛や歩行時間ならびにQSの影響を受ける結果となった。歩行満足度の向上には歩行能力自体に対するプログラムだけでなく疼痛に対するプログラムの重要性が示唆され,本研究はTKA患者の理学療法プログラム立案の一助になると考えられる。