[0962] 人工膝関節全置換術患者の主観的な「膝の状態」と身体的要因の関連性
キーワード:人工膝関節全置換術, 主観的評価, 機能評価
【目的】人工膝関節全置換術(以下TKA)施行後の患者に対する理学療法施行時において,「膝の調子はどうですか」などの問診により患者の膝の状態を把握しようとすることが日常的な臨床場面では認められる。我々は,患者が自身の「膝の状態」をどのように感じているのかを把握するために,患者の主観的な「膝の状態」を評価している。我々が2010年4月より本学附属の4病院(以下4病院)にて用いている,TKA患者を対象にした評価表は,理学療法士が評価する機能評価表および患者が主観的に評価する問診票で構成されている。問診票による「膝の状態」の評価方法は,5:満足~1:不満足の5段階スケールにて評価している。しかしながら,TKA患者が感じる主観的な「膝の状態」はどのような身体的要因によって影響されるのかは明確となっておらず,本研究では,TKA患者における「膝の状態」に対する主観的評価と関連する身体的要因を明らかにすることを目的とする。
【方法】対象は2010年4月から2013年8月までに4病院でTKAを施行され,術後3週,術後8週,術後12週のいずれかの時期に調査項目が評価可能であった315例とした。なお,両側同時TKA,再置換例は除外した。機能評価表の調査項目は,5m歩行時間,Quick Squat(以下QS)回数,Timed Up&Goテスト(以下TUG),術側JOA,膝の疼痛の有無,術側膝屈曲ROM,術側膝伸展ROM,術側膝屈曲筋力,術側膝伸展筋力の9項目とした。QS回数,TUG,筋力(Nm/kg)は各々2回測定し平均値を求めた。QSは伸長-短縮サイクル(stretch-shortening cycle:以下SSC)運動の評価として取り入れており,膝関節屈曲60°までのスクワットを10秒間に出来るだけ早く行い,その回数を測定した。問診票の調査項目は「膝の状態」とし,5段階スケールのうち,4・5を膝の状態満足群,1・2を膝の状態不満足群の2群に分類した。また,5段階スケールの3の群は除外した(n=138)。統計解析としては,2群間における機能評価の測定値を対応のないt検定およびχ2検定にて比較した。その後,膝の状態の満足不満足を従属変数,2群間の比較にて有意差を認めた項目を独立変数とした尤度比変数減少法によるロジスティック回帰分析を行った。有意な変数として抽出された項目については,オッズ比(odds ratio:以下OR)を算出した。統計解析ソフトはSPSS(ver.20)を使用した。
【倫理的配慮】本研究は当学の倫理委員会の承認を受け,ヘルシンキ宣言に則り施行した。
【結果】「膝の状態」の非満足群は124名,満足群は191名であった。膝の状態の満足不満足によって分類した2群間で機能評価9項目を比較したt検定およびχ2検定の結果は,QS回数,術側JOA,術側膝伸展ROM,術側膝屈曲筋力,5m歩行時間,膝の疼痛の有無の6項目に有意差を認めた(いずれもp<0.01)。この6項目を従属変数としたロジスティック回帰分析の結果,モデルχ2検定はp<0.01で有意であり,判別的中率は71.4%であった。有意な変数として抽出された項目とそのORを以下に示す。QS回数で0.91,膝の疼痛の有無で6.8,術側膝伸展ROMで0.93であった(いずれもp<0.01)。
【考察】本研究の結果,TKA患者における「膝の状態」に対する主観的評価に関連する身体的要因としてQS回数,膝の疼痛の有無,術側膝伸展ROMが抽出された。中でも膝の疼痛の有無は最も「膝の状態」との関連が強い結果となった。患者は除痛を望んでTKAを受ける場合が多いため,疼痛の状況が「膝の状態」に影響を及ぼすのだと考えられる。そのため,TKA患者が感じる主観的な「膝の状態」を改善するためには,疼痛の除去を目的とした介入が必要であることが改めて示された。術側膝伸展ROMは,完全伸展が得られなければ立ち姿などの容姿の問題や,歩行能力にも影響を及ぼすと予測され,そのことが「膝の状態」と関連を持つ結果になったと考える。QSは幅広い動作において認められているSSC運動であり,我々は,第48回日本理学療法学術大会においてTKA患者の満足度とQSが相関を示すことを報告した。このことからも,QSが主観的な「膝の状態」に影響したのだと考える。今回,患者の主観的な評価である「膝の状態」を,理学療法士が評価する機能評価の側面から捉える試みをした。患者の主観には身体機能面や精神面から社会背景まで多くの因子が影響を及ぼすと考えられるが,今回の結果,上記3項目が「膝の状態」に影響を及ぼす結果となり,機能評価の側面からもTKA患者の主観的な評価を捉えられる可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】TKA患者の「膝の状態」に対する主観的評価に関連する身体的要因を抽出することが出来た。患者の主観的な評価の影響を理学療法士が評価する機能的な評価から検討することは理学療法学的研究として意義があると考える。
【方法】対象は2010年4月から2013年8月までに4病院でTKAを施行され,術後3週,術後8週,術後12週のいずれかの時期に調査項目が評価可能であった315例とした。なお,両側同時TKA,再置換例は除外した。機能評価表の調査項目は,5m歩行時間,Quick Squat(以下QS)回数,Timed Up&Goテスト(以下TUG),術側JOA,膝の疼痛の有無,術側膝屈曲ROM,術側膝伸展ROM,術側膝屈曲筋力,術側膝伸展筋力の9項目とした。QS回数,TUG,筋力(Nm/kg)は各々2回測定し平均値を求めた。QSは伸長-短縮サイクル(stretch-shortening cycle:以下SSC)運動の評価として取り入れており,膝関節屈曲60°までのスクワットを10秒間に出来るだけ早く行い,その回数を測定した。問診票の調査項目は「膝の状態」とし,5段階スケールのうち,4・5を膝の状態満足群,1・2を膝の状態不満足群の2群に分類した。また,5段階スケールの3の群は除外した(n=138)。統計解析としては,2群間における機能評価の測定値を対応のないt検定およびχ2検定にて比較した。その後,膝の状態の満足不満足を従属変数,2群間の比較にて有意差を認めた項目を独立変数とした尤度比変数減少法によるロジスティック回帰分析を行った。有意な変数として抽出された項目については,オッズ比(odds ratio:以下OR)を算出した。統計解析ソフトはSPSS(ver.20)を使用した。
【倫理的配慮】本研究は当学の倫理委員会の承認を受け,ヘルシンキ宣言に則り施行した。
【結果】「膝の状態」の非満足群は124名,満足群は191名であった。膝の状態の満足不満足によって分類した2群間で機能評価9項目を比較したt検定およびχ2検定の結果は,QS回数,術側JOA,術側膝伸展ROM,術側膝屈曲筋力,5m歩行時間,膝の疼痛の有無の6項目に有意差を認めた(いずれもp<0.01)。この6項目を従属変数としたロジスティック回帰分析の結果,モデルχ2検定はp<0.01で有意であり,判別的中率は71.4%であった。有意な変数として抽出された項目とそのORを以下に示す。QS回数で0.91,膝の疼痛の有無で6.8,術側膝伸展ROMで0.93であった(いずれもp<0.01)。
【考察】本研究の結果,TKA患者における「膝の状態」に対する主観的評価に関連する身体的要因としてQS回数,膝の疼痛の有無,術側膝伸展ROMが抽出された。中でも膝の疼痛の有無は最も「膝の状態」との関連が強い結果となった。患者は除痛を望んでTKAを受ける場合が多いため,疼痛の状況が「膝の状態」に影響を及ぼすのだと考えられる。そのため,TKA患者が感じる主観的な「膝の状態」を改善するためには,疼痛の除去を目的とした介入が必要であることが改めて示された。術側膝伸展ROMは,完全伸展が得られなければ立ち姿などの容姿の問題や,歩行能力にも影響を及ぼすと予測され,そのことが「膝の状態」と関連を持つ結果になったと考える。QSは幅広い動作において認められているSSC運動であり,我々は,第48回日本理学療法学術大会においてTKA患者の満足度とQSが相関を示すことを報告した。このことからも,QSが主観的な「膝の状態」に影響したのだと考える。今回,患者の主観的な評価である「膝の状態」を,理学療法士が評価する機能評価の側面から捉える試みをした。患者の主観には身体機能面や精神面から社会背景まで多くの因子が影響を及ぼすと考えられるが,今回の結果,上記3項目が「膝の状態」に影響を及ぼす結果となり,機能評価の側面からもTKA患者の主観的な評価を捉えられる可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】TKA患者の「膝の状態」に対する主観的評価に関連する身体的要因を抽出することが出来た。患者の主観的な評価の影響を理学療法士が評価する機能的な評価から検討することは理学療法学的研究として意義があると考える。